第4話



「「「じゃーなー!」」」

「ああ。またな」


 あまたの妖精たちの笑顔に見送られ、俺は歩き出した。

 山の外の地形など、もはやまったく覚えていない。川沿いに歩き続けていれば、いずれどこか人里に行き当たるだろう。


「さて……」


 脳裏に、ステータスを表示する。



レジード

適性 :勇者

レベル :2

体力 :9999

魔力 :9999

スキル :村人の地 ランク99

:村人の水 ランク99

:村人の火 ランク99

:村人の風 ランク99

:勇者の光 ランク1

:勇者の闇 ランク1

アビリティ :<複合技能>ランク100

:<次元視>ランク50



 俺もただ、この15年をぼんやりとすごしていたわけじゃない。

 転生した折からカンストしていた魔力に、体力が追いついた……いやこれは正直、昼夜を問わず遊び続ける妖精たちに付き合っていたら、自然とこうなったのだが。


 <次元視>が熟達してきているのも同じだ。

 もうちょっとがんばれば、なんかよくわからんが、神とか見れるようになるのかもな。

 重要なのは、そこではない。

 そもそもこの転生自体、疑問が尽きないのだから。


「スキル 『村人』 水ランク15 生成技能・中水<アクアリーリー>」


 空中に生み出した水を両手ですくい、俺はのどをうるおした。

 たとえば、まさに今使用した、このスキル。

 転生前、村人として生きてきた間、数え切れないほど活用したものだ。


 スキル使用時、口に出す必要もないほど慣れ親しみ、気持ち的な愛着もある。

 使うスキルを言葉にしたほうが精神の流れがよくなり、質の向上が望めるが、さすがに一度転生した俺の習熟度ランクだと、もうほぼほぼ関係ないだろう。


 だから、なのか?

 15歳に成長しても、ステータス表示のスキル欄に示されているのは、いまだ村人の水。

 勇者の水に変化していない……

 特定のジョブにしか扱えない『光』と『闇』は、ちゃんと勇者のものになっているというのに。

 いったい、なぜ……?


「ま……そもそも村人以外になったことすらないまま、修行を繰り返してきたんだ。単に修得できていないだけだろうな」


 そう。俺は転生したあとも、たゆまず修行を積んできた。

 転生前にひたすら積み重ねてきた、村人としての修行ではない……

 あこがれの、勇者たる者が行う修行を、だ!


 適性を得ただけのくせしておこがましい、などとは言ってくれるな。

 村人から勇者への一歩を踏み出せただけでも、俺の15年間はテンション爆上がりっぱなしだったのだ。


 とはいえ、俺の知っている勇者の修行といえば、文字通りはるか記憶のかなた。

 転生前の5、6歳のとき、生家で見聞きしたものだけだ。

 必死に思い出し、繰り返し行ったものの、レベルを2にするだけでせいいっぱいだった。

 そもそも、あの修行すら正しいかどうか……

 いや。

 確かに母上はおっしゃっていた。


「勇者たるもの、なにはなくともまず心。感謝と叫び滝に打たれて第一歩、なのですよ」……と。


 それに実際、近くの滝でずっと感謝感謝言ってたら、レベル2になれたではないか。

 7年ほどかかったが。

 今では滝そのものにすら愛着を感じている。滝はいい。


「結果、なぜか<複合技能>のランクが上限を突破したのは、驚きだったな……。しかし……」


 俺が最も気になっている要素。

 勇者の光と、闇というスキル。

 適性レベルが2になっても、そのふたつのスキルランクは上がらなかった。


 普通は、こんなことはない。

 村人だったころは、適性レベルが1上がることで、対応するスキルレベルも1上がったものだ。

 ということはやはり、別口扱いのスキル……? 勇者に憧れ、めざし続けはしたものの、決して詳しいわけではないからな。ぜんぜんピンとこないぞ。


 まあ、いい。

 これらの真実を確かめ、そして1から学び直すためにも、まずは生家に戻らなければ。


 1昼夜。


 2昼夜。


 3昼夜ほど歩き続けて街道らしき道へたどり着き、そして4日目の昼、俺は人里へと到着した。


 ……修行していたあの山から町まで、こんなに近かったか?

 10日近くかかっていた記憶があるが……転生してボケたかな。

 つい気持ちがたかぶって、夜も寝ないで進んできてしまったからかもしれない。

 何もわからない状態だな。


 とりあえず、知識を刷新しなければ。

 現在位置の確認と、今が果たして何年なのか。


 それと。


 ささやかな、かねてよりの夢を、ひとつ……

 叶えてみるとしようか。



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