第19話 おっさん、スライム・ダンジョンへ行く

 とりあえず二人の最初の仕事はパワーレべリングだ。

 超初心者用のダンジョンとして馬車で一日行った所にスライム・ダンジョンがある。

 このダンジョンはスライムしかいない。

 スライムは魔石を出さない為に不人気ダンジョンになっている。

 ドロップ品は稀に出てくる為全く稼ぎが無い訳じゃあない。

 とにかく初心者にはうってつけのダンジョンだ。


 ダンジョンの前にある村で宿を取ってみんなを呼ぶ。


「明日からダンジョンだが、その前に言っておきたい事がある。俺の秘密を話す。良いか?」


 三人が頷くのを見て俺は話し出した。


「俺はこの世界に別の世界からどういう訳か来てしまった。それと、魔力を糧に品物が買えるスキルがある。そして、元の世界に戻る方法を探している」


「帰ってしまわれるんやろか。帰る時にはうちも一緒に連れてって下さい」

「アルマ、まだ先の話だから、その時になったら一緒に考えよう」


「驚きました。はっきり言って想像出来ない」

「驚愕」

「動く精巧な絵なら見せる事ができるよ」


「後で見せて下さい」

「事実確認」


「俺の話は終わりだ。明日の準備をして寝るぞ」


 スライム退治の為の秘策を仕込んでから寝た。

 勿論、一人寝だ。


  ◆◆◆


 スライム・ダンジョンは寂れていて周りにいるのは門番が二人だけだった。

 このダンジョンは入場料を取られる。

 俺は人数分のお金を払い、ギルドカードを見せて後の三人はポーターだと言って、中に入った。


「今回の秘策、火炎瓶だ。素焼きの瓶に布を入れてガソリンを注いだ。やってみるぞ」


 こちらの世界に来て百円の物しか買えなかった為に、一リットル単位でしか買えないガソリンは買えなかった。

 満タンで瓶一本分とか売ってくれよと何度思った事か。

 そう考えると感慨深い。


「さあ、やろう。復唱! ご安全に!」

「「「ご安全に!」」」


 俺はアイテムボックスから火炎瓶を取り出して、瓶から出ている布にライターで火を点けて投げた。

 火炎瓶はスライムに当たって炎を撒き散らした。


 皆に火炎瓶を渡して、投げさせる。


「地獄の暗黒炎に焼かれるがいい」


 モニカが妙な事を口走る。


「ふふふ、黒き炎の抱擁を受けるがいい」


 また、口走っているな。

 気にしたら負けなような気がする。


 火炎瓶の作戦は大当たりで、一日で姉妹は目標のレベル5になった。

 レベル5のお祝いでポータブルDVDプレイヤーを解禁する。

 映し出されたのは富士山。


「うわー、凄い高そうな山」

「高山驚愕」

「富士山と言うんだぞ。俗説では山頂で不死の霊薬を焼いたとか」


「ご主人様の世界の山やね。二人で一緒にいつか山頂に上りたい」

「機会があればな」


 液晶の画面は日本アルプスの山々に移り変わる。


「険しそうな山」

「難関」

「そうやな。雪が真っ白で寒そうや」

「それはな。剣岳じゃないかな。確か立山連峰の一つだったと思う」


「こないな。映像が離れていても見れるなんて凄いやないか」

「どんな仕組みか知りたいな」

「仕組解明」


「ごめん、分からん。特殊な信号を画面に映しているとしか」

「その説明だけでも分からんわ」

「そうね。信号というと旗?」

「手旗信号」


「原理は一緒だ。0か1で現す信号だ。そこからは分からん」

「なんや凄いんやね」

「不思議がいっぱいね」

「摩訶不思議」


 次は巨大なビル群だ。


「次の映像は都庁だな」

「ふぁ、大きい」

「巨大」


「確か50階近くあって、200メートルを超えてたと思うぞ」

「一番深いダンジョンより深いのとちゃいます」

「そうかもな。知っているか。都庁はロボットいや、ゴーレムみたいな物になるんだぞ」


「嘘よね」

「虚偽」


「そうだ嘘だよ」

「うちは分かってたで。ご主人様が嘘をつく時は鼻の穴が広がるんや」


 アルマに癖が見破られている。

 しかし、アルマに俺はもの凄く気にいられている。

 何かしただろうか。

 エリナとモニカにも好感触だ。

 なんか気味が悪いな。

 奴隷の首輪が持っている機能だろうか。

 ご主人様に対する好感度がマックスになるっていう。

 それだとすると人間不信に陥りそうだ。

 そうでない事を祈りたい。


 名所のDVDを三人は食い入る様に見ていた。

 まあいいや。

 所詮、契約社員だ。

 社員は社長に愛想笑いの一つも浮かべるってもんだ。

 敵対しても良い事ないからな。

 そう思っておくとするか。

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