ホワイトバード
「もしやと思っていましたが、あなたはわが種ホワイトバードのことをご存じではないのですね」
鳥は言ってきたので、ケントはこくりとうなずく。
(ホワイトバードだったのか。たしかルナバードの下位種だったかな?)
と同時に思う。
ルナバードは神級モンスターに分類されていた。
闇と炎の広範囲ブレス攻撃をおこない、光属性の魔法で自分を回復してくる強敵だった。
その下位種となるホワイトバードは炎属性しか使えない上に、他の能力も見劣りする。
ケントが目で続きをうながすと、目の前のホワイトバードは事情を話す。
「我々は親元から巣立つとなわばりを持ち、力をたくわえるために己より強い者のシモベとなって過ごすのです」
「そうなのか」
とケントは言った。
ホワイトバードの習性など気にしたことがなかったし、知っていてもおそらく忘れていただろう。
「ぜひともあなたのシモベにしてください」
「断る」
ケントが即答すると、ホワイトバードはショックを受ける。
「な、なぜですか? 私に乗れば移動は楽になりますし、こう見えてそこそこ強いですよ?」
動揺を隠せぬ様子で自己アピールをはじめた。
「移動は楽になると思うが、目立ちやすい上に変な誤解をされるかもしれないリスクがあるだろう」
ケントは冷静に答えを返す。
メリットがあるのはたしかだが、彼にとっては悪目立ちするかもしれないというリスクは無視できない。
ただでさえこの世界のことをよく知らないのだから、余計に慎重になるべきだと思うのだ。
知り合いなんているはずがない世界で一度誤解される、どうやって解けばいいのか見当もつかない。
とても面倒な事態になると想像することは容易だ。
「変な誤解……? ヒューマンたちは私たちをシモベとすることを、最大の名誉としていると聞いていますが」
ホワイトバードは怪訝そうに聞き返す。
「そうだったのか」
ケントは驚きを隠すのに苦労する。
ルナバードならともかく、ホワイトバードは強くもなく希少性があるわけでもない。
(それともこの世界、あるいはこの付近では違っているのか?)
ギャップに興味を持ったケントは、ホワイトバードをシモベにすることを検討してみる。
移動手段になり、空を飛べるというのは確実にメリットだ。
強さを分類するならせいぜい中級くらいになるのだが、こちらの世界でどの程度になるのかわからないのが気になる点である。
激震撃神ではレベル50までは下級、レベル51から100までが中級という分かれ方だった。
火牡丹に対する反応を見る限り、目の前のホワイトバードはおそらくレベル50台だろう。
(シモベとして人気があるのは日本で言うドラゴン的な意味なのか、それとも犬猫的な理由なのか?)
前者なら強くてかっこよく、従えるのは英雄の証となるということだ。
後者だと愛玩動物的な意味になり、戦力としては計算できないということになる。
「まあいいか。まずは行ってみよう」
少し悩んだ末、ケントは決断した。
決め手になったのは「この世界に一つの町しかないわけではないだろう」という思いである。
ダメだったらホワイトバードを乗り捨てて他の場所へ行けばいいのだ。
こちらに知り合いがおらず、何のしがらみもない彼にはそれができる。
「ありがとうございます! 頑張ってお役に立ちます!」
ホワイトバードはうれしそうに返事をした。
「この近くに人間の町はあるのか?」
とケントは問いかける。
「少し離れていますが、私が知っている場所にならご案内できますが」
ホワイトバードはおそるおそる答えた。
「じゃあそこでいいか」
ケントは即決する。
最初の町がどこになろうが、彼にとって違いがあるとは思えなかった。
「かしこまりました。では私の背中にお乗りください」
ホワイトバードが頭と胸を地面にこすりつけたので、彼はその白い背中にまたがる。
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