第5話:願い
「真聖女アイリス様、皇国が困っている事は沢山ございます。
ですがすべて共通するところがございます。
それは農作物の収穫が減っている事なのです。
皇室をはじめとする王侯貴族が予算不足で困っているのも、民が食糧の高騰に苦しんでいるのも、民が王侯貴族の政治に不満を持つのも、全てが作物の実りが悪い事に行きつくのです。
聖女様のお力で、作物を昔のように実らせる事は可能でしょうか?」
なるほど、そういう事でしたか。
そういう状況で、あのような贅沢な食事を食べていたなんて、恥ずかしくて顔から火が出てしまいます。
皇帝陛下もレオル皇太子殿下も、鍛え上げた肉体をされています。
離宮で仕えてくれている戦闘侍女達も、肥え太った人間は一人もいません。
皇帝陛下に拝謁するまでに出会った方々にも、肥え太った方はおられませんでしたから、民が飢えている状況で飽食しているモノはいないのでしょう。
「私にどれほどの事ができるかは分かりませんが、ライガ王国にいる時には、神々に豊穣の祈りを捧げていました。
それと全く同じ方法で、皇国に豊穣をもたらせる事ができるかはわかりません。
ですが今晩から直ぐに神々に祈りを捧げさせていただきます。
それとは別に、以前から試してみたいと思っていた祈りがございます。
それを試すのに、皇都に近い畑に行かせていただけますか?」
「おお、早速お聞き届けいただき、感謝の言葉もありません。
離宮には祭壇を用意しておりますので、そこで祈っていただければ大丈夫です。
皇都に近い畑ですが、皇宮内に神々に捧げる穀物を植える畑がございます。
そこで試していただければありがたいです」
皇帝陛下があまりいへりくだった態度と言葉遣いをしてくださるので、周りの家臣に睨まれるのではないかと心配になりました。
それでもふんぞり返って偉そうにされるよりはよほど好感が持てました。
あまり長く激務の皇帝陛下の時間を使うわけにはいきません。
少しでも早く後宮で休んでもらわなければ、倒れてしまわれるかもしれません。
間近で話をさせていただいて、とても疲れておられるのが分かりましたから。
「ライラネ殿、私は皇帝陛下や皇太子殿下よりも贅沢な食事をしているのではありませんか、もしそうなら、もっと質素な食事にしてください。
民が飢え苦しんでいるというのに、真聖女と称えられる私が飽食に溺れるわけにはいきません、分かってくれますよね?」
「真聖女アイリス様の真心は承りました。
ですが聖なる力を振るうのに必要な食事があると思います。
その点は遠慮されずに言っていただけますか?
それを約束していただけるのなら、皇族の方々と同じ食事にさせていただきます」
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