第43話 魔獣コカトリス

「食べていいですか? お腹すいたんですけど」


 とシロが飢えた肉食獣みたいな目をして、ケントにたずねる。


「好きにすればいい」


 彼は蛇に興味を持てなかったので許可を出す。


「はい」


 シロの移動速度は、蛇が逃げる動きよりも格段に速くあっさり左手で捕まえてしまう。


(動きから推測するに、レベル5程度か。まあ野生の蛇なんだろうし)


 モンスターが弱い世界なら、その捕食対象になっているだろうただの蛇がさらに弱いのは自然なことだ。


(コカトリスは蛇を食わないはずだからな……シロが飯をすませたら他の場所に移動するか)


 短いスキル効果時間で判明した場所すべてを覚えるなんて芸当は、ケントにできない。


 結局勘を頼りに動くことになりそうだ。


(仕方ないよな……能力は《忍神》だと言っても俺は俺なんだから)


 体のスペックは高くなったが、頭脳は変わっていない。

 いびつなように思うが、現状を受け止めるしかないだろう。


 大事なのはこの能力を使いこなすことではないだろうか。

 

「練習もっとしたほうがいいな……樹海ならちょっとくらい壊しても平気かな?」


 金剛級というこの世界では難関クエストに指定されるエリアなのだ。

 多少のことならかまわないだろうと思うのだが。


「マスター、戻りました」


 シロは満足そうに頬をツヤツヤさせて帰還を報告する。

 

「ああ。じゃあ他の場所に行ってみたいが……」


 言いかけてケントはふと思いつく。


「シロなら樹海の上をぐるっと飛び回ることはできるはずだな」


「ええ。……上からコカトリスを探すのですか? てっきりゲームでもするのかと」


 シロはきょとんとして見つめてくる。

 どうやら彼女はゲーム感覚でコカトリスを探すのだと思い込んでいたらしい。

 

「時間がかかりそうだからやめにする」


 短時間で終わる手段があるなら、そちらのほうがよいと彼は判断する。

 スキルの練習もしたいし、情報も集めたいのだ。


「わっかりましたー。じゃあ元の姿に戻りますね」

 

 鳥に戻ったシロの背に乗り、ケントは空からコカトリスを探す。


「見つけた」


 彼から見て左斜め上のポイントに、コカトリスが一体いた。

 そのことをシロに伝えると彼女は速度をあげる。


「おい、急にスピードをあげるなよ」


「あ、ごめんなさい」


 シロが減速したところでちょうどいい位置になったので、ケントはそのまま飛び降りた。


「えっ?」

 

 彼女の声を耳に残して彼はコカトリスをめがけて中級スキル「電光一閃」を放つ。


 光をまとった居合斬りは、コカトリスというニワトリを大きくしたような魔獣の首を両断する。


 弱すぎて手ごたえがないのは予想通りなので、スキルの練習ができたことときれいに着地できたことにケントは満足した。


「サイズはけっこうあるな……焼いたら美味いんだろうか?」


 どうせなら美味い肉を食いたいなと彼は思う。

 

(こんなことになるなら、料理スキルでもとっておけばよかったか)


 なんて考えてみたが、すぐに打ち消す。


 激震撃神で料理系スキルを取れば、その分だけ戦闘力や状態異常耐性が下がってしまう。

 

 未知の部分が多すぎる世界では、戦闘力と状態異常耐性が高いほうがリスクは少ないはずだ。


「思い上がりはよくないぞ、俺」


 もしかしたらこの世界の存在が知らない猛者がいるのかもしれない。

 ケントは自分に言い聞かせるためにつぶやく。

 

「ご主人様はやっぱりすごいですね。あの高さから飛び降りたら、普通衝撃で動けなくなると思うんですけど」


 着地してヒューマンの姿になったシロが感心する。


「衝撃による行動阻害無効スキルがあるからな」


 と彼は答えた。

 正確には衝撃にかぎったことではない。

 

 麻痺・睡眠・疲労・毒・石化といった行動不能になるすべてに対して耐性を持つ。


(もっとも、睡眠欲はあるるし、敵の斬撃打撃でダメージを受けるんだけどな)

 

 文字通り万能なスキルではないのだが、シロにそこまで説明しなくてもいいだろうと彼は考える。

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