第20話
「本当にあったね」
「流石にこの規模は想像してなかったけどな」
アカネと栗原の二人は三十一層に到達していた。三十層の階段を降った先、今二人の目の前には巨大な研究施設があった。
「ここで間違いねえな。ユズハの魔力も感じる。その他にも馬鹿でかい魔力の塊が今にも爆発しそうだ」
「じゃあここ潰したらそれで終わりってこと?」
アカネは頷くとニヤリと笑う。
「さぁ。悪巧みをぶっ潰すか」
−−−−−−−
研究所の中では警報音がけたたましく鳴り響いていた。
「何事だ!?」
藤堂は自分のオフィスから飛び出て警備の男を捕まえ怒鳴りつける。
「し、侵入者です!女が一人壁を破って侵入してきました!」
藤堂はその報告を聞き舌打ちをする。今日という日をどれほど待ち侘びたか。悲願達成まで後一歩のところでの出来事に怒りを抑えきれなかった。
「早く取り押さえろ!殺しても構わん!女一人に何をしておる!」
この時藤堂は怒りのあまり失念していた。どんなモンスターが現れてもいいように分厚く頑丈に更には『堅牢』の付与まで施した壁を破って現れたという事実を。
「何をしておる!お前も早く行かんか!」
怒鳴られた警備の男は大慌てでその場を後にした。
「万が一があってはいかん。事を急ぐか」
藤堂は独り言を呟くと、この研究施設の中央にある増幅炉へ向かった。
悲願達成のために必要な最後のピースをはめるために。手元には全て揃った後は起動させるだけ。
「アレも最後の最後で役に立つ。出て行った時は作った事を後悔したが、やっと自らの存在理由を理解したようだしな」
藤堂は高笑いしながら進む。
その後ろをつける人物に気付かぬまま。
−−−−−
時は少し戻り、アカネが『盗人の
(アカネも全力で良いって言ってたし派手にやっちゃいますか)
栗原の魔術は下手に全力を出すと周りを巻き込んでしまうモノばかりで、普段の任務では窮屈な思いをしていたのだ。
「『業火の鎧』」
栗原が魔術を唱えると周りの景色がどんどんと赤く染まっていく。更には栗原自身の髪の毛も真っ赤に染まっていき、炎の化身へと成り代わる。
「『業火の一撃』」
栗原はその状態で全力の一撃を放つ。その一撃は分厚い壁をたやすく貫き中にあった研究機材もろとも吹っ飛ばした。
「お邪魔しますね」
その言葉に答えるようにサイレンの音が鳴り響き警備員が駆けつけて来た。
警備員達は栗原に警告一つなく発砲する。
しかしその弾丸は栗原に一つも当たることはなかった。全てが栗原に当たる前に溶けてしまう。
「な!撃ち続けろ!高位の魔術師とはいえ防御に限界は来る!」
「警告もなく発砲。やましい事がある事は確定ね。私も憂なく全力を出せる」
警備員達も魔術師であり、栗原の魔力の高まりを感じる事ができた。その自分達との圧倒的な差も。
「‥‥!!まずい!すぐに増援を呼べ!」
その場の隊長と思わしき人物が部下に指示するがその判断は少しばかり遅かった。
栗原が手を横に振るだけでその場の全員を飲み込む業火が襲う。
警備員達は防御魔術を展開するがそんな者お構いなしに炎がそれを飲み込んだのだ。
「さぁ。暴れるとしますか。少しは骨のある奴が居れば楽しいんだけど」
栗原は焼け焦げた死体には目も暮れず奥を目指す。アカネに頼まれた囮という役目を果たすために。
−−−−−−−−−
「ユズハ!今ならまだ逃げれます!まだ間に合うんです!私の事は気にしないで!貴方が生きている事が私には大切なの!」
「お母様。もう良いんです。私は十分に生きました。」
「何を言うんです。貴方なんでまだまだ生きてないわ。そんな悲しい事を言わないで」
ユズハは地下施設の客室で母とともに軟禁されていた。
ユズハの母親は魔術師ではあるが戦闘はからっきしでユズハが、逃げないための人質としてこの場に連れて来られていた。
「お母様本当にいいの。お母様だけじゃない。他にも助けたい人達が出来たんだ。だから私は自分の意思でここにいるの」
ユズハはそう言うと悲しげに笑う。本音を言えばもっと生きたい。こんな所で最も嫌った父親のために使われたくはない。それでも自分がここで犠牲になればこれまで知り合った人達に迷惑がかかる事はない。
ユズハの母親もその表情に口をつぐんでしまう。
「‥‥。でもこんなのおかしいわ!どうして‥‥」
そう言ってユズハの母親はポロポロと涙をこぼした。
我が子を救えない無力さ。20を過ぎたばかりの子にさせるべきではない表情に責任を感じながら。
「お時間です」
扉の前に立ちユズハを監視していた男から声がかかる。
ユズハはソファーから立ち上がり扉へと向かう。
「分かっていると思いますが、逃げようとすれば‥」
「ええ。分かっています。もう逃げません」
男はユズハの耳元で脅迫まがいの言葉を囁くがユズハは狼狽える事なく答えた。
「では行きましょうか。御当主様がお待ちです」
そう言われユズハはいまだ泣き崩れる母を部屋に残し扉を閉めた。
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