第107話 おっさん、復讐を誓う

 扉を開けた先はダンジョンコアだった。

 魔力吸い取りタイム発動。


 エリクサーなどポーション類を主に仕入れた。

 ダンジョンで拾ったと言い訳できるのがこれしかなかったからだ。


「ステータス」


――――――――――――――

名前:山田 無二 LV107

魔力:124/10700


スキル:

収納箱

魔力通販

次元移動

分解

想像強化

――――――――――――――


 おっ、魔力が一万を超えた。

 これで次元移動が使える。


 だが、帰る前にやる事がある。

 まずは俺を裏切ったあいつらをなんとかしたい。


 俺はダンジョンを出て街を目指した。

 道中出てくるモンスターも107レベルにとっては楽勝だった。

 あいつらは馬車で移動しているから、今頃は街で補給を済ませ逃げているところだろう。

 追いかけても良いんだが、結局助かった事だし、念願の大量レベルアップも出来た。

 感謝の念はないな。

 プラマイゼロだ。


 街のギルドに顔を出す。


「ムニさん、死んだとの届け出がありました。幽霊じゃないですよね」


 受付嬢にそんな事を言われた。


「罠に嵌められたんだよ。パーティの預金はどうなっている」

「全額おろされてます」


 これは想定していた。

 だが、パーティの預金はほとんどない。

 ダンジョン探索は赤字だったからな。

 俺が魔力通販で仕入れた品物を売って補填していたのをあいつらは知らない。


 そうだ、俺が死んだと聞いて親方が心配しているかも知れない。

 俺は親方の工房に急いだ。


 ドアを開けると血の臭いが漂ってきた。

 室内が物色された跡がある。

 奥の方に人が倒れているのが見えた。


 まさか。

 俺が駆け寄るとそれは親方だった。


「うぉーー、なぜ、なぜ、なぜ」


 俺は錯乱して立ち尽くした。

 はっと我に返る。

 仇を討たないと。

 まだ殺されてからそんなに経っていないようだ。


 死因は頭部を鈍器で一撃か。

 むっ、衣服に白い粉が付着している。

 なんだこれは。

 毒かな。

 某探偵ならペロッと行くところなんだが。

 俺は衣服に付いた粉を集めてビニール袋に入れた。


 指が潰された跡がある。

 拷問されたんだな。

 金のありかを吐かせるためだろうか。

 足跡を見る。

 工房の床には親方のを別にすると男女何人かの足跡があった。


 大きな足跡と普通の男の足跡。

 それに女性が二人だな。

 犯人像が少し見えた。

 素人にはこの辺りが限界だろう。

 警備兵に強盗に遭い親方が殺されたと届け出た。


「エリクサーを売ってくれるんですか」


 ギルドのカウンターで俺がエリクサーを売る事を申し出ると驚いた顔をされた。


「ああ、一本な」

「気をつけて下さい。エリクサーを売ったと評判が立つとチンピラがうるさいですよ」

「大丈夫だ。使い道は考えてある。みんな、エリクサーの金で親方の葬式をするぞ」


 この土地の葬式は飲んで歌って悲しみを忘れるという形式だ。


「惜しい人を亡くしたな。俺も親方には世話になった」


 この人は覚えている。

 自動小銃の弾薬をよく買いにきていた人だ。


「俺も面倒をみてもらって恩を返してないよ」

「立派な葬式を出してやったのだから、幾分かは返せたんじゃないかな。飲めよ。親方の冥福に乾杯」

「親方の冥福に乾杯」


 ギルドの酒場のあちこちで親方の冥福に乾杯という声が聞こえる。

 吟遊詩人が陽気な歌を歌う。

 俺はおひねりを投げてやった。


「親方が寂しくないように。賑やかにやってくれ」


 作り笑いの裏でふつふつと怒りがこみ上げる。

 絶対に仇は討つからな。

 天国で安らかに暮らしてくれ。


 三日三晩に渡って騒いだ葬式も終わり、俺は粉の分析にかかった。

 まずはリトマス試験紙。

 むっ、中性だな。

 次は動物実験だ。

 ヤギを買って来て粉をなめさせる。

 凄い勢いで舐めるヤギ。

 この粉はヤギの好物みたいに思える。


 ぐったりした様子のない事から毒物ではないようだ。

 意を決して舐めてみる事にした。

 しょっぱい。

 これは塩だな。

 事態を飲み込むのに数秒。

 あいつら、やりやがったな。


 ジェリの塩魔法で拘束をかけたに違いない。

 ヴィスの弾丸を親方の所から買っているから面識はある。

 でも、なぜ。

 親方は裕福ではない。

 強盗されるほど金を持っちゃいない。


 まあ、あいつらを捕まえて吐かせりゃいいだけだ。

 間違いでも俺を殺そうとしたんだから、因果応報だろう。

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