サツ人鬼と暗サツ者
渡貫とゐち
MISSION1
第1話 新しい世界の扉
ゆーちゅーばー?
というのが流行っているらしいので、見てみることにした。
見たい動画があるわけでなく、おすすめされた動画をとりあえず選んで片っ端から見ていくと、いつの間にか膨大な時間を消費していた。
数分の動画があれば十分を越える動画もあるわけで、どの動画も最後まで見ていれば、単純に閲覧時間が加算されていく。
数分の時間潰しのつもりが、一時間以上も見てしまっていた。
日付を跨ぎそうな時刻になっている。
大きなあくびが眠気を誘った。
流行っているけど僕ははまらなかったなあ、と言いながらも、関連で出てくる動画が気になって選んでしまうのは、もはやそれはもう、つまり、はまっているのでは?
しかし、これのどこが面白いのかは、上手く説明できる自信がなかった。
「ん?」
関連動画に見たことのある容姿が映っていたので、思わず選ぶ。
有名でなくとも、広告に使われている売れていない芸能人かもしれない。
町中にある看板、電車の中の吊り広告、スマホのバナー広告など、
サブリミナル的に挟み込まれた人物が無意識に印象に残っていて、記憶がびびびっと反応したのかもしれない。
動画を再生してみると、不意を突かれて思わず咽せた。
全然芸能人じゃなかった。
顔をもろに出している、クラスメイトの女子だった。
「な、なにしてんだ……?」
いや、そう言えばゆーちゅーばーデビューとかなんとか、教室で高らかに宣言していたような気もする。
しかし、早速、今日の今日で実行するとは思わなかった。
いつ撮影した? 編集した?
すぐ行動に起こす早さは凄いけど、やっぱり動画を作り慣れている人たちを見た後だと、編集が雑だ。
というか、編集なんてしていないのかもしれない。
……あれ?
コメントにちゃんと反応してる……サクラか?
と疑ってしまったけどなんてことはない、編集なんてしていないし、必要ない。
これはライブ映像だ。
今、こうして僕が動画を見ているこの時間、画面の中のクラスメイトは、自宅で画面に映る同じことをしている。
今のところ、コメントに口頭で返事をしており、これじゃあただの会話だ。
それでいいのかと思うが、いいのだろう。
見知った顔があったので反射的に選んでしまったのでタイトルを見ていなかったが、
『質問会』とつけられている。
不特定多数の人たちと、一人の女の子の質疑応答の空間。
知名度ゼロの素人が、いきなり質問会と銘打ってライブ配信するとか。
……これがゆーちゅーばーなのか。
よく分からない世界だが、コメントから溢れてくる楽しそうな雰囲気は伝わってくる。
動画を見始めた頃よりも、閲覧者数が次第に増えていっていた。
学校では、またバカなことを言い出したぞ、とみんなは面白半分で応援していたが、ネットの世界でこうも早く人を集められるのはれっきとした才能だ。
意外と、早くも人気を獲得するかもしれない。
ただお喋りをしているだけなのに、コメントの盛り上がりようが凄かった。
しかし、文字だけで伝わるお祭り騒ぎも突然の終わりを告げる。
急に画面が暗くなったのだ。
僕のパソコンがおかしくなったのかと思ったが、違うみたいだ。
動画内容が不健全だと判定され、ライブ配信を強制的に中止させられた。
丁度、言われるがままに画面内の女子が、ネグリジェに着替えるところだった。
「んなもん、バンされるに決まってるだろ」
同室の
「バカかこいつは」
ネグリジェがまずかったみたいだ。
下着姿だったから? のも、あるかもしれない。
「見た目が良いだけで、別に話術が特段上手いわけでもない。盛り上がってたのも、コメントにほいほい答えて、注文に丁寧に従っていたからだ。うちの学校の制服まで出してたよな……? 特定されるだろ。あいつ、明日からストーカーに狙われるんじゃねえか?」
そこまでアホなのだろうか。
……アホなのかもしれない。
しかし、質問への答えは嘘かもしれない。
……そうだとしても顔出ししている時点でダメか。
制服と顔が分かってしまえば、直接会うことはそう難しくない。
「大丈夫かな……?」
「放っておけよ、こんなつまらないことにお前が出ることもないだろ」
こういうのは、警察に頼るのが一番安全だ。
「結構、面白かったけどな……」
せめて一言、コメントでも打っておけばなあ……、
と、触れてみた新しい世界は、一つの後悔と共に遠ざかることになった。
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