第36話
「では、次の問題と参りましょう」
「次は私が当てる」
「アビエッテさん、意気込みはまことに結構ですが、ボードだけでなく答えも当てていただきたいですぞ」
まったくだ……とは思うものの。
人にとやかく言っている場合ではないな。
いったいなんだ、俺のあのスキルの速度は?
モーデンに言ったように、俺の適応度の問題なのだろうが、情けないにもほどがある。
仮に実戦としたならば、あんな遅い攻撃が何の役に立とうか。
今回は偶然、ボードに当たってくれたが……、ふむ?
もし今が、実戦だったら、か……
「では、問題。魔王とは、どういった存在でしょう?」
「<リカーニードル>」
「アビエッテさん、お見事。ボードのお答えは?」
「『昼下がりの団地妻』」
「実に妖艶。あいや失敬、正解ではありませんな。アビエッテさんのお答えは?」
「しらない」
「せめてなにか……」
「なんか悪そうなやつ」
「断じて正解ではなけれども、まったく不正解とも言いがたい。ううむ!」
すったもんだするアビエッテのほうは見ず、俺は動き回るボード群を観察した。
これは授業や試験ではなく、イベント。
宙をすべる、それぞれのボードの動き……
すべてをモーデンが操作しているのだろう。
それでいて、ごく普通に会話もこなしている。
並の手練手管ではないが、それだけに工夫はされているはずだ。
「副校長殿」
挙手する俺に、モーデンが視線をくれた。
こっちは考えながらしゃべっただけで、まるでファズマのような言い回しになってしまったが。
「仮免許の勇者スキル以外は、やはり使用不可でしょうか?」
「いいえ? そんなことはございませんよ」
「本当ですか」
「今日だけでなく、通常の授業でも同様です。もちろん、結果に対して……たとえば、『モンスターを倒す』という課題なのに、勇者スキル以外で倒されては困りますが。勇者スキルで倒すために、別ジョブのスキルを使用することは、むしろ奨励いたします」
「なるほど」
思ったよりも実践的だ。
しかも、こちらから聞くまで言い出さなかったあたり……この副校長、やはりやさしいだけではないぞ。
オリエンテーションとはいえ、力を尽くさねば。
――スキル 『村人』 地ランク90+風ランク89+水ランク70
――擬似的顕現・格闘技能、
「<月のない夜は怖いから>」
集中力を高め、俺は仮免許をしっかりと握りしめた。
はためから見ても、俺の様子が変わったようには思えないだろう。
しかし、発動している。
複雑ではあるが、やはりパターン化されているようだ。これなら……
「<リカーニードル>」
「<リカーニードル>!」
やはりカタツムリのごとく遅いスキルをそっと発射する俺と同時に、シーキーがスキルを使った。
目にもとまらぬ速度の光が、今度は見事にボードのまんなかに当たる。それだけでもたいへんうらやましい。
「シーキーさん、さっそく腕を上げましたな。ボードのお答えは?」
「は、はい……えと、『魔界でいちばんえらいやつ』、です」
「左様。正解と思われますかな?」
「あ……せ、正解かな、と思ったんですけど。もしかして、違う……?」
「はっはっ、ご明察、正解ではありません。惜しかったですな、これはひっかけ問題で、世間一般にもこの誤解をなさってる方々が多いのですよ」
「そうなんですね……」
そう。魔王は1人ではない。
魔界には何人もいる。
かつてイルケシスの勇者たちも、何度となく魔王を倒してきたが、歴史が証明しているようにきりがなかった。
その魔王たちを、普通の魔族と区別するものが……
「さて、レジードさんは……」
言いかけて、俺がすでにスキルを使っていることに気づいたのだろう。
モーデンが、のろのろ進む光の矢を見つけると同時に、それはちょうど軌道に入ってきた1枚のボードに、どこか遠慮がちに当たった。
「ほ……レジードさん、ボードのお答えは?」
「『魔界の土地の持ち主』です」
「左様、お見事! 正解のボードです」
「よかった。ありがとうございます」
良い問題だな。
ボードの意味こそときどきわからんが、駆け出し冒険者が勘違いしやすいことを、うまくまとめてくれている。
というかこれは、じゅうぶんに立派な授業なのではないか?
「では、次に参ります。魔族が魔界から人間界への侵攻をもくろむのは、なぜでしょうか?」
ふむ。
よし。
あのボードだ。<リカーニードル>!
「<リカーニードル>」
「はいアビエッテさんお見事、本当にスキルの扱いはお上手です。ボードのお答えは?」
「『33-4』」
「関係ございませんな。関係ございませんとも。アビエッテさん、あなたのお答えは?」
「しらない」
「そう言わずに」
「これはしらない。マジで」
「ここへきてかたくなとは……」
「り、<リカーニードル>っ……!」
「ああシーキーさん、惜しいですな、ボードを外してしまわれましたか。もっと落ち着いて大丈夫ですよ……、っお」
遅まきながら、俺のスキルが1枚のボードを直撃する。
モーデンが、白い眉をほんのわずかにひそめた。
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