【本編完結】大好きな作品世界に行けたのはいいけどヒロイン達が死亡フラグに好かれすぎてて困る
山城京(yamasiro kei)
第一部「黄昏に哭く」
第1話 ※残酷描写あり。
彼女達は今日も殺される。腕を落とされ、腹を裂かれて臓物を溢れさせて、最後には首を落とされて。あるいは妖に陵辱され、孕み袋としてその生涯を終える。
醜い事この上ないはずのその屍体は倒錯的なまでに性を刺激した。それと同時に、鈍器で殴ったかのような衝撃が襲い、痛みが胸を支配する。
彼女達と恭弥は生きる世界が違った。現実の世界と創作の世界、両者を隔てるのはたった一枚の壁だった。だが、その一枚の壁がどうしようもなく頑丈だった。
――なら、その壁を壊せばいい。
何も難しいことはなかった。今生にさして未練などないのだから、死ねばいいのだ。
過去二十五年間、思い返せば良い時などほぼなかった。育児放棄すれすれの家庭に生まれ、学校ではいじめられ、やっとの思いで入った国立大学を卒業しても待っていたのは社畜という名の社会の歯車。何が楽しくて生きているのか。
それならば一縷の望みに賭けて、今生に別れを告げて大好きな作品である「夜に哭く」の彼女達に会いに行った方がいいに決まっている。
我ながら狂った考えだとは思ったが、一度そうと決めてしまうと存外行動は早かった。
深夜のなるべく人に迷惑のかからない時間帯を選んで電車に飛び込んだ。
(ああ、人間って頭だけになっても結構長いこと意識あるんだな)
最後に思ったのはそんなことだった。
「なんてことがあってから早一年。時が経つのは早いもんだ」
恭弥は先程まで見返していた日記帳をぱたりと閉じると椅子の上で背伸びをした。この日記帳は恭弥が「狭間恭弥」としての生を受けてから付け続けているものだった。
そう、何の因果か神の気まぐれか恭弥は望み通り「夜に哭く」世界への転生に成功していたのだ。
現代社会をベースに旧態依然とした御家の格や華族などの帝国風味のある世界観で、舞台は北海道だ。それだけならば元の世界とさして変わりはないが、この世界には妖の存在がある。そして、そんな妖達を討伐する力を持つ退魔師達も存在する。
退魔師達は様々な異能を持ち、それを以って妖達を討伐していく。それだけならばありがちな現代異能バトルファンタジー物だが、「夜に哭く」は一味違った。御家騒動があるのだ。むしろそっちが本命といっても差し支えないレベルである。
ウチの娘息子はこういう異能があるから当主に相応しいだのという、口での争いが可愛らしく見える程血で血を洗う内紛がそこかしこで発生する。
具体的な例を挙げると当主争いから蹴落としたいがために、子供でも倒せる妖がいるから武功立てがてらいってらっしゃいと言われ、行った先には熟練の退魔師でも手こずる妖がいました、なんて話がザラに存在する。
更に質が悪いのが「夜に哭く」は様々なメディアミックスがなされているとはいえ元の作品はエログロ上等のブランドから発売されたいわゆる「エロゲー」だった。選択肢を選んでストーリーを進めるタイプなのだが、主人公が作中でヒロインの死亡フラグを回避させることが出来るのは僅かに一回。つまり幾多いるヒロインを一人しか救えないのだ。
賛否両論あれど、そのもどかしさ故に爆発的な人気を博し、エログロが抑えられた全年齢版を始め、コミック、アニメ化もなされた。
とりわけ盛り上がったのは二次創作界隈である。超常的な能力を持った主人公が次々とヒロインの死亡フラグをへし折りハーレムを築くという二次創作が山程生み出された。
恭弥もその例に漏れず、原作を全ルート攻略したのはもちろん、公式のメディアミックス、大半の二次創作にも目を通していた。
その度に思った。「自分ならこうする」と。
二次創作という性質上どうしても原作にあった丁寧な背景設定がないがしろにされていたり、ご都合主義が満載だったりと、ヒロインが救われるという結果はともかく過程に納得がいかなった。だから自分好みに変える。せっかくこの世界に転生出来たのだから。
「とは言ったものの、そう上手くはいかないんだよな……」
ため息一つ、時計に目にやるともういい時間だった。
「おっと、そろそろ学園に行かないと遅刻するな。過去を振り返るのはこれくらいにしとかないとな」
昨夜の内に準備しておいたスクールバッグを手に取り家を出る。いってきますの挨拶はない。この世界における恭弥の設定は天涯孤独の身だからだ。
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