それは都市伝説。

@Hisa-Kado

それは都市伝説

こんな都市伝説、知ってる?

正体不明で神出鬼没。誰が広めたか、わからない。そんな不思議な都市伝説。

ある人が言うには、それに出会ったら助からない。

ある人が言うには、それは人を驚かすだけ。


突然やってくることがあるらしい。

気づくとこちらから近づいてしまっているらしい。



あの子が言うには、2階で昼寝をしている時にそれがやってきたらしい。

べたりべたりと濡れた足で床を歩くような音が一階から聞こえた。

寝ぼけた頭で考える。お母さん?お父さん?どちらもお仕事、家にはいない。

ならばいったい誰だろう?考えているそのうちに、ソイツは上へと登りだす。

べったり、べったり。さっきよりも慎重に。

その足音の響きに合わせるように、肩がビクりと跳ね上がる。

べたりべたり、四つん這いになり上へ行く。

抜き足、差し足、忍び足?バレないようにゆっくり来てる?


いやいやそんなことはないだろう。

べったり足音が響いてる。きっと恐怖を楽しんでいる。

近づくにつれ跳ね上がる肩を、どんどん縮こまっていくその子を、部屋の隅で震えるその様子を。

じっくり焦らして楽しんでいる。


やがて上まで来た時、扉の向こうに来た時、女の子はギュッと目を瞑った。


そうするとどうだろう?さっきまでの足音はしない。

下から上がってきていた嫌な気配ももういない。

どこかにいった?満足した?

そんな思いで、ゆっくりと慎重に目を開けた。


その目の前にはそれがいた。


ぬらぬらテカテカした顔で、ノッペらなそれがそこにいた。

四つん這いになったそれは、顔のない頭でこちらをのぞいていた。

真っ白の体、その頭に亀裂が入るとそれは口に変化する。

大きな不気味な口を広げて、それは不快な笑みを浮かべる。

くぐもった低い笑い声が聞こえてくるような気がする。


この女の子の話はここまで。


正体不明。目的不明。女の子のその後、不明。


それ足音はべたりべたりとしていたけれど、ペラペラとするときもあるらしい。

それは何処からともなく来るけれど、風とともに紛れ込んでくることもあるらしい。

それは1人の時にやってきたけれど、みんなと居てもるらしい。


あの子が言うには、電車の中でそれに合ったらしい。

深夜の駅、人が少ないホームに電灯だけがやたら光って余計に寂しく感じられる。

乗客は他にいない。ここには彼ら一行だけ。5人組で電車を待つ。少し予定より早いだろうか?電車がホームに着いた。扉が開くときにホームの電灯がパチパチと点滅する。なんだか妙に不安だ、いつもなら何も感じない電車も今日は頼りなく見える。

早く帰ろうと思い電車に乗り込み席に着く。扉が閉まる時にとびきりに冷たい風が流れ込んできた。その風とともに嫌なものが入り込んだ気がしたのだが、彼はそれを口にはしない。

気のせいだと言い聞かせる。だって疲れてるし。


ガタンゴトンと電車は揺れて、彼らを何処かへ運んでいく。

いったいここは何処だろう。いつもの電車に乗ったはずなのに、気づけば全く逆方向、やっぱりほら疲れてる。


反対方向に来るのは初めてで、知らない駅が続いてく。どんどん田舎に向かっている?街明かりが遠くに輝いていた。なんとなく外を眺めていると佇むそれと目が合った。

その瞬間に我に帰る。何をしている?早く降りて元の方向の電車に乗らなくては。

どうしてのんびり乗っていた?さっきのあれは一体なんだ?

そんな焦りが加速する。やがて不安が溢れ出す。

他の4人を見てみると、うつらうつらと今にも寝そうだ。

ゆすり起こして声をかける。すると1人が声を上げた。何かに驚いたような、悲鳴のような小さな声。

最初は皆もその声に驚いていたが、しばらくすると他の3人も同じような声を上げた。

何か気づいてはいけないものに気づいてしまったような、何かに気づきを悟られまいとするような、そんな表情の4人を乗せ電車は逝く。

無言で俯く4人を横に、彼は不安を隠しきれない。自分だけが何が起きているのか理解できていない、そんな不安からか、彼の額には脂汗が滲む。

次の駅までもう少し、そのアナウンスが静まり返った車内に響く。

解放されることに油断したのか、男は不意に顔を上げた。

するとまたそれと目があった。そのとき男は気づいてしまった。

明るい車内と暗い外。ガラスはまるで鏡のように、車内の我々を反射する。

それが佇んでいたそこは、決して外などではなく、男の真後ろだったのだ。


このお話はここでおしまい。

男は無事に帰れたのか?映ったそれの姿とは?結局謎な都市伝説。


それは現実の姿で迫ってきていたけど、音や文字にも姿を変えられるらしい。

それは目覚めるといるけれど、夢の中にも出てくるらしい。




その子が言うには、それを夢に見るらしい。

いつも通り生活して、いつも通り眠りにつく、いつも通りじゃないのはその夢。

今日はなんだかいつもと違う、何が違う?そうだわかった、わかるんだ。

これが夢だと理解できる。けど、それだけじゃない、もっと妙なことが起こっている。体が何故だか動かせない。

金縛り?でもそれは起きてる時にかかるものじゃないか?

そんな事を考えていると、気づけば道の真ん中にいた。小学校の通学路だ。

あたりは夕暮れ時、自分の影が遠く伸びている。その横に、それの影。

動けないこちらの様子を伺うように動く。

まぁどうせ夢だし、気楽に行こう。

ただただ時間が過ぎる。

どのくらいだろうか?

1時間?2時間?もうずっとこうしているきがする。相変わらず夕焼けだし、影は隣にいる。

このままずっと夢なのでは?

そんな考えが浮かぶとバッと不安が押し寄せてきた。それに応えるかのように前方の山の背から影が伸びる。みるみるうちに空を覆い尽くし、やがて何も見えなくなった。

しかし目を閉じることはできない。ずっと何も見えないという状況は想像以上にくる。

あたりにはそれの気配がうごめいている。

こちらに顔を近づけ恐怖する様子を楽しみ、見えない何かに怯える背中を遠くから楽しみ、ニタニタと気持ち悪い笑みを浮かべる。見えなくてもわかる。それはそうしている。

不安や恐怖がだんだんと怒りへ変わったところで、体が自由になる。

一発ぶん殴ろうと後ろを振り向くと、その暗闇には能面が不気味に浮かんでいた。

ひるみ、拳が止まる。その瞬間に闇がパッと晴れた。

いくつかのぼんやりとした光源に照らされたそこは地下牢か蔵のようである。

あたりにはおびただしい数の日本人形、西洋人形、藁人形、赤子のミイラ、ムカデや蜘蛛などの毒虫の死骸、怪しい札の貼られた箱、人の眼などなどが並べられており、それらはときおり動いていた。

衝撃と恐怖と気持ちの悪さで固まっている彼女に向かって、それらは迫り始めた。

そしてその物たちに押しつぶされそうになった時、目が覚めた。


汗ぐっしょりである。

現実に戻れたことにひとまず安心し、水でも飲みに行こうと立ち上がったり足元を見ると

影が隣にいた。



この話はこれでおしまい。この後は?本当に夢から覚めたの?それらも全部わからない。それがこの都市伝説。



それはあまりにも分からないことが多すぎる。

わかっていることといえば突然現れることぐらいかな?

後はそうそう、姿も自在だってこと。

これはこの話の中でも話してきたけど


気づくとこちらから近づいてしまっているらしい。


それ足音はべたりべたりとしていたけれど、ペラペラとするときもあるらしい。


それは1人の時にやってきたけれど、みんなと居てもるらしい。


それは現実の姿で迫ってきていたけど、音や文字にも姿を変えられるらしい。


そんななんでもありのような都市伝説。

きっと今もどこかで誰かの前にいる。


それはこのように文字に姿を変えて。

ペラペラとページをめくる足音で迫って。


ほら、きっとすぐそこにいるよ。


見つけた。

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