第5話稲荷

日差しが差し込んで暖かい五月の大多喜城内


で片倉は経丸に


「殿、この方はもしかして?」


「今日から天羽家にお世話になります。外岡凛です、片倉さんお久しぶりです」


片倉は驚きながらながら


「あっ凛ちゃん‼ずいぶん大きくなりましたね」


「はい」


 凛は深々と片倉に頭を下げた。


 深々と頭を下げる凛に片倉は


「すごく賢そうになって」


 なぜか士郎が得意げに


「そうだよ、賢いんだよ凛は」


 片倉は嘆くように


「士郎君は賢くないのになぁ」


「やかましいわ」


 皆、笑った。


「せっかく凛ちゃんも仲間になってくれたから何かあれば良いのですが」


 士郎は腕を組みながら偉そうな態度で


「しょうがねぇなぁそれがしが買ってきってやるよ、何の準備もできていない経丸のために」


凛はムッとする経丸を制するかのように


「また、シロピロは余計な事を言って」


 凛は士郎の頭を叩いた。


「いってぇー何すんだよ凛」


 頭を叩かれて怒っている士郎の横で経丸は


 嬉しそうな顔をし


「ナイス、凛ちゃん」


「ナイスっておかしいではないか」


 怒って経丸に詰め寄ろうとする士郎に経丸


 と凛は声をあわせるように大きな声で


「いいから、早くいけぇー」


 士郎はビビッて勢いよく城を飛び出した。


 士郎は日の光が反射している河川敷を機嫌よく歩いていると集団で一人の男の子をいじめているのを発見した。


「おい、お前らやめろよ」


 男の一人が士郎の顔を見ておらおらした感じで


「なんだお前」


 士郎はいじめている男の言葉を無視して倒れている男を見て慌てて


「おい、チビるじゃないか大丈夫か?」


 士郎はいじめられていた男を抱えながら男達をにらみつけて


「おい、てめえらなんてことしてくれたんだ」


 士郎より一回りも大きな主犯格の男が


「こいつは俺たちの下僕だから、文句あるのか?お前」


士郎は恐怖で震えながら


「文句あるに決まってんだろ!それがしの大事なチビるになんてことしてくれてんだ」


 主犯格の男は笑いながら


「お前、まさかこの人数相手に逆らう気か?」


 士郎は敵の数を指で数えて


「1,2,3,4,5」


やはりこの人数相手に戦うのは無理だ。けどチビるがやられたんだこのまま逃げるわけ行かねぇだろ


「お前ら今すぐやめろよ」


「バーカ、ゴミを叩き潰すのをやめるわけないだろ」


「ゴミだと」


士郎は大きく深呼吸し


 本気で怒る時はまず冷静になること


「ゴミに決まってんじゃん俺の親が雇わないとこいつは生活できないんだぜ」


士郎はわざと煽るように


「ほう、そうかチビるがゴミならじゃあチビるにくっついているお前らは寄生虫だな」


「何だとてめぇ」


 士郎は小躍りしながら


「ボウフラ、ボウフラ君たちボウフラ、はい


はい一緒に」 


 男たちも士郎につられて


「ボウフラ、ボウフラ俺たちボウフラって何やらせんだお前は」


 士郎はあくびをしながら


「やはりお前ら、バカなんだな」


「てめぇら殺す」


 士郎は頑張って余裕の表情を作って


「まぁまぁ君たちいくら寄生虫だからって俺たちに寄生するのはもうよそうぜ」


「てめぇはマジで殺す」


 士郎は低く怒りを秘めた静かな声で


「やれるもんならやってみろよ」


 士郎は自分を奮い立たせるために大きな声


 で「外岡士郎ならできる!外岡士郎ならできる!気持ちー‼気持ちー‼」と大声で叫びながら向かってくる敵を木刀でなぎ倒していった。


 士郎は圧倒的な強さで敵を倒し倒れた敵に向かって


「天羽経丸を守る男がお前らみたいなカスに負けるかバーカ‼」


 士郎はチビるの元に歩き


「チビる、仇は討ったぞ」


 チビるは曇った表情で


「ありがとう、でも、」


「でもってなんだ」


 チビる士郎の下半身を見て呟くように


「よっぽど恐かったんだね士郎」


「あー、漏らしてる。おい、チビるこの事誰にも言うなよ」


チビるは笑いながら士郎を煽るように


「前も後ろも漏らすなんてやるなぁ」


「おい、お前」


近づこうとしてくる士郎に稲荷は必死に


「やめろよ、士郎近づくなお前今漏らしてるんだから」


「ひでぇ奴だなぁ、お前せっかく助けてやったのに」


「まぁ、まぁ、距離おいて座れよ」



「明日からどうやって生活しよう」


「生活?」


「俺はあいつの親に雇ってもらって収入を得てその収入で家族の生活を支えていたんだ俺の収入がなきゃ俺の家族は生活していけないんだ」


「お前、だからあんな奴に何されても抵抗しなかったんだ」


「そうだよ、俺が我慢すれば家族の皆がご飯食べれるんだよ、だったら我慢するだろ」


「それじゃあ、お前潰れちゃうぞ」


チビるは小さな声で


「俺みたいな才能ないやつは家族の生活を守るためには潰れても仕方ないんだ」


「誰がお前に才能ないって決めたんだ」


「えっ?」


「お前はそれがしなんかよりまじめだし自分を犠牲にしてまで家族を守ろうとするその心意気は才能じゃないのか」


「いや、そんなの才能って言わないよ」


「才能は目に見えてわかりやすいものだけじゃないからな」


「士郎、ありがとうなんか今までの自分が救われた気がする」


 士郎はチビるの頭を鷲掴みでガシガシしながら


「何、改まってお礼なんか言ってんだよそれがし達親友だろ」


「俺、あいつにちゃんと誤ってもう一度勤めさせてもらう」


 士郎は驚いた顔で


「はっ、何言ってんの?」


「いや、何って何が?」


「なんであんな奴のところでまだ働くんだよ」


「俺何度もやめようと考えたけどお前が自分を犠牲にして家族を守れるのは才能って言ってくれたから自分に自信持てたよ」


「いや、そうじゃないあいつのところじゃなくたって働き口はたくさんあるだろう」


「俺、耐えることしかできないからあそこしか雇ってくれないよ」


「なんでお前は自己評価が低いんだよ」


 チビるは真剣な顔で


「逆になんで士郎はそんなに自信に満ち溢れて生きているんだ?」


「お前、めちゃくちゃ失礼だな」


「いや、そんなつもりじゃなくて純粋な疑問」


 士郎は腑に落ちないながらも


「それがしの最大の武器は根拠のない自信だからな」


「あっ、士郎は楽天家なんだね」


「なんか、お前いちいちムカつくな」


「そうかな?」


 「そうかな?」という言葉にも士郎はイラっとしたがあえて突っ込まなかった。


「あっそうだ、お前天羽家に仕えろよ」


「そこは待遇いいの?」


 

「お前さっきまで待遇とは縁がないところで働いていたじゃないか!!」


「まぁ、そうだけど一応気になるじゃん」


「まぁ、小さな城の城主やけど、やりがいはあるぜ天羽家に仕えるのは」


「そっかじゃあ一度行ってみようかな」


「小さな城だけどわがまま言うな、いくぞ」


「なんも言ってないよ」


「うるさい、いくぞ」


 士郎は強引にチビるを経丸に仕えさせること


 に決めたのであった

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