第111話 おっさん、ダンジョンを確かめる

 城壁の門をくぐると中はレンガの家が立ち並ぶ普通の街並みだった。

 しかし、街の中央を見ると高層ビルが立ち並んでいる。

 ものすごい場違い感だ。


「ねぇ、お姉さん。遺跡に住むには幾らぐらいの家賃がいるんだ」


 俺は露店でそう尋ねた。


「そうさねぇ、ピンキリだよ。10階より上はただみたいなもんさ」

「なんで」

「なんでかって、階段をへいこら上がるのは願い下げって事さ」

「ちなみに2階ぐらいだといかほど」

「ひと月に金貨10枚だね」


「ムニ、喋ってないで行くわよ」

「おう」


 宿は遺跡ではなく、普通のレンガの家だった。

 歩くと廊下の木の板がきしみギコギコと音を立てる。

 部屋の前に誰かくると接近がまる分かりで都合はよかったが、ぼろいという感は否めない。

 俺はパティと別れまずは噂話を集める事にした。


「へぇー、リータちゃんと言うのか。おじさんに街の噂話を教えてほしいな」


 この宿の娘を捕まえて飴玉を与えて話を聞き出そうとした。


「うーんとね。角の雑貨屋さんの嫁は鬼嫁なんだって」

「ええと発掘品関連で何かないかな」

「遺跡の部屋を涼しくしたりするのを取ってきたら、動かないんだって」


 遺跡の空調を取り外すのは駄目か。

 最初に考える事だよな。

 なにしろ10階より上はほとんど使ってないはずだからな。


「モンスターは街中には出没しないかな」

「昔は遺跡に居たモンスターが出てきたって、おばあちゃんが言ってた」

「酒場に行くならどこが良い」

「知らなーい」

「ありがとな」


 飴玉を与えるとリータは勢いよく駆け出して行った。

 こりゃ駄目だ。

 人選を間違えた。

 宿で唯一暇そうにしていたから捕まえてみたが、徒労だったな。


 ダカードの行きそうな所と言えば酒場だが、一体この街に幾つ酒場がある事やら。

 俺ってなんの役にも立たない。

 ぼやいていても仕方ない。

 さてどうやって情報を集めよう。

 ギルドに行っても無駄足な気がするが、あいつらは俺が死んだと思っているかもしれない。

 油断していれば或いは。


 ギルドに行ってダカード達が来ていないか確認した。

 やはりギルドには顔を出してないようだ。


 これは参ったな手づまりだな。

 パティの方も駄目だろうな。

 商人がいくら顔が広いからと言っても、冒険者一人に繋がる情報を持っているはずもない。


 ダンジョンに潜ってみるか。

 何もしないのも気ばかり焦る。


 俺はダンジョンに入った。

 出てきたのはカタツムリのモンスターだった。


 モンスターは俺を確認すると、殻に閉じこもった。

 なんだ楽勝だな。

 殻をメイスでぶち破れば終わりだ。

 ところがモンスターは殻の入口から毒液を吐いて飛ばしてきた。

 固定砲台かよ。


 ふん、甘いな。

 死角に回り込めば楽勝だ。


 俺が死角に回り込もうとすると、殻から出て来て向きを変えて閉じこもった。

 むかっー。

 しょうがない。

 俺は盾を装備して、モンスターに近寄った。

 盾に掛かる毒液。

 殻に接近してメイスを振り下ろした。


 硬い。

 物凄く硬い。

 レベル100超えのパワーでもヒビが入らない。


分解ディサセムブル


 殻を分解してやった。

 中身のほとんどナメクジ状態になったモンスターを討伐。

 このダンジョンは外れだな。

 それとも攻略法があるのだろうか。


 あいつらがこのダンジョンで攻略をするところが想像できない。

 あまりの稼ぎづらさに逃げだすに違いない。

 俺はダンジョンの入口で冒険者に話し掛けた。


「ここは稼げないと思うんだが、どうなんだ」

「そうだな。ハードスネイルを殺すには、殻の入口に火を突っ込まなきゃならん。しんどい仕事さ。毒を食らうなんて、しょっちゅうだ」

「松明を一本突っ込んだぐらいでは駄目そうだな」

「ああ、十は入れないとな」

「じゃあ火魔法使いでも連れて来ないとな」

「そんな奴は遺跡の探索に行ってるさ。だが、このダンジョンにも旨味がない訳じゃない。メタシン草というのが中に生えている。これが良い金になる」

「ダンジョンの中に草が生えているのか。土はダンジョンに吸収されるんじゃないのか」

「苔と一緒に共生してるんだ」

「メタシン草は高いのか」

「銀貨一枚だな」

「なるほど良い事を聞いた。じゃましたな」


 あいつらがメタシン草で地道に稼ぐ。

 ないな。

 あいつらはこのダンジョンにはいない。

 確信できる。

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