第15話 それぞれの戦いと生命の選択 後編

 ルビーの成長を見届けてガーネットは逝った。

 そしてその遺骸は端から白化し崩れてゆく。

 この世界で生命力を著しく失って死ぬと、遺骸は白い砂状になる。白壊病ホワイトコラプスの症状と同じだ。

 普通に死んだ遺骸には、実はほんの僅か生命力が残っていて、それが形を保つ役割をしている。

 だから動物を殺しても遺骸が残り、肉を食したり出来る訳だ。

 そして、僅かに残った生命力が失われるより先に腐敗が進むから、普通に死んだ又は殺したモノは白砂化しない。

 また、保存処理をしたモノは腐敗も遅れるが生命力の喪失も遅れるからやっぱり白砂化しない。

 ちなみに、レイラが得意とする屍操術。あれも実は屍を動かしているのではなく、まだ腐敗しきっていない遺骸や地中の生物を使い腐肉の様に再構成して動かしている肉人形フレッシュゴーレムの類いだ。

 だから、魔法を付与した水、"聖水"を掛けられると、身体を再構成している魔法が解除されてしまう為、屍人が崩れ去ってしまうという訳だ。


「クォォォン……(お母さん……)」

「ルビー、目を閉じて心を落ち着けてみろ。感じるだろう? お前の中にガーネットがいるのが。ガーネットはいつもお前を見守ってくれている。だからもう泣くな。誇り高く優しき炎竜ガーネットの娘、そして俺のつがいとして顔を上げ胸を張って生きろ」

「クォォォン……クォウ!(お兄ちゃん……うん!)」


 擦り寄せてきたルビーの頭を撫でる。

 ルビーも目を閉じてされるがままになっている。

 やがて一頻り撫で終えて俺が手を離すと、ルビーは顔を上げ、ユキカ達の方を見た。


「クォウ、クォォォン(お兄ちゃん、私、人化した方がいい?)」

「俺としてはどちらでも構わないんだが、街や村に寄っている時にその姿だと恐れられたり、時には攻撃されたりするからな…… 勿論、ルビーに傷一つ付けさせる気は毛頭ないが。後、人化した方が俺と一緒に居られる時間が長いのは確かだ」


 ガーネットの竜核を受け継いだ今のルビーなら、簡単ではないが出来るだろう。


「クォォォン!(だったら人化する!)」


 ルビーはそう宣言すると、ユキカとレイラをじっと見だした。


「「え、えーと……?」」


 見られている方の2人が困惑する程の時間見つめてから、ルビーは人化術を行使した。


「クォォォォォォン!(人化術! 完全人化! 【Humanヒューマン Formフォーム】!)」


 ルビーの身体が光の粒子へと変わり、その光の粒子が人の形へと収束。そして頭頂部から下へと物質化してゆく。

 そこに現れたのは、真紅の長髪、すらりとした肢体を持つ美少女。その美少女の開いた目の瞳も真紅。

 そして俺は、その様子を呆然と眺めていたリオスの両目に空気の指弾を放った。


「ウグワーッ! めがー! めがーー!!」


 更に縮地でリオスの目の前に移動すると、リオスの頭を鷲掴みにする。


「リオ~ス。今見た事は忘れろ~。いいな~?」

「は、は、はいぃぃぃっ! 忘れます! 紅い全裸の美少女の事は!!」


ミシミシミシ……


「われる~!! わすれるまえにわれる~!! 一文字違うだけなのに大変な事に~!!」

「は~い、ルビーちゃ~ん。両手を前に出して~」

「手をここに通して……頭をくぐらせて……よいしょっと。今度は身体を持ち上げるから、足を揃えてね~」

「これを穿かせて、後、スボンも……はい、いいわよ~」


 何も言わずとも自分達の着替えをルビーに着せていく妻2人。素晴らしい連携だ。

 あまりの早業に、服を着せられているルビーもきょとんとしている。

 改めて人化したルビーを見ると、ユキカとレイラを足して2で割って紅くしたような顔立ちや体型だ。

 色はともかく、顔立ちだけなら三姉妹に見えるだろう。

 あぁ、そういう事か。


「ルビー、お前、2人を参考に人化のイメージをしたな?」


 さっき2人をガン見してたしな。


「うん! お姉ちゃんたちはお兄ちゃんのつがいなんでしょ? お兄ちゃん、お姉ちゃんたちのようなのが好きなんだと思ったの!」


 やっぱり2人に合わせたのか。

 控えめな胸を張って嬉しそうにのたまうルビー。

 うむ。好きだぞ。

 ただ、無理に合わせる必要は……と言いかけたが、ルビー本人がわりと気に入ってる様子なのであえて口には出さなかった。


「「お、お姉ちゃん……!? ルビーちゃんカワイイ~!!」」


 ユキカとレイラが左右からルビーを抱き締め、頬をすりすりしだした。

 そうか。ユキカは一人っ子だし、レイラは末っ子だ。"お姉ちゃん"なんて呼ばれる事は少なかっただろうから感激してるのだろう。

 だが、精神年齢はともかく、肉体年齢はルビーが一番年上だからな?

 まぁ、心暖まる光景に水を差すような事は言わないが。

 リオスの目と頭を治してやってから、仲睦まじい妻達を横目に昏睡している4人を診察する。

 ローリアが消滅した事で傀儡術は解けているが、ユキカがしっかり昏睡させたから解術の影響は最小限だろう。

 まずはこういう事に慣れていないレベンスさんとエリザさんから覚醒させるか。

 レベンスさんとエリザさんの額に手を翳し、治療術で押さえ込んでいた脳電流の範囲を徐々に戻していく。

 5メニト(=5分)程掛けて治療すると、2人は意識を取り戻した。


「うぅーん……あら、ここは……?」

「昨日は確かエリザと一緒にベッドに寝た筈……」

「お父さん! お母さん!」


 やってきたユキカに場所を譲ると、ユキカは2人に抱き付いた。

 2人の様子からすると、どうやら寝込みをローリアに襲われたようだ。

 それはある意味幸運だったな。

 睡眠中という、意識のない状態で精神を封印されたのなら、精神はずっと睡眠状態のままになる。精神的な負担が最も少ない状態だ。

 俺は事情と状況を説明し、膝をつき頭を下げた。


「申し訳ありません。俺の事情にお二人を巻き込んでしまいました」

「いや、君のせいじゃないよ、レック君。どう考えてもローリア様……いや、そんな相手に様は必要ないな。ローリアがおかしい。下々の祈りで力を得ている神が下々をおもちゃにするなど筋が通っていない」

「そうです。道理に合わなくて神罰を下すならまだしも、自らが道理を破っておいて何が神ですか。そもそも我らを創りしは創造神エクスアシュア。六柱神ではないのです。それを神と増長し我らをおもちゃにするなど、エクスアシュア神が許す筈もありません。貴方の行いはエクスアシュア神の御心に沿うもの。誇りこそすれ卑下する必要はありません。貴方は私達の自慢の息子です。そうよね? ユキカ?」

「はい! レックは私の、私たちの最高の旦那さまです!」

「……ありがとうごさいます。お義父さん、お義母さん、そして、ユキカ」


 温かく優しい人達だ。こういう人達が増えれば、世界はもっと暮らしやすくなるのにな。


「さぁ、レック。あちらの方達も

治してあげて。きっとレイラさんのご家族でしょう?」

「えぇ。レイラの母親と叔母です。それでは、治療してきます」


 俺は目でユキカに頼むと、ユキカも目で頷き返した。

 ホント、よく出来た妻だよ、お前は。

 俺はメルキアニアとエルラウラの間に移動して、レベンスさん達と同じように額に手を翳す。

 この2人の事だ。封じられてもなお、頑強に抵抗し続けているに違いない。レベンスさん達以上に慎重に解術する必要があるな。

 解放する範囲を慎重に定めて、ユキカが掛けていた術を解く。途端に俺が掛けた術に強い抵抗を感じる。


「レイラ、この期に及んで2人はまだ抵抗を続けている。流石お前の母親と叔母だな」

「良かった……お母様も叔母様も無事なのね……」

「ユキカの両親よりは時間が掛かるだろうが問題はないだろう」


 俺は術を解きに掛かる。レベンスさんやエリザさんの時より倍程時間を掛けて解術すると……


「レック・セラータ! さぁ、子作りしましょう! レイラの娘を養女に貰うより、こちらの方が手っ取り早いわ!」

「アニア姉様ズルい! 魔水民ダクエスにこそ有能で丈夫な跡取りが必要なんです! さぁレック・セラータ! 私を孕ませるのよ!!」

「お母様! 叔母様! レックはワタシとユキカとルビーちゃんのです! は~な~れ~て~く~だ~さ~い~~!!」


 メルキアニアとエルラウラが急に抱きついてきたところにレイラが割って入る。


「お兄ちゃんとみんな仲良しだぁ~! ルビーもやるぅ~!」


 更に、何を勘違いしたのか、ルビーまでも抱きついてくる。

 何だこの混沌した状態は?


「……【Paralysisパラライシス】」

「「きゅう……」」


 騒ぎの元凶2人を治療術で麻痺させる。本来は感覚神経を麻痺させて麻酔として使うやつだけどな。

 今回は運動神経だけを麻痺させた。


「お母様達、封印状態を耐えるのに、妄想を爆発させてたみたい……」

「俺をダシにするんじゃねーよ…… じゃあ麻痺を解くが、襲い掛かってくるんじゃねーぞ?」


 麻痺を解かれた2人は、少し赤面しながらバツが悪そうに身体を起こした。


「世話を掛けたわね、レック・セラータ」

「私とした事が不覚を取ったわ」

「相手が相手だけに仕方あるまい。こっちこそ、俺の事情に巻き込んですまないと思ってる」

「! だったら少しくらい分けてもらっても良いわよね?」

「そうそう♪ 旦那に先立たれて随分とご無沙汰だし、そろそろもう一人くらい欲しいし♪」

「ガルルルル!」


 しなを作ってのたまう2人に対して、レイラが唸りながら威嚇する。

 元屍姫だけあって、冥界の番犬の真似は得意ってか。


「やぁねぇレイラ♪ 冗談よ♪ じょ・う・だ・ん♪」


 魔地民ダクヴェルグの冗談は冗談ですまない時が多いから注意が必要だ。


「ところで3人共、属性魔法は使えるか?」


 結果は分かっているが、念の為に確認しておく。


「当然! …………え?」

「!? エーテルを集めてマナに変換出来るのに、術が発動しない!?」

「俺がローリアを滅したからだな。今頃魔族達も大混乱だろうな」


 属性魔法は純魔法の簡略版。

 純魔法は、その効果の策定や発動工程を全て術者が一つ一つ行わなければならない。

 それを属性を制限し一部自動化して術者の負担を減らしたものが属性魔法。

 これをモノ作りに例えると、純魔法は材料の選定や準備から途中の工程、仕上げまで全て手作業なのに対して、属性魔法は材料を予め限定し、途中の工程は全て自動機械に任せ、最後の仕上げに多少手を加えて作り上げる。

 六柱神が司っていたのは、この自動機械にあたる部分で、機械が壊れたら材料を用意してもモノは作られない訳だ。


「どうしようかしら。これではリープで帰られないし」

「ナラクド川まで出られれば、私の部族に迎えを寄越してもらって向こうに渡る事は出来ますわ、アニア姉様」


 帰る手段を模索している2人だが、芳しくないようだ。

 俺のせいでもあるから、助け船を出そうか。


「レイラが使っている連絡の魔道具で、フェラウノス商会に迎えを寄越してもらえばいいんじゃないか?」

「「……え?」」


◇◇◇


「レイラが使っている連絡の魔道具で、フェラウノス商会に迎えを寄越してもらえばいいんじゃないか?」

「「……え?」」


 レックから意外な言葉が。

 魔道具って魔法がなくても使えるの?


「六柱神が司っているのは、マナを事象に変換する為の工程を肩代わりする事だ。だから今まで通りのやり方では途中の工程が途切れているから発動出来ない。だが、魔道具はその途中の工程も魔導回路の中に含まれているから、今までと同じように動作する。エーテルがなくなった訳じゃないからな」


 そうだったんだ……ワタシも色々勉強したけど、そこまでは知らなかったな……

 お母様が早速迎えを寄越すように連絡している。

 洩れ聞こえてくる話から、商会は大騒ぎになっているらしい。

 まぁ、商会の会長であるお母様が謎の失踪をし、属性魔法が半分使えないとなると大騒ぎになるのは当然よね。

 結局、ここから歩いて1日くらいのところにある村まで迎えの馬車が来てくれる事になった。さすがに馬車で山は登れないわよね。


「これでみんな動けるようになったな。まずはここから出るぞ。ローリアの置き土産があるかもしれん。先頭は俺が行く。みんなは後から付いてきてくれ」


 レックの先導で外へと通じる洞窟へと入っていく。

 この洞窟を作ったのがローリアなら、魔法を使った嫌らしいワナを残してるかもしれない。

 でも、レックとユキカなら属性魔法を無効化出来る。

 だから、レックが先行して安全を確かめ、少し遅れてユキカを含むワタシ達が付いていくという手筈を取ったワケね。

 洞窟の中に明かりはない。

 でも、レックとユキカが純魔法で、あと、勇者クンの仲間の女司祭が光属性魔法で明かりを生み出しているから周りはハッキリ見える。岩壁ばっかりだけど。

 ここまでの洞窟はずっと下り。このまま外まで続くのか? それともどこかで上りになるのか?

 どのくらい歩いただろうか。

 先行していたレックが立ち止まり、ワタシ達に止まるように手で合図を送りながら周囲を確かめている。

 そして手を翳した後手招きする。


「ここに落し穴ピットが仕掛けられてるな。空気を圧縮して円筒状に通路を作った。少し足元が弾むが気にせず1人ずつ通り抜けてくれ」


 まずユキカが最初に渡る。向こう側に魔法のワナが仕掛けられていても大丈夫だから。

 そして順に渡り、最後にレックが渡ってからレックが翳していた腕を下ろした。

 確かに足元にムニっとした感触があったわ。

 ちょうど商会で取り扱っていた空気を使ったベット用マットレスの感触がこんな感じだった。


「ねぇレック、落し穴ピットってどんな感じなの?」

「さっきいた岩棚から道は下っていて、更にここは火山だ。つまり……」

溶岩マグマの中にまっ逆さまってワケね」

「正解だ。さぁ、行こうか。先頭はまた俺が行く」

「気を付けてね、レック」


 地味に嫌らしいトコロがローリアらしいと思う。ワタシ達も似たような事するの得意だしね♪

 ここから道は上りになった。

 しばらく歩いて、ようやく外の明かりが見えてきた。

 と、そこでまたレックがワタシ達を止める。


「これは足音を響かせると落盤してくるようになってるな。おい勇者パーティーズ。この前の続きでもやるか?」

「か、勘弁して下さいレックさん!」

「冗談だ。だが、ちゃんと訓練はしてたようだな。体つきで分かる。今なら充分走り抜けられるだろうさ。さて、さっきと同じように空気の層で支えるが……出口の向こうから大勢の気配を感じる。俺が先頭のまま進むから遅れずに付いてきてくれ」


 手を翳しながらズンズン進んでいくレックの後に続いてワタシ達も進んでいく。


「ねぇ、あなた。明かり点けたままでいいの?」


 ユキカの言葉で気が付いた。

 出口に誰かいるなら明かりでこちらの居場所がバレるものね。


「誰かが見張ってるなら、こちらから出口の明かりが見えた時点でもうバレてる。なら、わざわざ足元を見辛くする事もあるまい。それに、俺の予想通りなら、出てきた俺達を取り囲んでベラベラ口上を述べるだろうさ」


 どうやらレックには予想がついてるみたいね。

 なら大丈夫か。大丈夫じゃなかったらレックが指示してくれてるだろうし。

 そしてワタシ達が洞窟を出て見たモノは、人族軍兵士に十重二十重とえはたえに囲まれて槍を突き付けられている光景だった。


◆◆◆


 洞窟を出た所で待ち構えていた人族軍兵士。

 よくもまぁ、これだけの人数登ってきたもんだなぁ。

 呆れ半分でその光景を眺めていると、俺達を取り囲んだ槍衾の向こうから口上が聞こえてきた。


「神々に歯向かう愚かなる背信者、レック・セラータ! お前とその一党をここで成敗する! これは光神エシュアから賜った神託によるものである!」

「おーい。顔見えんぞー」


 本来なら馬上から行うのだろうが、流石に火山に馬で乗り付ける程馬鹿ではなかったようだ。

 なので人垣の向こうでは顔は見えない。顔が見える所まで出てくる度胸はないらしい。


「えぇい! 神敵に見せる顔などないわ! 殺せ! 殺してしまえ!!」


 取り囲んでいる奴らが殺気立つ。


「ほう? 俺は殺しに来る輩に手加減する気はないぞ? 殺していいのは殺される覚悟のある奴だけだ。ここに骨を埋める覚悟があるなら掛かってくるがいい」


 俺が言葉と共に威圧してやると、殺気立っていた兵士達が及び腰になる。

 おいおい隊長さんよ。最前衛を任せる兵士でこの程度なのか? もう少しマシなの連れてこいよ。


「うっ、うわあああああっ!」


 前からと後ろから、両方の圧力に堪えきれなくなったのか、兵士の1人が槍を携え突っ込んできた。


ドンッ!


「ウグワーッ!」


 空破撃でその兵士を空中へ打ち上げる。

 囲みを越えて飛んでいく兵士。その先には……


ドーン!


「ウグワーッ! 兵士が降ってきたー!?」


 さっき口上を宣ってた奴がいた。

 見えなくとも声の方向と大きさで場所は分かる。人の後ろに隠れているからといって油断大敵だぞ?


「ぬん!」


ドゴォン!


「「「ウグワーッ!!」」」


 更に囲みの西側の兵士をまとめて吹き飛ばす。

 何人かの兵士は吹き飛ばされたはずみで山を滑落していった。

 言った筈だ。手加減はしないと。


「みんなそっちから退避してくれ。まとめて片付ける」

「まとめて片付けるって、ナニする気?」

「ガーネットの力を借りたとはいえ、ルビーは約束通り人化してみせた。なら、俺も約束を守らないとな。ルビー、よく見ておけ。俺の竜化術を」

「お兄ちゃんの竜化術!? 見たい見たい!!」


 精神を集中して竜の身体構造を細部に至るまで思い浮かべる。

 これを使うのは何年ぶりか。前に使ったのはガーネットを黒竜から助けた時か。

 あの時は確か、ルビーはガーネットに言われて隠れていたから、竜化した俺は見ていない。


「いくぞ! 竜化術! 完全竜化! 【Dragonドラゴン Formフォーム】!」


◇◇◇


「いくぞ! 竜化術! 完全竜化! 【Dragonドラゴン Formフォーム】!」


 見る見るお兄ちゃんの身体が光に変わっていって、そこにたくさんの光が竜の形に集まってくる。

 すごく大きい!

 わたしが知ってる一番大きな竜はお爺ちゃん。お兄ちゃんがスピネルって呼んでる竜族の長。

 そのお爺ちゃんと同じくらい大きい!

 そして竜の形をした光が足の方から竜の身体へと変わっていく。

 そのお兄ちゃんの身体は、お爺ちゃんが巣に溜め込んでいたピカピカ光る物と同じ、金色の鱗に覆われていた。


「ギュオオオオオン!!」


 お兄ちゃんが吼える! すごくカッコいい!!

 お兄ちゃんの竜化術、すごい!!

 そして、そのお兄ちゃんを見てると、おなかの下の方がすごくムズムズする。

 今すぐ竜になってお兄ちゃんにいっぱいギュッてして欲しい!

 でも今、お兄ちゃんは戦ってる。だから我慢する。

 お兄ちゃんが口を開いて大きく息を吸い込むように首を仰け反らせた。竜吐炎ドラゴンブレスの構え。

 でも、お兄ちゃんのそれは普通の竜吐炎とは違った。

 光のつぶが息といっしょに口に吸い込まれ、お兄ちゃんの口の中がどんどん明るくなっていく。

 まるでお兄ちゃんの口の中にお日さまがあるみたい!

 そしてお兄ちゃんは足元の人族たちを睨みつけると、その光を人族たちに向かって吐いた!


シュォォォォォォォォォォッ!


ドドドドドドドドドォォォン!!


「「「ウグワーッ!!」」」


 直接光を浴びた人族は一瞬で消えた。そしてその光が当たった地面はすごい音を立てて破裂した。

 お兄ちゃんが首を横に振ると、お兄ちゃんの吐いた光も横に動き、その光を追うように、地面がどんどん破裂した。

 さっき「ウグワーッ!」って言ってたのは、地面の破裂に巻き込まれて飛んでいった人族だ。


「ギュオオオオオン!!」

「うわあああああっ!」


 お兄ちゃんがもう一度吼えると、ほんの少しだけ残った人族たちは持っているものを捨てて逃げていく。

 お兄ちゃんの勝ち~!


「……ねぇ、ラウラ?」

「何? アニア姉様?」

「貴女、アレに喧嘩売ったの?」

「……そうね」

「よく無事だったわね」

「…………そうね」


 わたしの後ろで何か言ってる人がいるけど気にしない。

 だっておなかのムズムズがきゅんきゅんになってたから!


◆◆◆


「ギュオオオン! (人化術! 完全人化! 【Humanヒューマン Formフォーム】!)」


 竜形態から人形態に戻る。ちなみにフリ○ンではない。あれは竜族に服を着る習慣がない為、ルビーが服をイメージ出来なかったせいだ。

 辺りを見回すと、腰が抜けて動けなくなり、尻の下に汚い水溜まりを作っている何人かの生き残りを見つけた。俺はその1人に近付いていく。


「く、来るなぁー! 助けてくれぇー!」


 這って逃げようとするそいつの頭を鷲掴みにする。


「ひぃっ!」

「伝言を届けてくれるなら助けてやろう。俺はレック・セラータ。治療士だ。王に伝えろ。『二度目はないと言った筈だ』と。分かったな?」


 俺が手を離してやると、そいつは壊れた人形のようにガクガクと何度も頷いた。

 ふん、と鼻をならしてから皆の元へ向かう。

 皆の所に戻った矢先、ルビーが飛びついてきた。


「お兄ちゃぁん♡ ルビーね、おなかの下の方がきゅんきゅんするのぉ♡ いっぱいギュッてして欲しいの♡ お兄ちゃぁん♡」


 あ……竜族のとある性質を忘れてた……

 竜族にも発情期というものが存在する。

 人族や魔族のように年がら年中ではなく、一定の条件を満たした時だけ発露するのだが、その条件が"自分より強い異性を見初めた時"なのだ。

 いくら俺の事を好いていたとは言っても、ルビーから見れば俺は人族。だから発情期を発露していなかったのだが、俺が竜化した姿を見せた事で"竜族の自分より強い異性"と認識されてしまった為、発情してしまった訳だ。

 ちなみに、ガーネットを助けた時もそうなり掛かったが、ガーネットが既に発情を経験済みだったのと竜の鱗並みの精神力で耐えてくれたところに俺が鎮静化セデイションの治療術で抑え込んだから、ガーネットとそういう関係にはならなかった。

 もしそういう関係になっていたら、ルビーに弟か妹が出来ていたな。

 なぜなら、竜族は発情期中に致すと100%妊娠する。より強い子孫を残す為の種族の特性ってやつなんだろうな。

 それと、発情期を無理矢理抑え込んでしまうと、その後十数年は発情期が来なくなってしまう。

 ガーネットの場合はもう子供もいた事だし問題はなかったが、今、ルビーにそれをやってしまうと、今後十数年はユキカやレイラが子育てしている横で指を咥えて見ているだけになってしまう。それは流石に可哀想だ。

 ハートマークを撒き散らしながら絡み付いてくるルビーをあやしながら皆に事情を説明する。


「そういう事ならちゃっちゃと致してあげたら? 向こうの岩陰とかで」

「レイラ、どんな羞恥プレイだそれは。お前とユキカだけならともかく、お義父さんやお義母さん達、それと勇者パーティーズもいるんだぞ?」

「うーん……なら、さっき戦ってたところは? このにとっては母親の亡くなったところではあるけど、逆にレックと幸せになった事を見せてあげられると考えたらいいんじゃないかしら?」

「……なるほどな。流石に人の上に立ってきただけの事はあるな、レイラ」

「ユキカがアナタの手足としてアナタを支えるなら、ワタシはココでアナタを支えてみせるわ♪」


 レイラはにこやかに自分のこめかみを人差し指でトントンとつついてみせた。

 ユキカもレイラも、自分の出来る事で俺を支えようとしてくれている。本当にによく出来た妻達だ。


「さすがに色々と疲れたし、お父さんやお母さん達も休ませてあげたいから、少し向こうに移動して休憩してるわね、あなた」

「それなら俺の背嚢から好きに出して使ってくれ。おい、リオス。この背嚢を持ってやってくれ」


 リオスに荷物を運ばせ、その場をユキカに預けて、俺とルビーは火口へと向かった。


「ルビー。ガーネットにお前が幸せになってるところを見せてやろうな」

「うん! きっとお母さんも喜んでくれるね!」


◇◇◇


 お兄ちゃんと2人で棲みかに戻ってきた。

 さっき出てきた穴から戻るのかと思ったけど、お兄ちゃんはわたしを抱いて山のてっぺんの穴から飛び降りた。

 どうするのかな?と思って見てたら、お兄ちゃんの足の下からドンッ!って音がして、落ちるのがゆっくりになって、お母さんと棲んでいた平らなところに向かって飛んでいった。

 お兄ちゃん、翼もないのに空飛べるんだ! やっぱりお兄ちゃんはすごい!!

 でも、ちょっとうるさい。

 平らなところに着くと、お兄ちゃんが服を脱いで、そのあとわたしの服も脱がせてくれた。

 初めて見た服を着てないお兄ちゃん。

 そうしたらさっき竜になったお兄ちゃんを見たときみたいに身体が熱くなって、おなかの下の方がきゅんきゅんした。

 わたしはお兄ちゃんに抱きついた。


「お兄ちゃん♡ すごくきゅんきゅんするの♡」

「俺もルビーと繋がりたくて仕方ない。ほら、ルビーのお腹のところに当たってるだろ?」

「お母さんに教えてもらったよ! 人族や魔族はオスとメスがつながるのにそれ使うんだよね!」

「竜族もそうなんだぞ? でも、竜族は身体が大きくて、繋がる時にそれが見えないだけでな」

「そなんだ♡ じゃあお兄ちゃん、ルビーと繋がろ♡」

「あぁ。ルビー、大好きだぞ」

「うん♡ ルビーもお兄ちゃん大好き♡」


 お兄ちゃんの口がわたしの口に触れる。

 わたしは人族のやり方をあんまり知らないから、お兄ちゃんがしてくれるのをまねしてみる。

 お兄ちゃんの舌がわたしの舌に触った。

 わたしはびっくりして思わず舌を引っ込めてしまった。

 そうするとお兄ちゃんは、わたしの口の中を舌で優しく撫でてくれる。

 すごくゾクゾクする♡

 でもこのゾクゾクはすごく好き♡


「んふ♡ んんん♡ んん~ん♡」


 舌で撫でられるのに慣れてきたわたしは引っ込めてた舌でお兄ちゃんの舌に触れてみた。

 プニっとしてちょっとザラっとして、そしてやっぱりゾクゾクした♡

 口と口で繋がってる間、お兄ちゃんはわたしの胸やおなかを優しく撫でてくれる。

 お兄ちゃんが触ってくれたところがゾクゾクする。

 そのお兄ちゃんの手がわたしの足と足の間に触れたとき、今までよりもすごく強くゾクゾクを感じた。


「んん~~♡ んん~~♡」


 思わず閉じてしまった足の間に優しく差し込まれるお兄ちゃんの手。

 ゾクゾクがとまらない♡

 繋がっていた口を離して、わたしの耳元でお兄ちゃんが囁いた。


「大丈夫だルビー。さぁ、力を抜いて、俺と繋がろう。そして俺の子供を産んでくれ」

「うん♡ ルビー、お兄ちゃんの赤ちゃん産むね♡ それでね、産まれたらね、"ガーネット"って名前にするの♡」

「そうか。なら、2人で、いや、みんなでガーネットを育てような」

「うん♡」


 わたしの中に熱いものが入ってくる♡

 わたし、お兄ちゃんと繋がっていく♡

 わたし、お母さんになる♡

 お兄ちゃん大好き♡

 大好きだよお兄ちゃん♡

 なんどもなんどもお兄ちゃんをギュッとした♡

 そして、おなかの一番奥がすごく熱くなるのといっしょに、わたしの頭の中はまっ白になった♡

 お母さん、わたしとっても幸せだよ♡


◆◆◆


 ルビーとの行為を終え、少し余韻に浸った後、すぅすぅと寝息を立てるルビーに服を着せ、自分も服を着てルビーを抱き上げた。

 ルビーの顔には満足そうな笑みが浮かんでいる。

 そのルビーの頬に口づけしてから、俺は皆の元へ戻るべく歩き出した。

 洞窟を抜け、皆のいる方向へ向かうと、俺を見付けたユキカとレイラがやってきた。


「あらあら♪ すごく幸せそうな寝顔ね♪ ねぇ、レック。ワタシ達もこんな寝顔してたの?」

「そうだな。2人共、この顔に負けないくらいの寝顔だったぞ。何があっても守りたい、な」

「そう……でもそれは、ワタシ達も同じなの。アナタの笑顔を守りたい。誰の笑顔が欠けても、誰も幸せになれないから。だからワタシもユキカも、自分の出来る事全てを使ってアナタを守るわ。そうよね? ユキカ」

「うん! みんなでみんなを守るの!」

「……そうだな。その通りだ。エシュアがこのまま大人しくしている訳がない。それでも俺は皆を守りたい。だから力を貸してくれ。ユキカ、レイラ」

「「えぇ!!」」

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