第44話



 俺にアミュレットを手渡して、シーキーはいそいそと本棚の間に消えていった。

 俺も彼女にならうとしよう。


「ふむ……。しかし」


 アミュレットを持ったまま立ち尽くす俺に、控えていたパルルが首をかしげる。


「お師匠さま? 検索しないんですか?」

「思えば、イルケシスに関する本のタイトルなど、ひとつも知らん」

「ありゃー」

「転生前からたくさんあったはずだし、生家でも見た記憶はあるんだが……」

「それっぽいので試してみたらどうですう?」

「ふむ。まあ、そうだな」


 それっぽいの。

 それっぽいのというか、まずは直球でやってみるか。


「<ブリングサーチ>、イルケシス〔勇〕家」


 アミュレットが点滅し、俺に光の帯をくれる。

 ステータス表示を見るような感覚で、脳内に情報が広がった。


 ――該当:なし


「だめか」

「人の名前などでは?」

「いいアイディアだ」

「わーいほめられたですう!」

「図書講堂では静かに」

「はーいですう……」


 本になっていそうな名前……ということであれば。

 父上、いや。

 長くイルケシス家の当主をつとめ……俺の追放を決めた人間でもある、祖父。


「<ブリングサーチ>アラドレイ・バル・イルケシス」


 ――該当:なし


「ダメだな」

「使えない免許ですう」

「俺の適応度が弱いのかもしれん。司書の適性は試してみたこともないが」

「でもこういう場所のは、誰にでも扱えるようにしてあるんじゃあ……?」

「普通はな。ここは勇者学校だし……、そうか。それでマーシュエ指導員はさっき、できないことという言いかたをしたわけか」


 人によっては、司書の免許をうまく使えない場合がある、と知っていたに違いない。

 そもそも、誰にでも扱わせようと思っているなら、『仮』免許のほうを置くはずだ。

 これも授業、か……

 だからEやFの学生にとって、この場所に早く慣れることは重要なのだな。


「なんでもかんでも適性やら適応度やら、ほんと世知辛い世の中ですう」

「そう言うな。それで得をしている人間もいる」

「おしょさまもパルルも損しかしてないですう!」

「それはその通りかもしれん」


 現に、困ったな。

 イルケシスの資料自体はちゃんとあると言っていたし。

 いたしかたない。

 パルルにまかせて、さがしてみてもらうか……、

 待てよ?


「試してみるか」

「試してみましょうですう!」

「得体の知れない先走りをするな。ええと……」


――スキル 『村人』 地ランク88+地ランク66+地ランク44

――擬似的顕現・同化技能<おれが司書免許だ>


「<ブリングサーチ>、イルケシス〔勇〕家」


 司書のアミュレットは輝かなかった。

 しかし俺の脳内に、イルケシス〔勇〕家に関する図書講堂の情報がずらずらと列挙される。

 よし。


「うまくいったようだ」

「なにをなさったんですか?」

「狩人のスキルを使った。もちろんまねごとで」

「村人スキルだ!」

「パルルが言ったほうがサマになってきてるな……。狩人のスキルに、まわりと同化するものがある。本来は自分の気配を消すためのものだが、アミュレットを通すことなくスキルを使えないかと思ってな」

「おー、なるほどー……。えっ?」

「これはなかなか、いい試みだった。なにかと応用できそうだ」


 今は手に持った免許で行ったが、距離があってもできるかな……? いずれまた試してみよう。

 なにはともあれ、本の情報は手に入った。


 『イルケシスの叡智』、『偉大の象徴 イルケシスの勇』、『勇者になりたい! イルケシス家の晩ごはん』、……どれを調べるかな。

 手当たり次第という方法もあるが、数が多い上、なにやら謎めいたタイトルも混ざり込んでいる。


 俺が知りたいのは、イルケシス家の顛末だ。


 魔界との戦いで消滅したことはわかっている。その具体的なことが知りたい。

 歴史書めいたものが、いちばん詳しそうだが……

 ……ん? なんだこれは。

 引っかかるタイトルがあるぞ……


「ダドリー・フォン・イルケシス……最後の手紙?」


 ダドリー……

 この名は……


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