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 「夜空に浮かぶ星」は古い安宿で一泊あたりの宿泊費が大銅貨二枚だった。


 銀貨一枚を渡したケントは釣りとして大銅貨八枚を受け取ったので、「銀貨一枚で大銅貨十枚か」と推測する。


(たぶん大銅貨は千円札くらいの位置づけなんだろうな)


 と判断した。


 シロとふたりで一泊が二千円とだとするとかなり安いのだが、かわりに壁は薄くひとり部屋は存在していない。


 相部屋と言えば聞こえはいいが、ベッド二つ以外に何か置くスペースは一畳くらいしかないという狭さで、寝る以外のことはできなかった。


(見た目以外はカプセルホテルと大差ない気がする)


 出張でも宿泊費を会社は出してくれなかったので、カプセルホテルかネットカフェを利用していたケントは思う。


「一応聞くが、お前は眠るのか?」


 ホワイトバードの生態なんて記憶にない彼は、シロに聞いた。


「ええ。二、三日くらいは眠らなくても平気ですが」


「そういうものなのか」


 レベルがあがると多少の無茶ができるゲームだったが、モンスターにも当てはまるかもしれないと彼は思う。


「ひとまず寝よう」


 ケントだって《忍神》なので三日は寝なくても平気なのだが、特にやることもないので素直に眠って時間をつぶす。



 彼が翌朝目を覚ました時、隣のベッドでシロが寝息を立てていた。


 人の姿をたもったままなのはえらいと彼は思いながら、インフィニットストレージからパンを取り出して食べる。


(今日はどうするか)


 とぼんやりと彼は考えた。


 この町で活動するかという点だが、昨日の拳士のせいで何だかケチをつけられたような気分だ。


 シロなら遠い都市でもひとっ飛びできるのだろうし、一気に大都市に行くのも手かもしれない。


 どうせ名前を売るなら大都市のほうがいいのでは、という疑問が浮かび上がっていた。


(なんだっけ? 東京だと一回売れたらいいが、地方だと二回売れないといけないだっけ?)


 芸能界か何かでそういう逸話を聞いた気がするが、詳細は思い出せずケントは首をひねる。


 こちらの世界でも当てはまる可能性については考慮しておこう、と思った。


「マスター、ごめんなさい」


 起きたらしいシロが、ベッドに座ってパンを食べ終えたケントを見て謝る。

 仕えるシモベが主人より先に起きれなかったからだろう。


「気にするな。もともとあまり睡眠を必要としない体だから」


 とケントは話す。


 《忍神》は睡眠や毒といった状態異常に高い耐性があるのと関係があるのだろうか、と思いながら。


「はい」


 シロはひとまず納得したようである。

 ケントはおかげで思考に戻った。


 彼としては銀貨が残っているうちに新しく仕事を入れておきたい。


「できれば今日じゅうに三件ほど仕事をこなして赤鉄ランクにあがりたいわけだが、小さな町でそんな数の仕事があるかな」


 だから大都市に行ってみたいのだとケントは話す。


「では私がご案内いたしましょう。もっとも人里など、どこにあるのか記憶に自信はありませんが」


 シロは意気込んだ後、正直に打ち明ける。


「どこかで地図を手に入れたいな。それも小さな地図じゃなくて、国規模の地理がわかるような大きなものが」


 とケントは言った。

 別に細かい部分まで詳しく描かれている必要はない。


 どこに行けばどのような都市があるのか、わかるだけでもよかった。

 独り言を口にすることで考えを整理しているのだった。


 それを察したのかシロは口をはさまず黙って聞いている。


「まあいい。とりあえずハンター組合に顔を出そう。この町のじゃなくてファーゼの町で」


 ファーゼの町の人にタンドンを無事送り届けたとまずは報告しよう。

 ケントはそう決める。


「かしこまりました。ではまた私の背中に乗ってください」


 とシロが申し出た。

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