第15話 萬崎

朝早く長経と片倉は太松太郎の本陣につき太っている金持ちのボンボンみたいにのほほんとしているブサイクな顔の男太松太郎に




「天羽長経ただいま参陣いたしました」




「おー天羽殿よく来たな、的な」




太松の隣に長経と片倉の見慣れた男がいた。




「天羽殿、こちら豊影殿だ、的な」




 長経は嫌味っぽい口調で




「この前はどうも」




「いえ、こちらこそ」




 険悪な二人に太松は割って入って




「はい、はいこの前のことは仲直りしましょう」




 若松は長経と豊影の手を取って握手させた。




太松はニコニコした表情で




「豊影殿が先陣を務めてくれるお陰で今回の戦はスムーズに進むようになる的な、だから天羽殿も活躍期待してる的な」




 長経と片倉は声を揃えて




「はい」




太松軍は豊影を先陣に太松、天羽という順列で進軍していった。豊影軍は次々と萬崎軍の支城を落としていった。




次々と城を落としたとの情報を聞いて太松太郎は上機嫌で




「やはり、萬崎はうつけだ。数少ない兵を一か所に集めて籠城せずに各支城にバラバラに配置し個々撃破されるなんて」




横にいた家来も太松に同調するように萬崎をバカにして笑った。








夜中になって萬崎の居城那古野城では




元から年老いている爺やがこたびの戦でさらに老けた顔で




「殿、太松の先鋒豊影軍の攻撃で次々と我らの城が落城しております」




 いかつい血気盛んな禿げ頭の男が




「もう、こうなったら突撃だ」




それに対して太っている男が




「いいや、籠城だ」




「意気地がないから籠城と申しているんだろ」




「バカは突っ込んでいくしか能がないからなこの禿げ太郎」




 禿げ頭の男は頭にきて




「何だ、このデブ!」




 太ってる男もも応戦するように




「やんのか!」




禿げ頭の男元木と太っている男山下とで喧嘩が始まった。




 二人は取っ組み合いになり乱闘を始めた。




 爺やは慌てて




「おやめください、おやめください、殿どちらにするか早く決断してください」






萬崎はずっと黙っていた。そして




「やめんかー」




大声で怒鳴った萬崎の迫力に皆、氷ついた。




爺やは心の中で




殿もやるときはやるんですね




緊迫した空気になり皆は萬崎の言葉を待った。




萬崎は一呼吸おいて




「俺はこの戦のことなど知らん、寝る」




 萬崎は去っていった。




「殿―‼」




 爺やの声は廊下に響き渡った。








萬崎は自分の部屋に戻り




「天子、どうしたらいい若松が攻めてくるよ~」




萬崎は自分の部屋ですごく綺麗な顔立ちの整った妻天子の膝の上で甘えた声で言った。




 天子は萬崎の弱音を聞きながら萬崎の背中をさすっていた。




 天子は優しい口調で




「殿、私は殿なら太松を倒してこの国をお守りすることができると思いますよ」




 天子は萬崎の頭をさすり




「私は殿が天下人になる人だと信じてますから」




 萬崎は上機嫌で




「おっし天子、俺その言葉待ってたわ」 




 天子はにこやかな表情で




「殿、明日は存分に戦ってください」




 萬崎は天子を抱き寄せた。








 そして朝五時、萬崎はいきなり起き上がり




「天子、茶漬けを頼む」




「はい」




 天子は素早く茶漬けを用意した。




 萬崎は茶漬けをかきこむように食べ




「人間五十年下天のうちに比べれば夢幻の如くなり」




 萬崎はかっこよく熱盛を舞ったのだった。




 萬崎は武具を着て法螺貝を八田に吹かせ




 寝ぼけ眼で集まって来る家来に




「今から太松軍に突っ込んでいくぞ」




心配そうな顔をする家来たちに




「俺は天下を取る男、こんなところで死にやしない、黙ってついてこい」




家来たちは萬崎のいつも見られない真剣な表情を見て頼もしく思った。




「皆の者俺に遅れをとるなー、行くぞー‼」




萬崎は凄い勢いで走っていく家来達は萬崎に追いつくよう急いで支度した。




萬崎は先を急ぐので皆も必死についていくがどんどんと遅れる者が続出した。




「殿、皆ついてこれてないですよ」




「何‼」




萬崎は振り返った、そこには家来五人しかいなかった。




「まぁ、いいやちょうどここの熱田神宮で必勝祈願するか八田、賽銭の用意を」




「はい、わかりました」




萬崎と数少ない家来と必勝祈願をしていると続々と遅れていた者が追いついてきた。




 爺やは息を切らしながら




「殿、急に出陣って言われても困りますよ」




 萬崎は笑いながら




「悪いな、勝つためには敵に行動をばれたくなかったからな」




 そう言って萬崎は爺やの肩を叩いた。




そして太松軍の様子を見に行っていた伝令が萬崎の前に現れて




「殿、太松軍は長く延びきっていって本陣はこの先の盆地で休息を取っています」




 この伝令の情報に萬崎は




 しめた、この戦もはやこちらの勝ち戦だ




「よい情報をありがとう」 




 萬崎は伝令に丁寧にお礼を言いい皆に向かって




「いいか、今お前たちはこの国のターニングポイントにいる」




萬崎は大声で




「歴史を変えよ、そしてこの国を俺と共に変えよ‼」




 皆は叫ぶように雄たけびをあげるといきなり大雨が降りだした。




 萬崎はしめたと思い




「天も我らに味方した、目指すわ太松太郎の首ただ一つ俺に続けー‼」






その頃太松軍は盆地になっている場所にいて各自突然の雨を避けるため木のしたなどに入ったためバラバラになっていた。




「殿、この雨なかなかやみそうにありませんね」




「まぁ暑かったからちょうどよかった的な」




「殿、近くの住民が酒を持って参りました」




「おーいいところに酒を持ってきた、この戦もはや勝ち戦、皆の者戦勝祝いだ飲め飲め的な」




太松軍の兵達は次々に酒を飲んでいった。




「萬崎攻めなどこの太松太郎にかかれば楽勝、だなゆかい、ゆかい的な」




 この油断と雨の音で萬崎軍が近づいている事に誰も気づかなかった。




 萬崎軍は遂に太松軍を見下ろせる位置まで進軍していた。




「いいか皆の者、他の者には目をくれるな、狙うは太松太郎の首ただひとーつ‼」




萬崎の号令で萬崎を先頭に萬崎軍は一斉に太松軍に向かって行った。




若松は騒音を聞いて




「おい何事だ、誰かケンカでもしているのか的な」




 すぐに様子を確認しに行った家来が戻って来て




「申し上げます、萬崎軍が奇襲を仕掛けて来ました」




 太松太郎は動揺し




「なぜだ、萬崎はこの太松太郎に怯えて城で震えているのではないのか?」




「殿、とりあえずお逃げくだされ」




 太松太郎は泣きそうな顔をしながら逃げたが




萬崎軍は太松太郎を取り囲んだ。太松軍は兵が延び切っていたのと酒に酔っていたのとで全然萬崎軍に抵抗ができない、そのため大将の太松太郎に逃げる間も与えることもなく囲むことができた。萬崎軍の兵は太松太郎に襲い掛かる両軍入り乱れてもみくちゃの中若松情は足を刺されたが刺した男の腕を刺し返した。その後別の男に背中を刺されたがそこは踏ん張ってその男の脇を刺したりして抵抗したが、多勢に無勢遂に太松太郎の首は無情にも刎ねられた。




「敵将、討ち取ったりー‼」




 萬崎の若い家来のこの叫び声が盆地の中をこだました。




太松太郎を討ち取られた若松軍は散りじりになって逃げて行った。




 これにて萬崎軍はこの戦の勝者となった。




 爺やは声を震わせながら




「とっ殿、かっかっ勝ちましたね」




 萬崎は心の中で




 ほんとに勝っちゃったよ、でもここはかっこいいこと言わないと




 萬崎は真剣な顏で




「おい爺や、そんな驚くなよ俺は天下を取る男だぞこんな戦勝って当然」




 萬崎は爺やと肩を組み




「だから俺に一生ついてこい」




 爺やは声が裏返って




「はっ、はい」




 萬崎は爺やの裏返った声を聞いて爆笑した。




 爺やは萬崎の笑顔を見て




 大殿、若殿は立派になられましたぞ




「あっ、智之。おしっこ漏らしてる」




「えっ?あっ、ホントだ」




萬崎は慌てて




「はっーた~雑巾持ってこい今すぐ拭け!」




「雑巾なんか持ってないですよ」




「じゃあ、お前のふんどしと袴よこせ俺のと交換するから」




「汚いから嫌ですよ」




「よこさないなら奪い取ってやる」




逃げ出す八田に萬崎は大きな声で




「待てぇ~ーはっーた~!!」




爺やはこの光景を見て呆れながら




大殿、やはりまだ若殿はうつけ者です。




 この戦の結果が天羽家に大きな影響をもたらすのであった。




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