想いを託して

くるとん

いつでも伝えられるコト

世の中には、気持ちを伝える方法が星の数ほど存在する。


例えばお花。もらえると結構うれしかったりする。ちょっと後処理に困るのは内緒だけど。お花には花言葉というものがあって、そのものに意味を持たせることもできる。


ところで、星の数は無限ではない。それと同じように、無限に続く関係というものも存在しない。腐れ縁だっていつかは切れるものだ。


でも、私と大樹ひろきとの関係は、良い「腐れ縁」らしい。いつまでも続く、無限だと思っている。




「ねー大樹ひろき。昨日テレビでやってたんだけど、電話ですず虫の音って聞こえんらしーよ。あんな綺麗やのに残念だよね。」


修学旅行の帰り道、電車で隣に座っている大樹に、私は声をかける。


大樹とは同じ病院で生まれたのが全ての始まりだった。保育園から高校まで、全部一緒。クラスまで一緒。席替えをしてもだいたい近くの席。家はちょっと遠いけど。


さすがに意識するんだけど、なんだか今さらもろい関係になるのも気が引ける。それでも、もう高校生だし、この調子だと大学も一緒だろうし、まあ、そろそろ付き合うそういうのもありかな、と思っている。


「ふーん。」


大樹はあいかわらず生返事なまへんじだ。大樹との会話はだいたいこんな感じ。私が何かを話して、大樹が適当な感じで受け流す。せっかく興味がありそうな話題を振ってあげたのに。


「聞いてる?」


ちょっと意地悪いじわるなトーンでつぶやく。


「うん。」


やっぱり生返事なまへんじしかしない。脇腹でも突っついちゃおうか、なんて思っていると、大樹のスマホから大きな音が鳴った。


「あっ、やべっ!」


大樹は焦って戻るボタンを連打した。そんな大樹に3つ前の席にいる先生から声が飛ぶ。


「おーい、ちゃんとマナーにしとけよー。」


後ろの席にいる体育の唐沢からさわ先生からも注意が入ったので、大樹も慌たのか、スマホを落とす。


「もー、こんなときぐらいスマホみるのやめたらー。ほいっと。」


スマホを拾ってあげながら、スマホの画面を確認してみる。軽い興味だったんだけど、大樹からは、「あ」に濁点が付いたような、上擦うわずった声が返ってきた。


「花言葉の一覧?大樹ってこういうの興味あるんだ。」


スマホの画面には、およそ大樹には似つかわしくないサイトが表示されていた。


「い、いいだろ。何見ても。」


明らかに動揺した様子の大樹は、私からスマホを取り返すと、何事もなかったかのように話題を変えてきた。そういう画像とかだったらともかく、そんなに動揺しなくても良いのに。


「それより沙紀さき、金曜日コンクールだろ。順調?」


そう。そのせいで最近眠れていない。今回のコンクールで上位に入ることができれば、私のピアニストに大きく近づくことができる。


今日は月曜日なので、あと4日しかない。なんとも言えない4日、という期間が私を余計に焦らせている気がする。


「うん、水曜日から公休だよ。金曜日は、部活のころには学校に戻れると思う。大樹も部活あるでしょ?」


しばらくはピアノの先生のお宅に泊まり込み。ちょっと寂しい気持ちもあるけれど、大樹とは「腐れ縁」。あ、もちろん悪縁って意味じゃない。コンクールが終ったらちょっとゆとりができるし、付き合うには良いタイミングかな。


まあ、大樹がどう思ってるのかは知らないけど。


「おー。お祝いの準備しといてやんよ。」


なんかうれしいことを言ってくれた。顔に出すのもあれなので、私は照れ隠しで話題を変えた。何気なく繰り返してきた日常が続いている。

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