第6話前哨

士郎は必死に稲荷を背負いながら大多喜城に着いた。


「誰かー来て」


 士郎の呼び声に経丸達は走ってくる。


「どうした?」


 経丸はぼこぼこにされている稲荷を見て


「えっ、大丈夫ですか?」


 凛は冷静に


「片倉さん救急箱はどこですか?」


「今持ってくる」


 経丸は稲荷の手当てをしながら


「何があったの士郎?」


「ちょっともめただけだよ」


「どころですみませんがお名前は」


「こいつはチビる、それがしの幼なじみ」


 稲荷はか細い声で


「本名は稲荷です」


「私、天羽経丸です」


「おい稲荷、ちゃんと挨拶しとけよ、一応殿がこれからお前の主君になるんだから」


「えっ士郎、稲荷さん私に仕えてくださるの?」


稲荷は自信なさそうに


「もし、経丸さんが雇ってくださるなら」


 経丸は満面の笑みで


「もちろんですよ、こちらこそお願いします」


稲荷と経丸は堅い握手を交わしたのであった。


 経丸は嬉しそうに


「これでまた仲間が増えて嬉しいです」


「そうですね、士郎はまだ戦力として半人前ですからね」


「片倉さーん」


 士郎の叫びに皆は笑った。




 そして次の日


「よし士郎、また仲間を増やしたいから探しに行かない?」


「えーめんどくさい」


「じゃあいいや、他の人と行くから」


「仕方ないなぁどうせ殿が頼んでも誰も来やしないからそれがしがついて行ってやるよ」


「偉そうに、私が頼めば皆来てくれますよ」


 スーッと戸が開いて


「殿、すみませんお話が聞こえたもんで」


 経丸は片倉をキラキラした目で見て


「じゃあ、来てくれるんですか??」


「いや、士郎君と二人で行った方がいいんじゃないですか?」


「士郎と二人だと何かあった時不安なので片倉さんに付いてきてもらいたいです」


片倉は少し笑いながら大きな声で


「士郎君、全く信用なーし!!」


「やかましいわ」


士郎は片倉の頭を叩いた。


「片倉さんが来てくれるなら士郎いらないわ」


「はぁ?それはおかしいだろ、それがしはこう見えても大多喜の英雄って自分で言ってんだぞ」


凛は呆れた感じで


「はい、はい兄貴。本気で怒らないそれと大多喜の英雄ってギャグ面白くないよ」


「ギャグじゃねぇ、本気で言ってんだよ‼」


「殿、仲間探しは延期して兄貴を病院に連れていきましょう」


「そうだね、そうしよう」


「それがしは病人じゃねぇ‼ってか凛いつからここにいた」


「士郎はいらないから」


「なんか嫌なところからいるな」


「殿、私も行きたいです」


「ホント?じゃ行こうよ」


「しょうがねぇ稲荷も誘ってくるわ」


「士郎、もう俺いるよ」


「いつの間に?」


「俺耳はいいからお前の会話納屋の近くにいても聞こえたし」


「納屋ってここから五十メートルあるぞ、それと聞こえてから来るのも早くないか」


「まぁ、耳と足だけは自信あるかな」


「何だよ、お前も才能あってよかったじゃん」


「これは才能なのか?」


「才能だよ、自信のあるものは何だって才能何だから」


「そうなのか」


 経丸はワクワクした表情で


「じゃあみんな揃ったからいこう」




天羽家の皆は城を出て川沿いを歩いていると片倉は石橋の端を歩いている士郎に


「おい、士郎そんなところ歩いていると危ないぞ」


 士郎は調子に乗りながら


「ダイジョブ、ダイジョブ」


 と言って片足でケンケンをし始めるとすぐ


「やばい」


 士郎は足を滑らしとっさに腕を伸ばし一番近くに歩いていた稲荷の服の袖を掴んだ。


いきなり強い力で掴まれた稲荷もバランスを


崩し二人は川に落ちていった。


経丸は二人を助けようと本能的に川に飛び込んだが経丸は泳げないのである。


「とっ殿‼」


片倉は急いで飛び込んで経丸、士郎、稲荷の三人を抱え岸に上がった。


「殿、お怪我はないですか?」


「片倉さんがすぐ助けてくれたのでないです」


 片倉は安堵の表情で


「よかったぁ、殿に怪我が無くて」


 士郎は小さい声で


「すみません片倉さん」


「俺より殿と稲荷君に謝りな」


「ごめんね、稲荷、殿、助けようとしてくれてありがとう」


 稲荷は不機嫌な顔で


「あーあ、士郎のせいで俺まで巻き込まれたよ」


「まぁ稲荷さん、士郎も反省してるみたいだし許してあげてください」


「殿がそういうなら」


片倉と凛の二人は鳩が豆鉄砲食らったような顔で


えっ、殿が士郎をかばうなんて


経丸は士郎が素直にお礼を言ってくれたことが嬉しかったのである。


「殿、でも次こういうことがあっても泳げないんだから助けなくていいよ」


 士郎の一言に経丸はカチンと来て


「士郎を助けようととっさに体が動いたんだよ、それなのに士郎ってホント最低‼」


 凛もあきれた感じで


「殿、こんなバカ兄貴は一回川に流された方がいいんですよ」


「ほんとそうだよね」


「何言ってやがる、それがしは殿にもしものことがあったら困るから言ったのに」


 片倉は険悪な雰囲気にならないように


「士郎は怪我してないのか、あっ元から毛がないもんな」


「くだらねぇなぁ」


士郎は上半身を脱いでいる片倉の背中をバチーンと思いっきり叩いた。


「いってぇよお前、あとついたじゃねぇか」


士郎は片倉の背中を見てニヤニヤしながら


「あっ、ホントだ痛そうもう一発」


 士郎は思いっきりもう一発背中を叩いた。


 バチーン‼


「いってぇ、この野郎」


片倉は士郎を追いかけ回す。凛はそれを見てボソッと呟くように


「まったく、恩を仇で返すってこのことだね」


 経丸も同意するように


「ホントね」


 士郎は片倉に捕まって、逃げようと適当に


指さし


「片倉さん、あれを見て」


「あっ!」


 ごまかして指を指した士郎は片倉の反応に


びっくりして


「えっ?」


士郎が指さした所で両手両足を大の字のようにして二本の木にくくりつけられている


女の子とその女の子を何人かの男が囲んでいる。


「悪いが死んでもらおう」


「そこの者達、何やってんだ」


 男達は振り返って。


「何者だ!」


「人気者だぁー‼」


 凛はため息をつきながら


「こんなのが兄だと思うと恥ずかしい」


 経丸と片倉、稲荷も凛に同情するように


「そうだろうね」


男の一人が


「てめぇら、ふざける相手間違えてるぞ、怖い目に遭いたくなければさっさと去りな」


 士郎はドヤ顔で


「おなごを見捨てて逃げるなど男のすることではない」


「ねっ、今のセリフはかっこよかったでしょ、凛」


 凛は呆れた顔で


「はぁ、情けない」


「ごちゃごちゃうるさい野郎どもだ、死にやがれ」


男達は襲い掛かる


士郎は慌てて


「待て、待て急に襲いかかってくるな」


士郎は経丸の前に男達の攻撃から庇うように立ったが


経丸は片倉さんと二人で襲い掛かる敵に対して経丸は大声で「天瞬羽突」と叫びながらジャンプしながら回転して敵を斬り、片倉は低い体勢から「懸命守覚‼」と叫びながら鋭く敵を斬り倒していった。


圧倒的強さの二人に敵は成すすべなく倒れていった。


士郎は得意気に大声で


「大多喜の英雄外岡士郎の主、天羽経丸の実力を思い知ったか‼」


士郎はそう言って女の子の元へかけていった。


経丸は縛られている女の子に優しく


「もう大丈夫ですよ今、ほどきますからね」


 経丸は手際よく刀で縄を切った。


女の子は色白で髪は長く肩にかかるくらいで体型は細身でお人形みたいなきれいな顔をしていた。


「すみません、助かりました」


女の子はそう言って頭を下げて怪我と疲れでふらふらになりながらこの場を去ろうとした。


 その姿を見た経丸は


「待って、あなた怪我してるでしょ」


「大丈夫です」


 経丸は女の子の手を掴み


「大丈夫じゃない、うちで手当てするからおいで」


 女の子は少し怯えた感じで


「大丈夫です」


「それがし外岡士郎、この人は主君の天羽経丸悪い奴じゃないから大丈夫だよ」


士郎が名乗ったことにより女の子はすこし恐怖心がとけ小さな声で


「私はひのです」


「よし、じゃあ名前もわかったし殿、手当してあげて」


経丸は笑顔で


「もちろん」


女の子はか細い声で


「すみません、お願いします」


この出来事が宿敵を生むことになることを


経丸達はまだ知らないのである
































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