第44話 ある可能性の話
「お肉もらってもいいですか?」
シロがよだれをたらしそうな顔で聞く。
「毒抜きがめんどうとか言ってなかったか?」
ケントが笑いを殺しながら問い返すと、彼女はにこりと笑って
「毒のない部分だけ食べればいいかなって」
と言う。
目の前で実物を見て食欲が勝ったのだろう。
何ともシロらしいと彼は苦笑したくなる。
「俺はかまわないと思うが……」
彼は許可を出しかけたところで、ある考えが浮かんで口を止めた。
「ちょっと待ってくれ。戦力42のモンスターなら、あるいは高く売れるかもしれない。たしかめた後なら食べてもいいぞ」
そう、金銭の問題である。
金剛級という高難易度設定モンスターなら、素材は希少になっているかもしれない。
つまり死体を持ち帰ったら高額で売れるのではないかとケントは思ったのだ。
「え? まあそれはあるかも……」
シロは目を丸くしながらもうなずく。
彼女の正直なところは彼を好ましく感じる。
「コカトリスしか食べたくないってわけじゃないなら我慢してくれ。他に獲物を探していいから」
「私はお腹いっぱい食べられたらそれでかまわないので、我慢します」
シロはケントに向かって答えた。
こだわりがない性格でよかったと彼は思う。
パートナーのモンスターとしてかなり御しやすい。
(ワガママが多いなら力で黙らせる必要があるわけだが)
その必要は今のところなさそうだった。
もちろんシロはかなり知能が高いので、ワガママを言ったらどうなるのかを想定した上で、従順なのかもしれない。
ただ、それはケントの中でマイナス評価にはならなかった。
リスクを想像し、回避するための努力を自分の判断でできるというのは、得がたい能力だと考えるからだ。
「そう言えばシロは敵の探知はそこそこできるはずだな?」
とケントは聞く。
探知できなければ獲物を探すのに苦労するだろう。
彼女の性格的にも、そしてホワイトバードが使うスキル的にも探知系は持っていて不思議ではない。
「できますけど、マスターにはかなわないですよ?」
シロはきょとんとして答える。
「お前の探知スキルを使って獲物を探すのも悪くないと思ってな。今日中にペスカーラに帰ればいいわけだし」
とケントは自分の考えを明かす。
時間制限があるとは言われていないが、日帰りで達成できれば充分のはずだった。
「なるほど。樹海でも私のスキルが通用するのか、試したほうがいいかもしれませんね」
とシロはあっけらかんと返事をする。
「ああ、そうだな」
ケントはうなずいたが、彼の狙いはそれだけではない。
レベルが近いモンスターを彼女が倒したり食べたりすることで、彼女のレベルが上がるのかを確認したいのだ。
(レベル上限に達しているのか、単にレベルアップしにくい環境だったのかがわかるからな)
前者ならこの世界の生物はレベルの上限が低く、成長の限界が速いという仮説を補強できる。
後者だったら環境次第では高レベルな存在がいるかもしれない、という説が有力になるだろう。
(まあ、楽することだけを考えれば前者なんだが)
彼は別に強敵と心が躍るバトルを楽しみたいという願望を持っていない。
この世界でのんびり気楽に過ごすという目的を考えれば、前者のほうが好ましいだろう。
だが、自分の願望のためにリスクを無視することはできなかった。
「私が自分で見つけた分は食べてもいいですか?」
とシロは期待を込めて彼に質問する。
「そうだな……戦力30以下の生物なら好きにしていいぞ。頭部だけ残してくれたら」
素材が高い値段で売れそうなラインはその辺ではないか、とケントは勝手に想定した。
また、弱いモンスターなら他にも手に入るだろうから、今回こだわらなくてもいい。
頭部だけ持ち帰ればその辺の情報のチェックもできるのではないだろうか。
「わーい、ありがとうございます!」
シロはうれしかったのか、目を輝かせて両手を叩きながら礼を言う。
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