第16話 長経
長経と片倉は陣中で待機していると息を切らしながら一人の男が長経の前に現れた。
男は慌てながら
「長経様、も、も、申し上げますわっわっ若松情が討ち取られました」
長経と片倉は男の言っている事が理解できなくて長経は恐ろしい顔で
「嘘だろ、何言ってんだ!戦でそういう冗談は我は好まんぞ‼」
「長経様、本当です。太松太郎は討ち取られました。萬崎勢は太松を討ち取った勢いでこちらにも攻めてきております」
長経は気持ちを落ち着かせるために一回大きく深呼吸をして
「いいか皆の者、ここはなりふり構わず逃げるぞ」
「はい」
天羽軍は退却を開始した。
長経は退却しながら
まさか、まさか太松太郎が討ち取られるとは
世の中わからないものだ、とにかく我ら無事逃げれられればよいが
長経は焦りながら山の中を馬に乗って駆けていた。
焦っている自分を落ち着かせるように何度も大きく深呼吸をし、焦っている自分の感情を押し殺して余裕ある態度を装って家来たちに声掛けをした。
長経が家来達を不安にさせないように必死に努力していることを感じ取った家来達は絶対に長経を守り切ると気持ちを高ぶらせた。
天羽軍は次々と追撃してくる萬崎軍に討ち取られていき長経の周りには十人もいなかった。それでも必死に逃げると萬崎軍は追撃をやめた。
「長経様、ご安心くだされ、もう萬崎軍は追撃をやめました」
片倉の言葉に長経は
確かにそうかもしれない、奴らが倒したかったのは太松太郎だ、その太松を討ち取ったのならばもはや戦は終わりなのだろう。
「そうだな片倉、わしらは逃げ延びれるな」
「そうです」
長経達が安心したその時だった。
ドドドドド
「何の音だ」
豊影の旗が向かってきた。
長経の家臣の者が
「豊影の旗です、奴ら援軍に来たんですかね?」
「違う、よく見ろ。奴ら裏切ったんだ」
豊影軍は勢いよく長経達に向かってきた。
「皆の者、長経を討ち取れー!!」
豊影の号令で豊影軍はいっそう勢いを増した。
「殿、ここは我らに任せてください我らが必ず食い止めます」
「お前達」
「片倉、殿を頼むぞ」
「はい」
「さらば殿、今までありがとうございました」
家来達は皆豊影軍に飛び込んで行った。
長経は目頭を押さえながら
すまぬ、我の為に
長経と経丸は逃げて行った。
天羽軍は粘るが疲労と戦力の差により
徐々に追い詰められ遂に壊滅した。
「長経の首だ、必ずや長経の首を取れ」
豊影は必死だった。
太松を裏切って萬崎に付くには手土産として何としてでも長経の首が必要だと思ったからだ。
「どんどん追っ手が近づいております」
「ああ」
もう覚悟を決めなければな。
長経は腹をくくった。
「やっと追いついたぞ」
「ほーどうなされた、わしらは共に太松様についていたのではないのか?」
長経はわざとぼけた質問をした。
豊影は低く小さな声で
「そんなものとっくに終わってるは、お主の首を頂戴しに来た」
「卑怯者だなお主は、わしらを裏切りおって」
「裏切りなど我らはしておらぬぞ、太松様が亡くなった、同盟者がいなくなったから別の方に同盟を持ちかけようとしてるだけだ」
片倉は怒った声で
「口だけは達者な奴めこの場で刺し違えてやる」
長経は刀を抜こうとする片倉を止めた。
「もう覚悟はできている、おぬしにわしの首を差し出す」
「ほーいい心構えだ」
「長経様、何を、何を言っておられるのですか」
「ただしこの若者には危害をくわえないでいただきたい」
「はっは、そやつの首などなんの価値にもならんからいらん」
長経は小さく優しい声で
「去れ、片倉」
「長経様は我が恩人、その恩人を見捨てて去ることなぞできません」
長経は片倉の顔を両手で包み込んで
「片倉、わしがお主の恩人なのなら最後まで恩人でいさせてくれぬか」
「殿」
長経は片倉を抱きしめ
「あの時お主を助けて本当によかった」
片倉は悲しい感情がこみあげてきた。
「お主がいるから安心して死ねる」
「経丸を頼んだ」
「殿」
「さぁいけ、達者でな片倉」
長経は笑顔で片倉を突き放した。
片倉は長経に向かって真剣な表情で
「大殿、すみません今から私は初めてあなたの意見に逆らいます」
「何だと」
片倉は大声で
「私は逃げません。もう自分だけ逃げて大切な人を失うことなど絶対に嫌なんです」
「しかし、ここでお前が死んだら天羽家は終わりだぞ」
片倉は豊影の方に刃を向けながら強い覚悟を持った口調で
「大丈夫です。私も殿も死なずにこいつらを殺しますから」
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