第16話 人魔大戦と神々の終焉 前編
シリウス山を西へ下り、昨日野営した場所まで戻ってきた。
今日はここで野営して、明日の朝早くフェラウノス商会の迎えと合流する村へと向かう。
俺、リオス、そしてシノンは食事の後片付けをしていた。
後片付けとはいっても、この野営地のすぐ近くには清浄な泉があり、そこらか流れ出る小川で食器を漱ぐくらいだが。
ちなみに、汚れた水や残飯は穴を掘って埋めればいい。
「リオス、お前達はどうする? 勇者としてのエシュアの加護はもう掛かってない。北か南の辺境へ行けば穏やかに暮らせる場所もあるだろう」
人と魔、竜と人が共に暮らす場所なら、元勇者でも気楽に暮らせる村もあるだろう。
「それは……質問に質問を返す無礼を承知でお訊きしますが、レックさんはどうする気です?」
「俺は神界に向かいエシュアと決着をつける。その為にまずは北の白竜山脈へ向かう」
「白竜山脈? あんな北の果てに何が?」
北の竜族領の中でも最も北にある山脈、ログ山脈。その別名が白竜山脈だ。
「神界への転送装置がある。お前達が白竜妃と呼ぶホワイトオニキスはそれを護っているんだ。俺自身、ここからでも神界に行けなくはないが消耗が激しい。可能なら最小限の消耗で神界に行きたい。恐らく、俺が封印したメルリとサトスを無理矢理解放してエシュアが待ち構えている筈だ」
「今回貴方が闇神ローリアを滅した事で、以前貴方が語っていた事が真実だと証明されました。しかしそれにより更なる大きな疑問が生じてしまいました。レック・セラータ、貴方は一体何者なんですか? どうして神を滅する事が出来るのです?」
リオスと俺の会話にシノンが割って入ってきた。
神官であるシノンにとって神を滅する事の出来る俺は看過出来ない存在だろう。
正体を知りたい気持ちは分かるが……
いや、教えてしまうのもアリか。
最初に神を滅した話をした時と同じで、結局、信じる信じないは本人次第なのだから。
「俺が治療術と呼んでいる魔法は、お前達が思っているような、光属性の回復魔法じゃない。魔法の根幹、創造神エクスアシュアの力、純魔法だ」
「純魔法……?」
「純魔法は創造と破壊の魔法。創造と破壊は表裏一体。極めて正確な知識があれば、あらゆる物体、事象を創造出来る。そして、創造の反対、つまり破壊もな。だから、神という存在の正確な知識があれば、滅する事も出来るという訳だ。逆に言うと、正確な知識が無ければ何の役にも立たない力だ」
「……貴方は創造神エクスアシュアの化身、ですか?」
恐れを抱いた表情で俺を見るシノン。
まぁ、自身の信じていた神を越える力を持つと言われたら恐れるのも無理はない。
「違う。俺は普通……ではないが人族だ。だからエクスアシュアのように何でもかんでも創造したりは出来ない。それが出来るならガーネットは勿論、今まで助けられなかった者はいなかっただろうな」
所詮は人の身。万物全ての知識など持っていない。
特に精神に関しては。
それが量子データである事が分かってはいる。
だが、どうして自我が芽生えるのか? どうやって自我が芽生えるのか? どうやって自我が成長するのか?
単純に、脳の神経細胞の繋がりというだけでは説明出来ない何か。
だから死人を蘇らせる事は出来ない。身体という器を創り出せても、精神、言い換えれば魂を創り出す事は出来ないのだから。
「あら、面白そうな話してるわね。ワタシ達も混ぜてよ」
様子を見にきたのか、レイラ、ユキカ、ルビーと、勇者パーティーズのアイがやって来ていた。
「どうした? 揃いも揃って」
「泉があるなら水浴び出来ないかな?って思って見に来たのよ。ならついでにレックの様子もって事になってね」
「俺の様子?」
「うん……お兄ちゃんね、お母さんが死んじゃった時、ルビーが見たことないくらい悔しそうで悲しそうだったから……」
あぁ、俺がガーネットを助けられなかった事を悔いて落ち込んでいるんじゃないかと心配してくれたのか。
俺はルビーの頭を撫でた。
「そうだな。今でも悔しくて悲しいな。だが、それで立ち止まっていてはガーネットに顔向け出来ない。ガーネットはお前の幸せを願っていた。なら、お前を、いや、お前やユキカ達みんなを幸せにする為に俺は前に進む。そして、お前達の幸せの為にはあの駄女神を排する必要がある。だから神界に向かう」
もうこの世界に管理神は必要ない。
人族も魔族も、神におんぶや抱っこされてばかりいずに、自らの足で立たなければいけない時が来たのだ。
属性魔法なぞなくとも、世界の理をきちんと調べ知れば、人族や魔族の身でも利用出来るものは五万とある。
「ワタシも、うぅん、ワタシ達も行くわよ。おいてきぼりはダメだからね?」
また生命と引き替えにと言い出すとでも思ったのだろう。レイラが付いてくると言い出した。ユキカとルビーもその後ろで頷いている。
嫁さん同伴で仕事に行く旦那ってどうなんだ?
「……分かった。転送装置の所までは連れて行く。だが、神界へは俺一人で行く」
「っ! なんでっ!?」
「お前達が神界の理を知らないからだ。あそこで自分がどういう存在になるのか? どうやって自分を保つのか? どうやって戦うのか? それを知らない奴が神界に行ったら、10秒と持たずに消滅するぞ? そんな所に愛する妻達を連れて行けるか」
「それなら今からでも教えてくれれば!」
尚も食い下がるレイラ。俺を心配する気持ちが痛いほど伝わってくる。
だが、それでどうにかなるなら最初から拒否したりはしないんだぞ?
「ならレイラ、俺がお前の目の前で胸を貫かれて盛大に血を噴いているのを見せられて、全く動揺せずにいられるか?」
「む、無理よそんなの!」
「それが出来ないなら神界には連れては行けない。神界とはそういう場所だ。全ての者は精神体へと変換され、その維持に精神力が必要になる。動揺させられ集中力を失うと精神体の維持に回す精神力も減る。その状態で更に精神攻撃を受けるとあっさり消滅する。だから、神界に行く為には、どんな事にも全く動揺しない強靭な精神力が要求されるんだ」
「…………」
流石のレイラも押し黙った。精神に影響を及ぼす術を掛けた、掛けられた事のあるレイラだからこそ、その難しさが分かったのだ。
「それに、神界じゃないからといって安全とは限らない」
「どういう事?」
「……そうだな。ここから先は少し長くなる。先に水浴びしてきたらどうだ? 身体を乾かしている時にでもまた続きを話してやるから。シノンも一緒に行ってくるといい」
「……そうね。そうするわ。みんな、行きましょ」
あっさりと俺の提案に乗ったレイラ。きっと話す事を纏める時間をくれたのだろう。
ぞろぞろと泉の方へ向かっていく女性陣とリオス。リオス?
「リオ~ス。お前はダ~メ~だ~」
「じょ、冗談ですって! ホントに! アーーーーーーッ!」
◇◇◇
水浴びをしてさっぱりした。
ホントはユキカの家に戻ってお風呂に入りたいところだけど、リープが使えなくなっちゃったし。
リープ系魔法は火属性以外なら存在する。でもワタシは、光と風はリープが使える程習熟していない。
光はともかく、風はもっと勉強しておくべきだったかも……
今はみんな焚き火の周りで暖を取りながら髪を乾かしてたりする。
レックが魔法で調整してくれてるから寒くはない。
焚き火の上には湯沸かしポットが棒で吊るされていて、レックが煮出している薬草茶の香りが鼻腔をくすぐる。
ちなみに勇者くんは首から上だけ出して地面に埋められている。
レックが木のカップに淹れた薬草茶をみんなに配り終わるまで待ってからワタシは口を開いた。
「レック、さっきの話の続きだけど……」
「その前に、お義父さんとお義母さん達に簡単に話しておかないとな」
あ、そっか。途中から聞いても分からないかもね、お母様と叔母様。
「昼間皆には話したんですが、自分とユキカ、レイラ、ルビーは、白竜山脈へと向かい、そこから神界へと赴いてエシュアとの決着をつけます。3人は白竜山脈までは同行してもらいますが、神界へは俺1人で行きます。安心して下さい。ただ、決着をつけるまでの間、こちらにも相応の危険があります。可能ならメルキア……アニアさんには、マイノスにてレベンスさんとエリザさんを匿って貰いたいのですが」
「その呼び方をしたという事は、家族として私に願い出てるという事ね? レック・セラータ。というか、敬語、止めてくれる? 貴方にそんな言葉遣いされると鳥肌が立つわ。いつも通りでいいから」
「そうで……そうか? 義母に対する礼儀だと思ったからそうしたが、そこまで言われるならな。それで、さっきの話はどうだろうか?」
「貴方がそこまで言う"相応の危険"って何かしら?」
「……エシュアは"人魔大戦"を再び起こす気だ」
「「「人魔大戦!?」」」
ワタシとお母様、叔母様は思わず大きな声を上げてしまった。
人魔大戦。400年前に起こった人族と魔族の凄惨極まる戦争。
普通、戦争は自陣営の要求を相手に呑ませる為に行う。
だから、相手を完全に殲滅してしまっては元も子もない。戦争する為に被った損害以上に得るものがないと意味がない。
だけど400年前の戦争はそういう意味で常軌を逸していた。
捕虜も取らずに皆殺し。砕ける大地。干上がる泉。荒れ果てる森。徹底的な破壊限りを尽くした。
後に"人魔大戦"と名付けられたその戦争によって、互いの陣営共人口の7割以上を失ったとワタシが読んだ古い本にあった。
「人魔大戦は神々の
人々の為にと王になった者が時を経て暴君になったりするのも同じ事ね。
権力を得て、己が言葉一つで人々を動かし、自身の欲望を満たせるその万能感と優越感と悦楽感に狂っていく。
「それからだ。人族や魔族をオモチャにするようになったのは。人魔大戦のように大掛かりにやってしまうとそれぞれの陣営が絶滅してしまう恐れがあるから、小競り合いをちょこちょこ起こして愉悦に浸っていた。人族と魔族が互いにいがみ合うように仕向けたのもあいつらだ。まずそれぞれの神官に神託を下ろして、そこから反魔、反人の教育をさせた訳だ」
ほんっとろくでもない女神達ね!
「役割の中に楽しみを見つけるのは悪い事ではないんだが、奴らのは流石にやり過ぎだった。そして人魔大戦から数年後、それは起きた。人族領のとある辺境の村に野盗の一団が襲撃してきた。それだけなら辺境のよくある話だったが、そいつらは野盗のクセに物も盗らず、ただひたすら人を殺し家を壊し続けた。そしてその時、俺の妻と2人の娘、そして俺自身も殺された」
「「「え…………?」」」
その場にいる全員がレックの言葉を理解出来ずに固まった。
レックにかつて家族がいた事にも驚いたけど、そこじゃない。
人族の内、森民と地民は長寿だ。ケガや病気などで死ななければ、森民の寿命は5、600年、地民も寿命は2、300年ある。
しかし、それ以外の人間、水民、風民の寿命は長くない。
人間と水民が80年ほど、風民に至っては30年ほどだ。
これは魔族でも同じで、魔地民のワタシやお母様は2、300年生きるし、魔法で魔水民に変化した叔母様の寿命は80年ほどになる。
だから、人間であるレックが400年前に生きていた事はあり得ないし、目の前のレックもそんな年には見えない。
そして何より、レック自身も殺されたという。じゃあ、目の前のレックは一体ナニ?
でも、レックの顔は真剣そのもの。決して嘘を吐いたり
「いきなり結論を聞かされて混乱しているのは分かる。今から順に話していくから、落ち着いて聞いて欲しい」
ワタシはユキカやルビーと視線を交わした。2人はワタシに頷き返した。推測や憶測だけで判断すると間違える。まずはレックの話を最後まで聞くのが先決だ。
レック自身も気持ちを落ち着ける為か、ゆっくりと息を
「妻と娘達を惨殺され、自分も致命傷を負い、せめて最期は妻達の傍でと地を這いずり、何とか妻達の所へ辿り着いて事切れる寸前、俺の頭の中にある男を記憶が甦った」
みんな固唾を飲んで続きを待つ。
「その記憶は、明らかにこの世界ではない場所のもので、石のようなものと金属、ガラスで出来た凄まじく高い建物が林立していた。その男も俺と同じように医者として、そして研究者として人々を助ける仕事をしていた」
もしかして、前世の記憶ってヤツかしら?
そういう話は聞いた事あるけど、みんな作り話だったわ。
でも、レックのそれは恐らく真実だ。愛してる相手という色眼鏡もあるかもしれないけど、真実だと確信している自分がいた。
それにしても、前世まで医者とか、ほんとレックらしい。
ちなみに、治療士と医者の違いは"魔法を使うか使わないか"ね。
「ある時、その男は考えた。薬や手術で救えない患者を救うにはどうしたらいいか? その男の出した答えは"患者の身体を新しく作って精神を移し替えられればいい"というものだった」
「そんな事出来るワケ……あ!」
そう、ワタシはそれに近い事を体験している。
それにユキカも、
レックだけがそれを出来るのは、レックにその知識があったから。知識があれば純魔法で創り出せる。今までのレックの説明と辻褄が合ってる。
「そしてその男はそれに成功した。ただ創り出すどころか、身体能力の強化すらしてみせた。力、丈夫さ、そして、寿命。それらを常人の10倍程度までな」
「能力や寿命を10倍に強化って……あ! まさか!」
「そう、俺の身体がそうだ。もっとも、死ぬ寸前、というかほぼ死んでいる状態だったからな。身体の再精製と寿命の強化しか出来なかったが」
寿命が10倍って事は、元が人族の人間であるレックの寿命は80年×10倍で800年!?
あぁ、でも、それならワタシ達はレックにおいていかれて未亡人にならなくて済むのね。
だったら尚の事、天寿を全うする為にもあの駄女神の行動を阻止しないと! 子供もたくさん産んで、愛する家族に看取られながら幸せに逝ってやるんだから!
「それに、その男の世界はここよりもずっと自然や世界に対する探求が進んでいて、"生き物や物を限界まで細かく分けていくと何になるか?"とか、"空をずっと昇っていくとどんな所へ行くのか?"とか、様々な真理が解明されていた。俺が、一番身近にある"空気"を使って色々やれるのはそのお蔭だ。知ってるか? 万物を構成しているのは火、水、風、土、光、闇の6元素じゃない。元素は元素でも88種類もあるんだぞ? 例えば"空気"は大まかには2種類、細かいのを入れると数種類の元素で出来ているんだ」
「ホ、ホントに!?」
「本当だからこそ、純魔法で扱える。知識が間違っていたら扱えていない筈だからな」
今知った衝撃の事実! 元素は88種類もあった!
ワタシが必死に勉強してきたものは何だったのか……
「随分話が外れてしまったな。その前世の記憶と共に、こんな理不尽を強いた相手に一矢報いたくて立ち上がる事を強く望んだ。その時だ。純魔法に目覚めたのは。実は誰でも純魔法の素養は持ってる。だが、強大な力故に簡単には使えないように鍵が掛けられている。それを外すのが……」
「アナタが前に言ってた、"絶望から立ち上がる事"なのね」
「そうだ。そして、人魔大戦を引き起こしたのが六柱神だと知って、神々の元へ行く方法を探し、そして辿り着いたのが白竜山脈だった。白竜山脈は、その高さと険しさから"神の
"名は体を表す"という言葉があるけど、白竜山脈も同じだった訳ね。
「そして白竜妃ホワイトオニキスを退けて、俺は神界へと赴いた。実を言うと、この時俺の復讐心は薄らいでいた。神界へ赴く為の情報を求めて世界を
あれ? 前にリバイドで聞いた時には、もっと剣呑とした感じだったんだけど……
「前にリバイドでアナタが話してくれた時には『神々の理不尽さに憤って殴り込みに行った』って感じだったけど? それに、意見するつもりで神界に行って、結局はぶっ飛ばしちゃったんでしょ? どうして?」
「リバイドで話した時は、お前からの婚約を断った理由を話すのがメインだったからな。一から十まで話してたら長過ぎるだろう? 実際、甦った直後は復讐心バリバリだったしな。で、結局神を滅したのは、向こうから襲い掛かってきたからだ。火のマルーズ、風のアクラは『人ごときが神界に侵入する事自体が万死に値する』とか言ってたな。で、マルーズとアクラを返り討ちにして、メルリとサトスがそれに畏れを為したのか拘束や無力化の魔法を放ってきたから、精神を
「で、約束させたのね。レックの『患者に手を出さない、出させない』って」
「管理神の役割として人口の管理は必要だから、それを止めさせる訳にはいかない。だから、"俺の患者だけは見逃す"と条件を付けてやった。そうすれば、雑な手段は取れないだろう? そこに俺の患者がいないか確認しないといけないし、そこに俺の患者がいれば纏めて処理する訳にはいかない。そうやって頭を使わせておけば役割に飽きる事もなくなるだろうと思った訳だ」
なるほど。その条件だとスキマを探して神々が作業を行う事も出来るワケね。
例えば、神々が手を出していない自然死や病死、事故死なら問題ないし、それでそこにレックの患者がいなくなればまとめて処理する事も出来るワケだ。
その、条件のスキマを見つけて手筈を考える行為が神々の退屈しのぎになると。
さすがワタシ達のレックね。
相手を上回るチカラを持っていても、相手を立てる事も忘れないし、そのチカラを傲らない。
だったら尚の事、今回の事は腑に落ちない。
「ねぇ、それなら特に強く抑圧されてもいないわよね。それなのに反旗を翻したのはナゼかしら?」
◆◆◆
「ねぇ、それなら特に強く抑圧されてもいないわよね。それなのに反旗を翻したのはナゼかしら?」
予想はついている。
だが、それを言うとまた皆を心配させてしまうな……
分からないとシラを切るか?
……いや、ここで嘘を吐いても恐らくレイラは気付くだろう。
なら、正直に伝えた上で信じて送り出してもらう方がいい。
互いに信じて、互いに愛してるからこそ、もう隠し事はしない。
「恐らく、俺に対抗出来る後ろ楯を得たのだろうな。心当たりがある」
俺の答えに表情を曇らせる妻達。
「俺が誰かの生まれ変わりなら、他に俺と同じようなのがいても不思議はない。そして、魂が別の世界に転生出来るなら、何らかの力を得て世界を越える奴がいてもおかしくはない」
「つまり、アナタと同等と純魔法の使い手?」
「いや、そこまでは分からん。そうかもしれんし、また別の能力の使い手かもしれん。だから、勝てる見込みも分からん。だが、少なくとも向こうは勝てるつもりだから反抗したんだろうしな」
駄女神ではあってもバカではない。
勝てる見込みもないのに、あんな雑な反抗はしない。あれは俺に対するデモンストレーションと俺の周りの戦力の確認だ。
もしかすると、ローリアさえも俺達の戦力を測る捨て石だったかもしれない。
「ねぇ、あなた。さっきあなたは『心当たりがある』って言ってたけど、その中でも最悪な相手だった場合に勝てる見込みはあるの?」
聞き手に徹していたユキカの質問。"常に最悪を考える"というのは、俺がユキカに教えた事だ。そうすれば大抵の事には冷静に対処出来るようになるからな。
「0とは言わないが万に一つもあるかどうかだな。生きていれば奇跡。五体満足なんて望むべくもない」
質問したユキカも押し黙った。まぁ、そうなるよな。
「俺の心当たりのある最悪の相手は、未来が見る事が出来て、時間を制御出来る装備を身に着けている」
妻達が本日何度目かの絶句。すまんな、そんな話ばかり聞かせて。
「だが、神界には物質を持ってこれない。だから、その装備を着けている見た目をしていても概念的なものだ。ただ、そんな物を創り出せるという事は、本人がその能力を使えるという事でもある。神界でも使えるだろうな」
「未来を見られるとか時間を操れるとか、もうエクスアシュア神と変わらないじゃない……」
「いや、世界の理を越えて別の世界にまで来られるんだ。この世界だけを統べているエクスアシュアよりも上だろうな」
「「「…………」」」
もう、雰囲気が完全に葬式だな。無理もないが。
空気が重苦し過ぎるから、少しは希望がある事を伝えておくか。
「もっとも、そいつだったとして、戦ったら勝ち目は薄いが話は出来る奴だ。エシュアの後ろ楯になった理由を聞き出して説得出来れば、戦わずに済む筈だ」
俺の言葉で雰囲気が少し和らいだ。
説得出来なければ終わりなんだが、流石にそれは言うまい。
「という事でだ、アニアにはレベンスさんとエリザさんを匿って欲しい。マイノスは地理的に人族領からかなり離れているし、街の構造上防衛もしやすい。頼む」
「可愛い義理の息子の為だもの、義理でも母親として一肌脱いであげるわ。ただ、安全と引き替えにかなり不自由な暮らしになるのは覚悟してもらうわ」
「安全と生活を保障してもらえるだけでも御の字だ。レベンスさん、エリザさん、勝手に決めて申し訳ないですが、アニアさんに付いていって避難していて下さい。成るべく早く決着をつけてきます」
レベンスさんとエリザさんに頭を下げる。
結局、エシュア達を見逃しておいた俺の甘さが色々な人に迷惑を掛けてしまっている。申し訳ないな。
「私たちは大丈夫だ。だからレック君、君は娘達を悲しませないようにする事だけを考えなさい」
「そうよ。貴方は貴方とユキカ達の事をまず考えてね。レベンスも私も昔は冒険者だったのだから、多少の事なら大丈夫だから」
「ありがとうございます。それじゃ、この話は終わりだ。女性陣は俺が旅先で診療に使う大型テントを、男性陣は普段使う小型テントで休んでくれ。それとルビー、話があるから一緒に来てくれ」
「いいよ~お兄ちゃん♪」
「あら、ナニするのかしら?」
「レイラ、『ナニ』の発音がおかしい。ルビーに
完全竜化の方が攻撃力も防御力もあるが、図体がデカく、細かい動きをするのには向いていない。
狭い場所や障害物の多い場所、森などの燃えるものの多い場所なら、部分竜化して速度と動き易さに勝る
それに、竜人になっても膂力は竜の時と変わらないし、翼もあるから空も飛べる。大きな籠でも作ればユキカとレイラを乗せて空を移動する事も出来る。
「私も見学してもいい?」
「ルビーちゃんなら竜人になってもカワイイわよね♪」
ユキカもレイラも興味津々のようだ。
見られて困るものでもないから、別に構わないだろう。
俺達はその練習をすべく森へと向かった。
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