第7話
いきなり現れた俺に、男とごろつきたちはきょとんとしていた。
身動きのとれない少女までもが、大きな両目をぱちぱちさせている。
彼女の騎士ぶりは見事だった。
長らく村人をやっていた俺からすれば、まばゆいほどだ。
それにひきかえ……
「気に入らん。よりにもよって」
「なんだ、てめえ……!?」
「勇者の名をかたる愚か者が、この世の空気を吸っているとはな!」
品のない言葉遣い。
多勢で無勢を襲う。
あまつさえ年端もいかぬ少女を。
すべて勇者が……いや。
男がやることではない。
「いきなり何わめいてんだよ、コラァ!? 猟師見習いのガキは引っ込んでろや!」
「俺は猟師ではない。貴様に比べれば、俺のほうがまだマシだ」
「あん?」
「俺は勇者だ! 貴様などとは違う」
言い切ったあと――俺は我に返り、奥歯を噛んだ。
いかん。頭に血がのぼって、つい思ったことをそのまま吐き出してしまった。
俺とて、他人に胸を張れるような勇者では……、いや。
今はいい。これでいい!
「……ああ。えっ? 勇者って……はは、ははははは!」
案の定、男にも笑われてしまった。
だが、勇者が勇者と名乗ってなにが悪い。
「そんなカッコ、おま、勇者がそんなカッコすんなよ! 原始人さながらじゃねーか、ありえねーセンスしてらあ!」
「ぬう……」
「あ~あ笑わしやがる! あ~、は~、でもなるほど。なるほどな、へっへ! そういうことかよ。いろんな
「同業、だと……?」
「いいっていいって、ややこしいことは。要するに、おこぼれにあずかりてーんだろ? このあたりにも多いんだな~。なかよくやろーぜ」
なんだこいつめ。何を言っている?
なぜ突然、こんなになれなれしいんだ……?
「とりま、免許見してくれよ」
「なに?」
「免許だよ免許。おら、こいつが俺の勇者免許だ。これより格上の、持ってっかい?」
男がにやにやとひらつかせたのは、さっきふところから取り出した物。
手のひらにすっぽりとおさまる大きさの、6角形のアミュレットだ。
うっすらと青に輝いている。特徴的な紋様と、なにやら小さな文字もごちゃごちゃと刻まれているようだ。
なるほど確かに、俺の知る免許……
騎士や薬師が持つような物と、よく似てはいるな。
「Bクラス免許だぜ! しかも罠師の高位スキル封入のレア物だ。俺のチカラよ! どうだ?」
「ない」
「あん?」
「そんな物は持っていない」
一瞬、奇妙な間を置いて、男たちは大笑いした。
「な、なんだそりゃ! 肩で風切って出てくるからよぉ、どこのお大尽かと思ったぜ!」
「おまえたちは、盗賊団か? それとも傭兵崩れか」
「おお、鋭いな。だがどっちも違う、俺たちゃ勇者サマだよ!」
「……もういい」
「こっちのセリフだ! ちょっとはユカイな野郎かと思ったら、ただの正義漢ぶった田舎者だってかよ! なら女より先にへこましてやらあ!」
男の持つ免許が光を放ち、またも火炎が生み出される。
どういう仕組みかわからないが……
こんなもの、サルマネ以下の悪ふざけにすぎない。
真の勇者スキルにはほど遠い!
――スキル 『勇者』 光ランク1
――〔勇〕技能・攻撃、
「光弾<ライトバレット>!」
右手をかざし、俺は初めて唱えた。
勇者のスキルを。力を放つ言葉を。
しかし……
なにも起こらない。
突き出した右手からは、なにも現れない。
「なに……っ、く!」
迫る火球を、間一髪で避ける。
どういうことだ? スキルが出ないぞ!?
まさか免許がっ……いや違う、関係ない!
俺は適性『勇者』、ならば勇者スキルが使えるはずだ。
いったい、なぜ!?
「器用によけるじゃねえか! 楽しいシューティングだぜ、はっはあ!」
「ご、御仁! 逃げてください!」
身をよじり、なんとか拘束を外そうともがきながら、少女が叫んだ。
こんな状況でも、他人の心配とは。
本当に見上げた女の子だ。
「ここは自分がなんとかします! ですから早く!」
「騎士殿。ご心配には及びません」
「えっ……!? あ、あぶない!」
何度も撃ち出される火球を、今度は余裕をもってかわし続ける。
もう一度、勇者スキルを試してみたいが……そんな場合ではないな。
「勇者としての、初めての功績とできていれば、格好もついたんだがな」
「なにをぶつくさ言ってやがる!? 先に女を狙ってやろうか!」
「そうだな。貴様はそうするべきだった。初手でそれをされていたら、もう少し長引いていたかもしれない」
「な、なんだとお……!?」
――スキル村人火ランク70+風ランク70
――擬似的顕現、攻撃魔法技能、
「<熱すぎてどうしようもねえ>!!」
生み出した火の玉を解き放つ。
男の攻撃に10数倍する、猛烈な火炎の渦巻き。
ひらけた地面をなめ尽くすように、熱波が轟音とともに突き抜けていった。
爆風に木々があおられ、ちぎれた火の粉が天まで飛んでゆく。
あとに残ったのは、少しだけ広さを増した土地。
加えて、真っ黒に焦げて腰を抜かした男。
衝撃でなぎ倒された他のチンピラども。
火の攻撃で熱かっただろうに、男はずいぶんがたがたと震えている。
「ひ……っひ……ひ、い、今のはっ……!」
「騎士殿に感謝することだな。彼女に殺すつもりがないようだったから、俺も殺しはせん」
「今のは、ま、魔法使いの……魔法使いの、Sクラススキルっ!? そんな、ゆ、勇者免許も持ってないんだろっ……なんで……!?」
「今のは魔法使いスキルではない」
「へ?」
「村人スキルだ」
本物の勇者スキルならば、きっとこんな程度の威力ではない。
できることなら、それをお見舞いしてやりたかったが……
いたしかたなく、魔法使いスキルをまねさせてもらった。
まあそれゆえ、手加減も自由自在だが。
まねごとのスキルで、命拾いしたな。
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