第24話
「なに、簡単な話だ。要するに茶番ということさ、この入学式とやらも含めてな」
「茶番」
「数あるジョブの中でも、勇者とはことさら特殊性が高い……素直に解釈すれば【勇気ある者】が勇者だが、ではそれを誰が判定するのか? 何をすれば勇気があることになるのか?」
「ふむ……」
「ひと昔前までは、精霊に丸投げしていた。いいや、勇気ある先人たちは、あえて自分たちで基準を定めなかったのだと、おれは考えている。勇者は精神的なんだよ。ある選ばれた
おお。
意外と、俺にもわかる話だな。
「それが今は、どうだ? 免許だと? まるでたちの悪い喜劇譚だ。免許で勇気が示せるか?」
「なるほど」
「真に魔を討ち倒せる者だけが、勇者にふさわしい。当たり前の話だ。その栄えある称号を、この学校は量産している。自覚があればまだいいさ、今はしょうがないのだ、とな。だが」
ステージで説明を続けている係員に、青年はあごをしゃくった。
ハスキーな声に、いかにも嘲るような調子がまざる。
「理想の勇者像、ときたもんだ。自分たちの発行している勇者免許が、大陸中で悪用されている現状を見て見ぬふりして。あきれるだろう」
「すべてがうまく回っているわけでは、確かにないようだな」
「聞かれる前に答えておこう、おれの今のジョブ適性は『槍兵』だ。勇者じゃない。だが、Sランクの勇者免許を手に入れるつもりでここへ来た。対魔界戦力の大量生産も、それ自体を悪いと言ってるわけじゃないぜ」
「ほう」
「いつまで勇者の名で釣り続けるつもりか……いつまでその名を汚し続けるつもりか。それがガマンならん。だから」
安物の椅子の上でわずかに背筋を伸ばし、青年は親指で自らを示した。
「おれ様が魔界を叩き潰してやるのさ。そうすれば、このバカバカしい免許のばらまきも、必要なくなるってもんだろう」
「すばらしい理屈だ」
「対魔界の戦力に選ばれるには、勇者免許がいる。けったくそ悪いがそこはどうしようもない、何事にもルールは必要だ。ちょちょいのちょいでやってやるさ。なぜ誰も、打倒魔界を第一に考えないのか、まったく理解に苦しむ」
過激だが、きっぱりした男だな。志にもうなずける。
だが、まあつまり、魔界に攻め込もうと言っているわけだからして。
「それは、簡単じゃないから、じゃあないか?」
「ふん! どいつもこいつも、修行が足りんのだ。いいや、修行のしかたを知ろうともしていない、と言うべきか」
「ふむ」
「どうせ貴様も知らんのだろう? 己の中の〔勇〕を育てる方法を」
「それは、アレじゃないのか? 精霊との一体化で」
「ほ。よくお勉強したな、と言ってやりたいところだが、その程度のことはモグリの免許屋でも知ってるぞ。そうじゃあない。
ああ、それなら。
「滝に打たれていたんだろう」
「……なに?」
「感謝感謝と叫びながら」
「!!……貴様ッ!」
がたん、と椅子を蹴立てて、青年が立ち上がった。
当然、目立つ。
視線集中。
ステージの係員もきょとんとしている。
それらをまるで意に介さない様子で、青年は笑っていた。
「調べたのか! イルケシス〔勇〕家の伝統を!」
「調べた? いや、ああ、まあ」
「貴様! やるな! 本当に勉強してるじゃないか、驚いたぞ!」
笑顔のまま、勢いよく俺の両肩をたたき、つかみ、前後に揺さぶってくる。
テンションの乱高下がパルル級だな、この男。
「今どき、イルケシスの名すら知らぬまま勇者免許を振りかざす恥知らずどもも多いというのにな! 貴様も滝に打たれてきたのか!? おれも2年ほどがんばったんだ!」
『あのー、そちらの方、まだ説明中ですので。お静かに――』
「うるさい! 貴様が静かにしていろ! いや、滝はいいよな。申し遅れた、おれの名はファズマだ! ファズマ・ロンドーマ、Aクラス【槍兵】だ」
「レジードだ。適性は……村人だ」
この手の男に、いわば最底辺ともとれるこの紹介はよくないか、と一瞬思ったのだが。
「そうか! 村人では行動が限られるところも少なくないだろうに、よく努力したな。見上げたものだ!」
やはり良くも悪くも、きっぱりしているようだ。
変わった男だな、ファズマ・ロンドーマ。
俺が自らの適性を村人と答えることも、事前にパルルたちと話し合い、決めていた。
ジョブ適性が、外からは勇者に見えない……これはどうやっても、変えることができなかったからな。
腹をくくるよりほかない、と判断した。
「建前上、誰でも入学できるとこの学園も謳っているが、それでも村人は滅多にいないと聞くぞ。志が高いのだな」
「そんな大した人間じゃない。Aクラスの戦闘職のほうがよほどすごい」
「ふははは! そう言われると悪い気はしない! だがおれはもう、勇者として生きる覚悟を決めたつもりだ。免許を手に入れたら、必ず転職する。適性が得られるかどうかはわからんが、いずれにしろ元のジョブのまま、アミュレットのメリットだけ利用する気は毛頭ない!」
「なるほど」
ずいぶん熱い男だ。
もはや入学式のことなど、頭から消え去っているようだが……
にしても。
そうか。
この男も、滝に打たれたのか。
「確かに、滝はいい」
「ああ! 滝はいいな!」
わかってくれるやつがいるとはな。
俺も少し、うれしくなってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます