ツンデレ会長は恋したい。

マルイチ

一 ツンデレ会長は告白したい。

『生徒会代表挨拶。生徒会長、小野寺おのでら紗香さやか

「はい。」


凛々しい姿はまさに一輪の花。水晶のように透き通った肌で構成された顔は恐ろしいほどに整っており、腰ほどまでに伸ばされた綺麗な黒髪はまるで絹のように輝いている。

頭脳明晰、容姿端麗、スポーツ万能。彼女を一言で表すならば、『完璧』という言葉こそが相応しいであろう。しかし、そんな彼女にもひとつ、弱点と呼べるものが存在した。


「新入生の皆さん。御入学おめでとうございます。そして、そんな中にいる男子諸君。」


その、弱点とは


「入学して早々ではありますが、御退学のお手続きをよろしくお願い申し上げます。」


大の、男嫌いであった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「入学して早々ではありますが、御退学を推奨しますだぁ?そりゃおかしいだろ?」

「まぁまぁ、そうぐちぐち言っていてもしょうがないよ。」

「だってよう!?男子だけだぜ?!塩対応!女子にはそりゃまぁ素敵な笑顔見せて挨拶するくせに、男子全員には見向きもしねぇ。」

「会長も色々あるんだよ。それに、そう言っている間にもうホームルーム始まっちゃうよ?」

「おっといけね。じゃあまた後でな雄馬ゆうま。」

「うん。」


御退学のお手続き、か。


正直、やばい人だなと思った。というか、あんなことを入学式で言える人間はこの世界に数人いる程度だろう。

この学校に入学する前から噂くらいは耳にしていた。東高校生徒会長、小野寺紗香。この学校の生徒会を飛躍的に進歩させたという手腕の生徒会長。その功績から、『東高の天才』とまで呼ばれる人物だ。なにせ、この高校に彼女目当てで入学する人物も多く、人望も厚い。おまけにあの容姿だ。噂では東京に旅行に行った際には何回もスカウトから声をかけられたという。


しかし、多くの男子は彼女と話すどころか目も合わせられない。理由は単純明快で、彼女は大がつくほどの男嫌いなのであった。先ほどの入学式でのことからも分かる通り、彼女自体はこの学校を何度も女子校にしようと奮闘したらしい。(結局、副会長が阻止したらしいが。)まぁ、僕自身もそんな学校に入学してしまった男子の1人であり、正直この先不安しかないという状況だ。


「21番、太刀掛たちかけ雄馬ゆうま

「はい。」


出席確認、よし。

これで僕のこのクラスにおいての出番は終わりだ。というのも、僕自身はかなり引き篭もりであり、日光が痛いと感じる人間である。ついでだが、先ほど僕に愚痴を言ってきた人物は関原せきはらちから。名前の通りバリバリの体育系で、そのくせ何故か僕とソリがあうという謎の人物だ。彼とは小学校からの付き合いであり、大親友でもある。とまぁ、僕自身はいわゆるド陰キャであり、小中と共に友達は彼だけ。つまりは悲しい人物だ。泣けてくる。


「それじゃあ今日のところはこれでおしまいだ。明日から普通に授業があるからな。とは言ってもオリエンテーションだろうが。とりあえず、忘れ物はしないように。」

『はーい。』


そうして、入学して初日の放課後が始まる。


「これから誰かカラオケ行こうぜ!」

「ねーねー君ってどこから来たの?」

「そのゲーム一緒にやろうぜ!」


みんな早すぎでしょ。打ち解けるの。ということで、インキャの僕はそそくさと教室から退場した。すると、なにやら1人の女子生徒が僕に近づいてくる。見た限りは一年生のようだ。


「あなた、太刀掛雄馬?」

「ああうん。そうだけど。」

「ああ、やっぱり。じゃあこれ、会長から。」


そう言われて目の前に差し出されたものは一通の手紙。


「これ、会長があなたに渡して欲しいって頼んできたんだ。」

「そうなんだ、わざわざありがとう。」

「うん。それじゃあ私はこれで。」


良い人だな、この人。

とはいえ、あの男嫌いな会長から僕に手紙?何かの間違いだろうか。僕は1人トイレへと入り、個室に入り鍵を閉める。そして、手紙を恐る恐る開けてみることにした。

中には、一枚の文章が書かれた紙と、もう一つなにやら写真が入っていた。


「この写真なんだろう?小さい男の子と女の子が並んでいる写真なんてなんで僕に?それに、この男の子って・・もしかして、僕?」


何故僕と女の子が写真に写っているのかはよくわからなかったが、とりあえず文章を読んでみることにした。


『今日放課後、体育館裏にて。小野寺』


これはつまり、僕に体育館裏に来いと言っているのだろうか。・・僕、何かやらかした?

もしかしたら、入学早々やらかした僕は会長直々に退学処分とか?いやいやでも、僕はこの学校ではなにもやっていないはず。僕はそっと紙を閉じ、手紙を元の状態へと戻した。


「・・どちらにせよ、行かなきゃやばいよなぁ・・。」


ため息をつきながらも適当にトイレから出てきた風を出しつつ、重い足を持ち上げながらも体育館裏へと向かう・・ていうかよく考えたら、体育館ってどうやって行くんだ?そうして、数分歩いたのちに分かったことがある。


「この学校校舎広すぎだろ・・」


完全に迷った。何故入学式をやった体育館の場所すら把握していないのかって?でも冗談抜きでこの学校がデカすぎる。生徒数に明らかに見合っていない校舎の広さではあるが、それ故にゆとりを持って学びたい生徒には人気があるようだ。生憎、僕はあまり好きではないが。


「あの、何かお困りでしょうか?」

「ああ、はい。実は迷ってしまって・・って、もしかして副会長ですか?」

「ええ、そうです。恐縮ながら、東高校生徒会副会長を務めさせていただいている瀧川たきがわ結衣ゆいと申します。」


うわぁ凄い美人さんダァ。会長もとてつもない美少女だが、あちらが可愛いというのであれば、こちらは美しいというべきか。


「あの、そんなに顔をじろじろ見られても・・少し恥ずかしいのですが。」

「!?す、すみません!つい、驚いたもので・・」

「大丈夫です。それで、なにかお困りでしたでしょうか?」

「ああ、その、実は体育館の場所が分からなくて・・迷ってしまったんです。」

「まぁ、それは大変ですね。確かにこの学校は校舎が広いですから。迷うのも無理はありません。私がご案内します。」


めっちゃ良い人だなぁ。


「ありがとうございます。」

「いいえ、礼には及びません。体育館はこちらです。」

「あ、はい。」


後ろから見ても、やっぱり会長に引けを取らない容姿だな・・髪はショートで少し茶髪っぽい。でも何か全体から優雅さというか、大人っぽさを醸し出している。着物なんかきたらもう時代劇から出てきたなんて勘違いしてしまいそうだ。


「・・ところで、あなたは今回の入学式の会長挨拶をどう思われましたか?」

「え?」


副会長がいきなり歩みを止め、こちらを振り返り質問してきた。


「・・いきなり失礼でしたね。しかし、今回のあの挨拶。あなた方新入生が不快に思ったのであれば、私から謝罪したいのです。」

「い、いえ!不快だなんてそんな!」

「・・私は、時々わからなくなります。」

「え?」

「果たして、彼女が生徒会長として相応しいのかと。」

「そ、それは・・」

「・・ふふ、すみません。まだ入学したばかりだというのに、こんな話をしてもよくわかりませんよね。」

「・・・」

「さぁ、体育館はこちらです。」

「・・はい。」


彼女の顔はニコニコと、それは美しかった。が、何処か歩いている背中は、迷いを感じられるようだった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「ここが体育館です。」

「わざわざありがとうございます。」

「いえ、大したことではありませんから。それでは、私はこれで。」


そうして、彼女はすぐに戻っていってしまった。


「良い人だけど、裏がありそうだな。」


とはいっても今はなにもわからない。僕は大人しく体育館裏に行くしかないのだ。


「・・いた。」


そっと物陰から覗いてみると、確かにそこには会長本人が立っていた。しかし、その様子はイライラとしているようで、腕を組みながら足をパタパタと動かしている。


「・・ん?そこのあんた。ちょっとこっち来なさい。」


見つかったぁああ!!

恐る恐る彼女の元へ近づく。


「あ、あの、コロサナイデクダサイ・・」

「はぁ?何言ってるのよ。ていうかあんた。名前は?」

「え、えっと・・太刀掛、雄馬です。」

「ああ、あんたか。じゃあ一応、私は小野寺紗香。この学校の生徒会長やってるわ。」

「そ、それで、なんで僕がここに?」

「そうね。さっさと言ったほうがいいわよね。」


すると、何やら彼女は手を合わせてもじもじし出した。えっと・・これはいったい?


「そ、そのね・・えっと、わ、私と付き合いなさい!」

「え」

「だ、だから!私と付き合えって言ってるのよ!」

「・・夢かなぁ?」

「何言ってんのよ!早く返事してよね!」

「あ、えっと、よろしく?お願いします?」


そうして、僕の高校生活は慌ただしくスタートした。

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