第128話 おっさん、無言の行を破る

 トコトコと馬車が歩く男達の後を追う。

 街道はそれなりに交通量もあり、何台かの馬車ともすれ違った。

 どこでこいつらは盗賊に戻るのだろうか。

 人目のある所は避けるだろうから、夜かな。

 夜まで待つなんて時間の無駄だ。

 でも街道を逸れる言い訳は難しい。


 お花摘みは護衛である俺がついて行くのはおかしい。

 と思ったらちょうどいい獣道がある。

 大型のモンスターの獣道の幅は馬車がかろうじて通れるぐらいにはある。


 俺は御者台にいるパティに作戦をこっそり伝えた。


「みなさーん。近道をします。舗装していない道に入って下さい」

「おう、野郎ども、分かれ道だ」

「へい」


 上手くいった。

 盗賊どもが正体を現さなくても、賞金首が何人かいるから、あいつらに襲い掛かる事は問題ない。

 だが、盗賊達も手ぐすねを引いて待っていたようだ。

 突然、歩みを止めて馬車の前に立ちふさがった。


「一体なんのつもり」


 御者台のパティが芝居をする。


「有り金ぜんぶもらおう」


 もういいだろう。

 俺は荷台から飛び降りて奴らと対峙した。


「姐さん頼みます」

拘束バインド


 塩がジェリから飛んできて俺に絡みつく。

 もう喋ってもいいよな。


「ふん、こんなの無いも同然だ」


 俺は力を込めて、塩の束縛を解いた。


「うそっ、私の魔法が破られるなんて。射撃ショット。これでどう。ばかな、ダメージがないなんて」


 塩の結晶が飛んでくるが魔力壁があるのでダメージにはならない。


「お前らには寝てもらう」


 俺はトイレのすっぽんを出して、盗賊達を殴って回った。


「不味いわ。今捕まる訳には。ミスト


 乱戦の中でジェリが魔法を唱えると、塩が霧になって辺りを覆いつくした。

 霧が晴れるとジェリの姿はどこにもなかった。


「ちくしょう、やられた。油断した。それともあれか。無言の行を破ると願いが叶わないなんて言っちまったからか」


 あれは方便だったんだが。

 済んだ事は仕方ない。


 荷台の荷物をアイテムボックスに入れ、盗賊達を縛って積む。

 来た道を引き返し、街の門番に盗賊達を突き出した。


 さて、困ったぞ。

 ジェリは用心して出てこないだろう。

 もう今頃は他の街に行ったかも知れない。

 仕方ない。

 幼馴染だというマルコにジェリの情報を喋ってもらおう。


「マルコ、お前の幼馴染は大変な事をしでかしたぞ」

「えっ、ジェリが何か」

「仲間と組んで盗賊をやった」

「そんな、嘘だろう。あのジェリが」

「仲間は全て捕まったから、ジェリは指名手配されるはずだ。それは良いとして、あんたには紹介した責任を取ってもらう」

「何をすれば」

「ジェリの情報を全て吐け」

「分かった。知ってる事は話すよ」


「まず立ち寄りそうな場所だ」

「彼女の実家の商店は潰れてしまったから、今いる場所は俺には分からない」


「何の商売をしてたんだ」

「塩の小商いさ」


 ふーん、この線を手繰るのは無理そうだな。


「なんか、連絡を取る手段はないのか」

「うーん、あっ」

「なんだ、言えよ」

「子供の頃、街の外の道しるべに伝言を置いた事がある。彼女は塩の行商について行って、頻繁に街の外に出ていたから」

「まあ、駄目元だ。やってみるか。どこか、街の外でジェリと会える所がないか。人が知らない所だとさらに良い」

「子供の頃、遊んだ秘密基地がある。使ってない漁師小屋なんだが、今もあるはずだ」

「よし、そこだな」


 文面は『新規に立ち上げる店について話がある。ついては話し合いをしたい。子供の頃遊んだ秘密基地で正午に会おう』こんな感じでどうだ。


 マルコに聞いた道しるべに伝言の紙を置いて、石を三つ載せる。

 一日経って駄目だったら、諦めよう。


 一応、漁師小屋に下見に行く。

 中の床は腐っているが、壁と屋根はかろうじて無事だ。

 網の残骸が隅にひとまとめにしてある。

 良い事を思いついた。

 俺は漁師に会いに行き、使われなくなったボロボロの網を買い集めた。


 当日はこれを被って待ち構えよう。

 忍法破れ網隠れだ。


 次の日伝言を確認したら、紙はなくなっていた。

 ジェリが読んだのかは分からないが。

 急いで漁師小屋に行って、待ち構えないと。

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