第4話 おっさん、奴隷を買う
「なあ、あんた」
ダンジョンの冒険者、目当ての商売をしている露店の一角で見知らぬ男に呼び止められた。
俺は一瞬びっくっとした。
男は毛皮のジャケットを着ていて、人懐っこい笑顔を見せていた。
金髪の髪を短く刈り上げていて、なんとなく堅気でないような雰囲気がある。
俺はやつらの追っ手ではないかと疑った。
「えっ、俺か?」
「そうや、そこのお兄ちゃん。こうて貰いたい物があるのやけど」
なんだ、物売りか。
心配して損した。
水晶の翼は無関係か。
「俺は殆んど金をもってないよ。物々交換ならできるけど」
「ちっ、当てが外れたか。しゃあない、交換でもええで」
「手持ちだと、これになるよ」
俺はアイテムボックスから3センチの人工宝石を取り出した。
これはジルコニアで出来ていて、魔力4千で作成できた。
「ごっついな! きらきらしてるがな!」
「どうです?」
「ええで。取引しよう」
男はテントから貫頭衣を着て首輪をつけた女の子を乱暴に引き出してきた。
彼女は太めで愛嬌ある顔立ちだが美人とは言い難い。
男は貫頭衣をめくる。
慌てて目を瞑ろうとしたが、色気のない下着を着けているのをちらっと見て、そこまでしなくともいいかと思った。
かぼちゃパンツにTシャツみたいな下着だった。
「巨乳やろう」
男の言葉を聞いて彼女を見る。
巨乳でお尻も大きいがウエストがあまり引き締まっていないせいでグラマーとは言えない。
ぽっちゃりだな。
あと何割か太っていれば、でぶ専にもてもてといったところか。
「おい、挨拶せえへんか」
「うちはアルマや。よろしゅうお願いします」
「この子が商品で、奴隷って事で良いんだよな」
「そうやで、どないする?」
奴隷かぁ、絶対裏切らない仲間は欲しいな。
奴隷売買に手を染めて良いんだろうか。
でも、少し人間を信用できなくなっている俺にはぴったりだ。
そうだ、契約社員だと思えば良い。
「よし、買った!」
男に人工宝石を渡した。
男に言われ、アルマの首輪の赤くなっている所を俺が触ると青くなり、どうやら登録を終わったみたいだ。
それからアルマを連れて街道まで出た所で小休止する。
「俺はムニ。よろしく。元ポーターだ」
「はい、ご主人様」
「アルマは今何歳だ」
「18歳や」
「ところで、アルマは何が出来る?」
「家事は何でも問題あらへん」
「仕事については、ゆっくり考えよう」
まずは、アルマの着る物をなんとかしたいけど、今は魔力が無い。
衣類はあるが全て男物だ。
明日、朝一で用意しよう。
とりあえず住んでいた街、アルフォスに戻る事にした。
◆◆◆
フード付きのパーカーを羽織ってアルマと二人街の門まで来た。
如何にも暴力専門と思われる厳つい男達が、人相書き片手に街に入る行列の一人一人をチェックしている。
不味いな。
なぜか強烈に嫌な予感がした。
アルマの手をとって列から離れて、キスする振りをする。
行列からこちらを見る視線を感じた。
しめしめ、上手く行った。
「見世物じゃねえぞ。アルマ、人のいない所でしっぽり行こう」
俺達は列から離れ近くの森に入った。
樹に登り、アルマを引き上げる。
「静かにな」
「はいな」
男がしばらくして樹の下を通る。
今だ。
俺が男に飛びかかる。
体重の乗った拳は見事、男を叩きのめした。
男は気絶したようだ。
男の懐を漁り人相書きを見る。
俺の顔だ。
あいつら、俺を殺す気だな。
はっきりと分かった。
俺は男の財布を奪った。
物取りの犯行に見せかける為だ。
こうしておけば俺が人相書きの男だとは半分ぐらいの確率で思わないだろう。
脛に傷を持つ人間なら取りそうな行動だからな。
女連れだし、俺だと思う確率は更に下がるに違いない。
殺すのは悪手だ。
俺の異常なレベルがばれる恐れがある。
「待たせたな。一人で降りられるか」
「問題あらへん。あんまり見んといて」
「悪い、薄着なのを忘れていた」
俺は後ろを向き、アルマが降りるのを待ちながら、考える。
次の行き先だけど、住んでいた街に帰るのは駄目だな。
あいつらに見つかるとあいつらは俺を殺しに掛かるのは間違いない。
なにせ、ランク降格の罪の証人だからな。
今のレベルなら返り討ちにできるけど、そうすると異常なレベルがばれてしまう。
そうすると何でそのレベルに至ったのかと言われる。
皆殺しにできれば良いが、逃げられる可能性も捨てきれない。
そうなると面倒な事になるのは必至だ。
違う街に行こう。
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