第129話 おっさん、仇を捕まえる

 生臭いにおいのするボロボロの網を被って部屋の隅で待つこと2時間。

 誰かが漁師小屋に入ってきたようだ。

 網の隙間から覗くとマルコだった。

 マルコには昨日、ジェリを安心させるために来てくれと頼んでおいた。


 ほどなくしてジェリが恐る恐る入って来た。


「実は店の事なんだけど、露店で始めたんだ。親切な人に出資してもらったんだよ」

「えっ、苦労してやっと来た。私に言う言葉がそれ。私の苦労は何だったのよ」


「聞いたぞ。盗賊をやったんだってな。盗賊をやった金で店を開いて俺が嬉しいはずがない」

「何よ。私が悪いっての。君だけが頼りだって言うあの言葉は嘘だったの」

「あれは出資してくれる伝手がなくて、切羽詰まったっていたんだ」

「嘘だったと言うのね」


 俺は網をのけて立ち上がった。


「はい、そこまで」

「あんたはムニ。死んだはずじゃ」

「ジェリ、マルコが好きだったんだろ。あわよくばマルコと結ばれたい。そんな思惑が透けて見える」

「余計なお世話」


「まあいい。のこのこと出て来たからには、もう逃がさない」

拘束バインド


 塩がジェリから飛んできて俺に絡みつく。


「それは効かん」


 俺は塩の拘束を解いた。


「あんたもしかして、異国の戦士」

「良く分かったな」


「こうなったら。ミスト

「それも見た」


 俺はそばにあったボロボロの網を投げた。


「放せ。放しなさい」


 霧が晴れるとジェリはボロボロの網に絡まってもがいていた。


「大体だな。人から盗った金で幸せになろうっていうのが間違っている。寝とけ」


 トイレのすっぽんでジェリを殴り気絶させた。

 縄を掛け門番の所までジェリを担いで行く。


「昨日に引き続いて、盗賊の一味を捕まえてきた」

「それはご苦労様です」

「彼女には二三、聞きたい事があるんだが」

「尋問は我々で行いますと言うのは建前で、まだ盗賊の一味は捕まってません。手早くお願いします」

「ジェリ、起きろ」


「う、うーん。はっ、捕まってしまったのね」

「もうこうなったら、ダカードとヴィスの居所を喋ってから死ね。俺と親方に対する贖罪の意味もある」

「はぁ、いつかこんな日がくると思っていたわ。ヴィスは森林都市よ。ダカードの行先は分からない」

「それだけ聞けば十分だ。生まれ変わったら、今度はまっとうに生きるんだな」


 門番がジェリを連れて行く。

 半分か。

 やっと半分終わった。

 しかし、この虚しさは何だろう。

 ジェリをぶっ殺さなかったからか。

 それともこんな事をしても親方は戻ってこないからか。


 俺は癒しを求めて組長の所へ行った。

 子供の笑顔でも見て、虚しさをリセットしたいと思ったからだ。


「こんちは」

「おじさん、嫌い」

「もう騙されないから」

「あっち行って」


 どうしたって言うんだ。

 子供達に嫌われたみたいだ。


「おう、この間の伝言な。大変な事になったぞ。子供達が料理人達に泣かされてな」


 そう組長が疑問の答えをくれた。


「なんで」

「調味料の供給はもうしないのかと詰め寄られてな」

「それは済まなかった。お詫びに子供達に尻子玉えびせんを置いていくよ」


「お前さん、立つ鳥は跡を濁しちゃならん。始末をつけていきなさい」

「そうか。そうだよな。分かった」


 ダンジョンを制覇して魔力を吸い取り、一年分ぐらいの調味料を置いていこう。

 この世界にはバカンスでたまに来て、調味料を供給するとしよう。


 ああ、パティに状況を説明しないとだな。


「ジェリは門番に突き出した。ダカードの居所は分からない」

「そんな事だと思ったわ」

「もう一人のパーティメンバーが森林都市にいる。そこへ寄り道したい」

「仕方ないわね。寄りましょう」


「それとダンジョンを制覇する事になった。時間は掛けないでやるつもりだ。二日ほしい」

「元から10日の予定だったから、問題ないわ。本当は一刻も早くダカードの後を追いたいのだけれど」

「借金を返してもらうのに期限があるのか」

「うっかりね。さっきの言葉は忘れて」

「日にちを貰えるなら、俺に文句はない」


 なんか謎があるな。

 パティが急ぐ理由は何かな。

 考えたが、分からん。

 パティから言ってくれるまで待とう。

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