第37話 おっさん、自転車教室を開く

「ご主人様ちょっと困った事があるんやわ」

「俺に解決出来そうな事か?」


「ええ、実は貴族がうちらがバイクに乗っとるのを見まして、欲しいと無理を言っとるちゅうわけや」


 バイクを売り出すと消耗品やら、ガソリンやらが必要になる。

 そして、問題はメンテナンスだ。

 流石に整備士の教育なんてものは俺には出来ない。

 丸投げしても上手くいかないのがやらなくても分かる。


 うーん、どうしたものかな。メンテナンスが殆んど要らないバイクかぁ。

 そうだ、自転車なんてどうだろう。

 確かに少しメンテナンスは必要だけど部品が磨り減ったら廃棄してもらえば良いや。

 一年ぐらいは空気入れとチェーンを掛け直すのとパンク修理ぐらいでなんとかなるだろう。


 よし、魔力通販を使おう。


「今から出す商品でどうだ。魔力通販メールオーダー


 自転車が現れる。俺は外に自転車を出し、颯爽と乗り始めた。


「何や曲芸みたいなんですけど、いけるかこれ?」


「試しに乗ってみるか? 運転自体はバイクとそんなに変わらない」

「つこうてみます」



 アルマは自転車に跨ると乗り始めた。

 スカートから覗く足がそそる。

 ズボンに着替えさせるべきだったか。


「これ、意外とややこしい。離さんといて。絶対や」


 俺は後ろの荷台を掴み補助する。上手く乗れているようなので手を離す。


「きゃあ!」


 アルマの乗った自転車はフラフラ進み、可愛い悲鳴を上げてアルマは倒れた。

 服の乱れが何とも色っぽい。


「えげつない。手を離すなと言うたのに」

「悪い、悪い、上手く乗れてるから、大丈夫だと思ったんだよ。それと、スボンに履き替えた方が良いぞ」


 俺の目線に事態を悟ったのか顔を真っ赤にしてアルマは一言。


「えっち」


 多少擦りむいたが、半日でアルマは自転車に乗れるようになった。


「何、何、何か面白い事してるわね」

「好奇心」


 エリナとモニカが庭に出てきて俺達を見て言った。


「おう、お前らもやってみるか?」


 自転車教室が始まった。


「輪廻の輪よ、からから回り進め」


「ウロボロスよ、死と再生を司り永遠に進め」


「戒めのからくりよ、亡霊の悲鳴を響かせ全てを停止させろ」


 モニカはよくあんなに喋りながら乗れるもんだ。

 でも乗るのは上手いな。殆んどこけてない。


 エリナはどうかな。


「ちょっと、どいてどいて! きゃあ、きゃあ! アルマよけて!」


 ふらふらしている以外は問題ないな。なぜあんなに曲がるのかは理解できないが。


 そうだ。

 自転車に乗れない人間にも乗れる物があったな。

 俺は魔力通販でキックボードを購入した。


「アルマ、今度はこれに乗ってくれ」

「これはややこしない気いがする」


 立ったまま乗って片足で蹴るだけだからな。


「どうだ」

「でこぼこがあると、あかんみたい」


 車輪が小さいせいだな。

 使うとしたら凹凸の無い石畳専用かな。


「なるほど。参考になったよ」

「あー、楽しそうな物に乗っている」

「エリナは自転車、乗れるようになったのか」

「ばっちりよ」


「モニカはどうだ」

「玄人技」


「これどうだと思う」

「やってみるわ」

「試行錯誤」


 二人はキックボードで遊び始めた。

 しばらくして。


「完全に平らな場所で、伸び伸びとやれたら良いと思う」

「競争面白」

「なるほどね。競争か。それならどこか土地を借りて、キックボード用のサーキットを作ったら」

「うちもいけると思うわ」


 サーキットは魔法で整備すれば良い。

 土魔法の平面フラットを使えばできるはずだ。

 後はヘルメットとひざや肘を守るサポーターだな。

 こちらは甥がスケボーをやるというので調べた事がある。

 魔力通販で買えるはずだ。

 自転車教室も併設しよう。

 こちらは芝生の広場を作れば良い。

 それなら転がっても痛くないだろう。

 今度、商会に行ったら話しておくか。


 ベッドに横になり考える。

 こうなったら次に出てくる問題は廃棄だな。

 バイクの残骸とかはアイテムボックスに保管してるけど、使える部品を取ったら廃棄したい。

 考えつかないけど、一晩寝たら何か良い案も出てくるだろう。

 ノックの音に我にかえる。



「どうぞ」

「失礼します」


「今日はアルマだったか」


「あまり見つめられたら、うち」


「まだ恥ずかしいのか。おいで」


 そのまあ、なんだ。察してくれよ。

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