ただの牽制だ

「知らない種族だ」


 とケントはつぶやく。


 正確には『激震撃神』に鳥タイプのモンスターはいた気がするが、思い出せないのだ。


「我を知らぬとほざくか、ヒューマン?」


 白い大鳥は流ちょうに話す。


「しゃべった」


 ケントは鳥がしゃべることよりも、自分が言葉を理解できることに対して驚いたのだ。


 もちろん鳥にそんなことがわかるはずもない。


「相変わらずヒューマンの傲慢さ。お前たちのいう会話くらい、できる者はいると知らぬのか」


 鳥が発したのは嘲弄と憐れみが混ざり合ったものだった。

 

「もしかして人間ってきらわれているのか?」


 人間が人間らしくやろうとすれば、他の生き物にとって迷惑なのはこちらの世界でも変わらないのか、とケントは思う。


「何を今さら」


 彼の事情を知らない鳥は挑発されていると誤解したのか、はっきりと怒気をあらわにする。


「そもそも貴様だろう? 私のなわばりに風の攻撃を仕掛けてきたのは?」


 鳥に言われてケントは、自分がさっき放った風遁のことを思い出す。


「それで怒っているのか。俺が悪かった」


 彼に悪気はなかったにせよ、鳥にしてみれば喧嘩を売られたようなものだ。

 怒気を放っているのは当然のことだと頭を下げる。


「許さん! 死んで詫びよ!」


 鳥は彼の謝罪を受け取らず口から火を噴く。


「うお!」


 不意打ち同然の攻撃だったが、《忍神》のスペックなら反射的に右に跳んで避けることができた。


「問答無用か」


「当然! 我に殺されるか! それとも死ぬかだ!」


 鳥は吠えたてるような叫びをあげる。


「こっちが悪いからと譲歩するつもりだったが、死ねってのはさすがに許容できないぞ」


 命の危険にさらされてムッとしたケントが抗議した。


「なわばりを侵す者には死を! それが我らの掟なり! ヒューマンの都合など知ったことか!」


 鳥は吠えるように返答する。


 会話には応じるあたり意外と冷静だなとケントは思ったが、同時に話し合いで解決するのは無理だと感じた。


「じゃあ仕方ないな」


 ケントは反撃するために重心を低くする。


 とは言え、まだ鳥を殺すつもりで攻撃する決心はつかなかったので、忍法で戦おうかと思う。


 刀での攻撃は上手に手加減できるかわからないが、忍法はランクを落とせば威力が落ちて都合がいいからだ。


「寅、辰──火遁・火牡丹」


 彼が放ったのは中級忍法の一つで、牡丹の花のような形をした燃え盛る炎を生み出して放つ。


 ケントの体よりもひと回り大きな炎が高速で、鳥の顔の真横を飛んでいく。


「どわぁ!」


 鳥は炎の速さと威力に度肝を抜かれてよろめいた。


「な、なんだ今のは?」


 鳥の声にははっきりと怯えが含まれている。


「ただの中級忍法だ」


 ケントとしては単なる牽制、威嚇のつもりだったので、鳥の反応を意外に思う。


「何と言うおそるべき威力だ……」


 鳥の態度が明らかに変わったことを感じ取り、彼は対話を再び試みようと考える。


「次は当てるぞ。お前があくまでも俺を殺すつもりで戦うというのなら」


 脅しのようになってしまうが、やむを得ないと判断した。


「わかった。降参します」


 鳥は態度を急変させ、うやうやしく頭を下げる。


「あなたのような猛者に戦いを挑もうとした、愚かな私をどうか許してください」


 敬語を使ったあたりケントの強さを認めたのだろうと思われた。

 

「いや、わかってくれたらいいんだよ」


 対話ですむならそのほうがいい。

 自分の意志は伝わっただろうとケントは満足する。


「これからはあなたのシモベとなります!」

 

「……はい?」


 頭をあげて勢いよく宣言した鳥の言葉に、彼は目が点になった。

 いったいどうしてそうなるのか、さっぱり理解できない。

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