名づけの意味

「雪か白……シロにしよう」


 とケントは決める。


「おお! では私はこれからシロと! うれしいです!」


 シロは彼が予想したよりもずっと喜んでいた。


「すごい。ホワイトバードなんていう強力なモンスターに、名前をつけることができるんて」


 と若者が驚いている。


「それもめちゃくちゃ喜んでいるよね。どれだけ心服させているの?」


 他の通行人も唖然としていた。


「名づけってそんなにすごいことなのかな?」


 ケントはぽつりと言う。


 激震撃神でも飼っているモンスターに名づけができるシステムはあったはずだが、そこに特別な意味などなかった。


 運営のプレイヤーに対するサービスくらいのものだったのだろう。


「名づけってモンスターを完全に従えていないとできないですよね。ホワイトバードなんて伝説クラスを名づけなんて、それだけ偉業ですよ?」


 彼の声が聞こえたらしい若者が、興奮して早口でまくし立てる。


「あ、はい」


 偉業と言われても全然実感がないケントだったが、とりあえずこの世界ですごいことだと認識されることは理解できた。


「まあメリットが大きいならいいか」


 ひとまず彼は割り切る。


 すでに訳がわからない展開が連続して起こっているので、今さらひとつくらい増えても大したことではないように感じた。


 すっかり感覚がマヒしているのである。

 せっかくだからとケントは若者に質問を放つ。


「仕事を探しているのですが、どこに行けばいいのかご存じですか?」


「仕事でしたら技能に合わせて組合に登録されるのが一番だと思いますが、以前どこかで登録されていないのですか?」


 とても不思議そうな表情で聞き返され、彼は答えに詰まる。


「あー……何分遠くから来たもので、このへんのことはさっぱりわからなくて」


 ケントはとっさに苦しい言い訳をした。

 異なる世界から来たと話せないのだからやむを得ないが。


「なるほど、海を越えれば習慣も制度もまるで違うと、船乗りから話を聞いたことがあります」


 ところが若者はあっさりと納得した。


 ここの情報を知らないのは、他の大陸から来たせいだと勝手に解釈してくれたらしい。


「その割には言葉は流ちょうなので、もしかしたて語学力がすごい方なのですか?」


 興味深そうに眼を光らせる若者にケントは苦笑してしまう。


「どうでしょうね」


 なんて答えながら間違いなく大したことないだろうなと自嘲する。


「あのう、俺はジョーというんですが、あなたのお名前を聞いてもいいですか?」


「ああ、俺はケントっていいます」


 今さらな気がしながらも二人は名乗りあう。


「お仕事を探しているとのことですが、ホワイトバードを従える実力をお持ちならハンター組合がいいと思いますね」


 とジョーはケントにすすめる。


「ハンター組合?」


 ハンターと言われてケントは狩人を連想した。


「ええ。人の世に害をもたらすモンスターを狩る仕事です。未知のダンジョンを探索して、一獲千金を狙うダンジョンハンターも所属しています」


「へえ、そうなんですね」


 ジョーの説明に相槌を打ちながら彼は思案する。

 激震撃神の通貨は一応残っているが、使えるかどうかわからない。


 ならこちらの世界のお金を稼ぐためにと思い、仕事を探していると言ったのだ。


(モンスターを狩るハンターなら俺でもできるかな)


 という理由もある。

 なぜか言葉は通じるが、読み書きもできるかどうかわからない。


 他に生活費を稼げそうなスキルを持っている自信もなかった。

 

「では、ハンター組合に入ろうと思います」


「よかった。何なら案内しますよ」


 答えを出したケントにジョーは申し出る。


 今のうち自分と仲良くしておこうということかなと彼は思いながら、ありがたく受け入れることにした。


 知り合いを増やしておきたいのは彼だって同じだからである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る