自選詩集

ナツメ

待っている

あなたの帰った部屋で ギターをぼうっと眺めている

ボロい安アパート 二人で居るには少し狭くて

一人で居るには嫌に広い

ねえ あなたは今 スーパーでカートなんか押しながら

平然と夕飯の買い物をしているのでしょう

偶然会ったご近所さんと

「子供が食べ盛りで」なんて世間話をして

窓を開ける 風が吹く

あなたと僕の汗っぽい温い空気が流れ出す

それだけでもう 何事も無かったかのよう

一人暮らしの薄ら寒い部屋

僕はおもむろに

空虚を抱える カラッポの

ギターを抱える

冷蔵庫もカラッポだ 今夜もカップ麺だ

あなたの家の食卓に思いをはせる

笑い声、手料理、オレンジ色のぬくもり………

あなたはそこで微笑ってる

それを想い乍ギターを弾く

ポロロン、と

鳴る音は この部屋みたい

薄ら寒くてカラッポだ

それでいい それがいい

歌詞のネタには困らないし 変な責任もない

僕の部屋に来てすぐに あなたが外す指輪

それを見ると 僕は少しだけ ほっとする

0.7人分のすき間を持て余し乍

偶に来るあなたを 僕は待っている

カラッポを抱えて ギターを抱えて

この居心地の悪さが いかに快適かを

歌い乍僕は あなたを待っている




ひゅう、と風とともに 枯れ葉が一枚舞い込んで

窓を閉めようと立ち上がり 足を踏み出すと

くしゃり、

カサカサの枯れ葉は粉々になり 靴下の裏にくっついた

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