第6話 おっさん、ピクシーを獲る
「ピクシー?」
俺は一夜の宿を借りた農家でそう尋ねた。
「ああ、被害が酷くて困っとるんです」
「ピクシーってのはどんな生き物なんだ」
「手の平ぐらいの大きさで、少女に虫の羽が生えた奴ですな。学者が言うには虫のモンスターの一種なんだとか」
「虫なら殺虫剤が効きそうだな」
「あきまへん。ピクシーは毒耐性があります」
「アルマ、詳しいのか」
「昔、
「都会では子供に人気がありますな」
「網か、ハエ叩きが活躍しそうだ」
「それがですな。やつら普段は姿が見えないのですな」
「夜、耳元でうるさかった奴か。灯りをつけたのに虫がいないのでもの凄くイライラしたよ。血を吸ったりしないのが幸いだな」
「なんとかなりませんかな」
「任せなさい。昨夜の仇討ちだ」
◆◆◆
「どない」
「闇雲に手を振り回したのでは駄目だな。羽音を聞いて手を伸ばして捉えたと思っても、すり抜けられちまう。都会で売られているって事は捕まえたという事だな。何かヒントがないかな」
「甘い物が大好物やな」
「餌でおびき寄せるか。
ぽとりと落ちる魔力1300のハチミツと魔力1000の虫取り網。
塗るのはパンで良いだろう。
食パンにべったりハチミツを塗って観察。
目の前でパンが齧られて減っていく。
今だ。
網を振り下ろした。
網の中に何か入っている感触はない。
「失敗や。捕らわれると姿を現すんや」
「意外に素早いな」
むーん。
難しい。
たかが虫、されど虫。
そうだ、昨夜、顔に何回もピクシーが当たったな。
そういえば昔、透明人間についての考察を読んだ事が。
完全に透明だと目が見えないはずだとか。
まさかな。
「
魔力490で5個入り。
そうこれこれ。
昔、田舎だとそこら中に吊るしてあった奴。
ゴキブリを取る奴の空中版だ。
俺がなんでこれを知っているかと言えば、大の殺虫剤ぎらいの奴がいてこれを愛用していた。
「アルマも手伝ってくれ」
「はいな」
部屋にそこら中にハエ取りリボンを吊るす。
ほどなくして、きゅんという可愛い鳴き声が。
ハエ取りリボンに絡まったピクシーがそこに居た。
「獲れるもんなんだな。たぶん本職はトリモチなんか使うのだろうな」
「なんや可哀相や」
「殺さずに売り払ったら良いだろう」
「そうやな。捕まったが運の尽きやな」
アルマの悲しげな目が印象的だった。
奴隷身分の自分と重なる部分があるのかも知れない。
でもな虫だぞ。
ここで問題。
捕まえたのは良いが、どうやって剥がそう。
剥がす事を考えてなかった。
シール剥がしで剥がれるのかこれ。
体は良いが羽が繊細で、無理に剥がすと壊れそうだ。
「すいませーん」
俺は声を張り上げた。
しばらくして家主が現れる。
「なんだい。おお、捕まえたじゃないか」
「これ売りたいんだけど、剥がれなくて」
「しつこいネバネバが張り付いた時は分解スキルの出番だよ」
「この村に使い手はいるのかい」
「いや、いないな。余計な部分を切り落として出荷したら良い」
「なるほど」
「このネバネバした紙を売ってくれないか」
「ちょっと待って」
俺の魔力だと一日に100個が限界だ。
想像するに1000個単位で欲しいのだろう。
「この村に大きい魔石はあるかい」
「村長の家にはあるな」
「じゃ、それを借りて村人の魔力を集めよう。なに、このネバネバ紙のお代は要らない。魔力で払ってもらう」
村人が村長宅に置いてあった結合魔石に魔力を充填する。
俺は別室に行って、結合魔石を使い魔力通販した。
スキルの事を知らせないためだ。
魔力で物を作るスキルが人に知られたら色々とやばい。
村長にはアイテムボックスから取り出していると言った。
俺のアイテムボックスは特別製で開く時に周りの人に危害が及ぶと。
アイテムボックスを開くには魔力が沢山いるとも。
これらは嘘だ。
純真な村人に嘘をつくのは気が咎めたが、用心の為だ。
村中の子供からお年よりが魔石に魔力を充填して、ハエ取りリボンを受け取って行った。
「すまなかったね。これは村人を代表して謝礼だよ」
家主から渡されたのは銀貨10枚だった。
格好つけて、要らないよ子供に綺麗な服でもかってやりなと言いたかったが、素直に受け取る。
懐が寂しかったからな。
「そう言えば、ピクシーは虫って言ってたけど。もしかして、妖精のピクシーもいるのか」
「そら御伽噺やな」
「話に語られているって事はいたかもよ」
「夢があってええな」
「そうだろ人生は長い。そのうち出会えるかも知れない。俺達の冒険の旅は始まったばかりだからな。未知の物を解き明かす。わくわくしないか」
「そやな」
「そろそろ、出発しようか」
「はいな」
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