第二部 第二夜 12/23 23:17
30話 懲罰サンタがやってくる その1
懲罰部隊と兵器開発局のサンタとの激闘を終え、リコ達を乗せた電車はバルテカの首都であるバルテカ・シティへと入った。
国土の大半が熱帯に位置するバルテカの首都であるバルテカ・シティは、人口一千万を超える大都市であり、内戦の真っ只中にあるとは思えないほど、治安は非常に安定している。
熱帯に位置していながら、サンタ工房の気候操作技術により って、街には一年中雪が積もっている。治安が安定しているのも、サンタ工房により建設された、街の周囲を囲む高さ二十メートルの防壁と、サンタによる監視体制のいい側面が表に出ているからだ。
街中はクリスマスのイルミネーションで飾り立てられており、それらの装飾を住民投票により選ばれた天気である雪が彩っている。
サンタ工房という、サンタ技術の本流を有した組織の拠点があるということもあり、この都市の生活水準は並みの大都市をも上回り、大都市の中央に位置している国の名を冠したバルテカ駅を中心として、放射状に地下鉄や路面電車、高速道路などが張り巡らされている。
※※※
「リコ。ソニアとキャロルにセイレンと捕らえた敵を一人連れて行かせたけど、本当にこれで良かったの?」
カナンはリコにそう尋ねた。リコは重傷を負ったセイレンと透明化能力を有していたナッツを途中で下ろすことを決めた。二人の安全を確保するためだ。
傷を負ったセイレンをサンタ工房に見られれば、治療と称して拉致されかねない。
兵器開発局のサンタは、サンタ工房に全員捕虜にされる。この二つを避けるため、キャロルとソニアに安全な場所まで運ばせた。
「ああ。セイレンに少しでも早く治療を受けさせたい。それにこのまま工房と接触すれば、兵器開発局のサンタ全員を連行していくだろう。それは避けたい」
バルテカ駅に着くまで残り二分もない。リコとカナンは、火種を抱えたままのサンタ工房が実効支配している都市への到着を目前に控え、慌ただしく動き回っていた。
「それもそうだけど……物みたいに引き渡すの、苦手でしょ? 私も嫌いだし」
「……そういう任務だ……割り切ろうとはしている。案ずるな……」
リコは苦しそうな表情を浮かべている。殺し合いをした敵とはいえ、捕らえた相手をサンタ工房に引き渡せば、彼女たちは尋問され、その後処刑されることは目に見えている。
そのことにリコもカナンも強い抵抗があった。
だがそうすることしか懲罰部隊として生きるリコやカナンには、選択肢がないのも事実だった。
「そう言うならわかった、付き合うよ。それで駅は工房のサンタで埋め尽くされてる。そして予定通り身柄の引き渡しを求めてくる。襲撃者の数を誤魔化したら攻撃されるかもしれない」
カナンはリコが耐えているのだからと、いま必要なことを確認することに決めた。
「“最初から二人しかいない”のに、どうやって三人目を引き渡す? それに捕虜の管理は、確保した組織がするのが通例。捕虜の引き渡しを求め、拒否されたから攻撃すれば、懲罰部隊全てを敵に回すことになる。そこまでする覚悟は彼女たちにはない」
倒したサンタの身柄を引き渡す規則はない。だが今回の依頼では、兵器開発局のサンタは工房に引き渡すことになっていた。
サンタ工房が敵対組織である兵器開発局の内情を知るためだ。
契約上全員を引き渡す必要はないだろうが、サンタ工房は全員の身柄を確保したいのが本音だろう。
それでもリコは兵器開発局のサンタを最低でも一人は確保しておきたかった。
理由としては兵器開発局が保有している配達道具を鹵獲できるということ。
生体認証を自力で突破することのできない懲罰部隊であっても、配達道具それ自体に資産としての価値がある。サンタ戦において非常に有用な兵器である配達道具は、例え使用不能な状態だとしても、交渉材料になる。
リコたちがサンタ協会の腐敗に立ち向かう為には戦力にもなり、交渉材料にもなる配達道具の確保は譲れないところ。
もう一つは、サンタ協会内のパワーバランスを知る必要があるからだ。
捕らえた兵器開発局のサンタからは、サンタ工房と兵器開発局の間にある事情が聞けるはず。
場合によってはそれがサンタ協会の不正を正す一助になるかもしれない。
電車に開けられた円形の傷と、電子制御を乗っ取られた事実から、この能力を持つ二人をいなかったことにするのは厳しい。証拠が多すぎる。そうしたことを考慮し、証拠が残っていない透明化能力を有したサンタを、”いなかった“ことにして確保するのが、リコの方針だった。
三人組だったことはサンタ工房に引き渡す予定の二人が、尋問に向いた配達道具で口を割るだろうが、三人全員の引き渡しを求める大義名分がないのはサンタ工房側なのだからどうとでもなる。
サンタ工房は兵器開発局との抗争という自分たちの問題に、懲罰部隊に応援要請を行った。その任務の過程で捕虜を得たリコの部隊を、引き渡さないからと糾弾すれば、懲罰部隊とサンタ工房との関係は悪化する。それは避けたいはず。
表向きの理由さえ通っていればごまかせる。
「卿は二人の監視を頼む。私が工房と話をつける」
「わかった。こんなことで死ぬのは嫌だからね」
「それは私も同じだ」
カナンとリコはこの三人が姉妹であることをなんとなく察している。こんな形で引き裂いてしまうことに抵抗があった。
だからといって、戦場で負ける訳にはいかなかった。三人全員一緒に返してあげることも難しい。
どうしようもなかった。
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