アルドシア

遺跡の外に出る


「この近くにはないんだっけ?」

「もう無い筈だ。遠い所にあるダンジョンに向かうぞ」

「了解ー」


死者のカエデは生理現象が起きない、つまり眠くならないし腹も減らない

魔物のベルもまた寝る事も食べる事も必要が無い、削れた魔力回復の期間が必要だが歩いていれば周囲の魔力を吸収して少しずつ回復する

次のダンジョンは遠い場所だが二人の移動速度は早い為数時間で着く


「ここだ」

「これがダンジョン……大きいねぇ。ここの等級は?」


塔の形をしたダンジョン、最上階にボスが居る

入口以外からは入れない仕様になっているが入口以外からも外には出れる


「2級だ」

「あのゴーレムみたいなの居るかな?」

「あのレベルは早々居ないはずだ。あれはボスと言うよりは罠に近い」


鋼鉄のゴーレムに等級を付けるなら1級相当だろう

相性が悪かったとは言えベルが単独での撃破が出来ないほど厄介な相手、骸骨の集団でも倒しきれないほどの強さを持つ


「なるほどぉ」


入口から入って螺旋階段を上る

支えが無いのでバランスを崩したら一番下まで落ちるだろう


「怖ァ」

「壁沿いを歩け落ちるぞ」

「気をつけまーす!」


暫く登って天井が見える

次の部屋でそこには魔物が居た

2級の魔物が二人を見つけて突っ込んでくるがベルは全て一撃で薙ぎ払う

罠を見つけるが構っている暇は無いので全て破壊して進む

何階か登った部屋の中央にガーゴイルを見つけるが速攻超級魔術をぶつけて討伐する


「わぁお、一瞬」

「超級魔術はだいぶ魔力を使うが魔力は移動中に回復するんでな」

「便利だねぇ」

「貴様らが不便過ぎるのだ。魔導具だ……魔力を込めると炎を放出する剣か。外れだな」


剣を異空間に放り投げてどんどん上に進んでいく

階段に出現する魔物を空気を圧縮して放つ一撃で倒していく


「こいつは硬いな」


そんな中一撃では倒せない魔物が現れた

超級魔術を使うほどの相手では無いが若干時間がかかる硬く面倒な魔物


「このダンジョンらしい倒し方するか」


ベルは勢いよくぶん殴る

吹き飛ばし下の階層に落とす、差程登っていなかったので倒し切れないが生き残っていようが無視して上へ進む


「行くぞ」

「わぁお、あの大きな魔物吹き飛ばせるんだ……」

「少し硬いだけの魔物だ」

「少し硬いだけって……2級でしょあれ」

「あぁ2級の魔物だ。名前は……なんだったか覚えていないな」


次の階層、次の階層と進んでいく

このダンジョンは迷う事の無い一本道のダンジョン、順調に進んでいく

本来なら2級程度相手にはならない


「長いね」

「長いな……時間がかかる」

「外から見た時はそんな高くは見えなかったけど」

「ダンジョンの内部は異空間だ。外と中の見た目が違う事は良くある」

「良くあるんだ……」


階段が無い部屋に着く

階段の代わりに扉が一つありベルは扉を開いて扉の先に行く


「強そう」


ひょこっと扉から顔を出して中を見ると三体の魔物が並んでいた


「ボスだ。下がっていろ」

「はい!」


中には入らずに扉の前で待機する

中からは戦闘音が聞こえてくる

爆発、炎上、悲鳴、叫び、揺れる音、雷の音、音だけで中でとんでもない戦いが行われている事が分かる


「見たら死にそう……もう死んでるけど」


戦闘を見たいという思いをグッと押えて待機する


「しぶとい!」


ベルの声がする、三体の魔物に手こずっているようだ

それもその筈、その三体は連携してくるのだ

それぞれ物理攻撃、防御治癒、魔術で役割を担っていて尚且つその役割を入れ替える事も出来る

それも魔物によって攻撃魔術の種類、物理攻撃の種類が違い都度対応を変えないとならない


「凍てつけ、凍える世界にその身を砕かれろ、恐れるな汝の終末を、永遠の破片となり思いと共に散れブリザード」


超級魔術ブリザード、凍える暴風が部屋中を包み込み部屋と魔物を丸ごと凍らせる

氷が砕ける音を立てて凍りついた魔物が砕け散り三個の魔石と素材を一つ落として魔物は消滅する

魔物が消滅すると同時にカエデの居る部屋の中心に魔導具が出現する


「終わったぞ」

「今のも超級魔術?」

「あぁ、ブリザードと言う魔術だ」

「プロミネンス以外にも使えたんだ」

「誰もあれ以外の超級魔術を使えないとは言っていない。この魔術は敵味方巻き込むから使い勝手が悪い」


カエデが巻き込まれないように配慮した結果炎の超級魔術プロミネンスと言う味方を巻き込みづらい魔術を選んでいた

ブリザードは凍える風を巻き起こし周囲を問答無用で凍らせる魔術、範囲が超級の中でも広い

魔石と素材を異空間に放り投げて魔導具を確認する


「使用する魔術の効果を高める杖だ。外れだな」


また目的の魔導具では無かったが普通に強い魔導具である

異空間に放り投げてダンジョンコアを破壊する

コアを失ったダンジョンは大きく揺れて崩れていく

二人は塔を飛び降りて脱出する


「この近くにダンジョンがある、弱いダンジョンだがな」

「等級低くても可能性はあるからねぇ……よし行こう!」


近くの別のダンジョンに向かう

そのダンジョンは迷宮になっていてボスの居る部屋に辿り着いた者が居ないと言われている

等級が低い為出てくる魔物は強くて5級、コアを壊さなければ初心者用ダンジョンとして使える筈だった

前述した理由により下手な等級高いダンジョンよりも難しいと言われている

走って15分程度で着く

入口は土がかまくらのような形で整っていて階段が迷宮に続いている

中に入り進むと人工物で出来た迷宮があった

分かれ道と行き止まりが多く二人は迷う


「何ここ凄い迷う」

「そうだな」


壁に拳を振るう

壁は頑丈だがベルの拳には為す術なく破壊出来てその先に道があった


「適当に殴って壊す」


すぐに壁が修復される

修復される前に通ってひたすら壊して前へ進む

迷宮の意味がなさないような強引なやり方だがこの迷宮だけで言えば正しい攻略方法かもしれない

壁を砕いて進み哀れな魔物は巻き込まれどんどん進んでいく

数十分間その行為を続けていたら怪しげな扉を見つける


「ここがボス部屋?」

「どうだろうな」


扉を開いて中を確認する

中には何も居ない


「あれ?」

「罠も無い……上か!」


上から魔物が襲いかかってくる

ベルは避けるが着地時に起きた突風にカエデは吹き飛ばされる

サソリのような姿をした魔物で二人を見ると爪を挙げて威嚇する

ベルも知らない魔物だが


「この魔物は4級だな。見覚えは無いが弱い」

「強そうだけど4級かぁ」


魔力量で等級を判断する

(いや別に弱くないはずなんだけどなぁ)

記憶内にある等級の話では4級は決して弱くは無い

空気を圧縮した斬撃を放つとその魔物は避ける事が出来ずに真っ二つになる


「終わり」

「魔導具あるかなぁ」


魔道具が出てくる訳でも扉がある訳でも無いので部屋の中を探す

数分探して魔導具らしき物をカエデが見つける


「これ!」

「見つけたか。この魔導具は見覚えがないな」


剣の形をした魔導具


「て事はワンチャンある!?」

「あぁだがどう言う物か分からないからな貸してみろ」


ベルが魔力を流すが何も起きない


「不良品?」

「いや、魔術は発動してる……これは物体操作だな。ここには無い物体」

「ここには無い物?」

「血の可能性があるな」

「それなら私が使ってみる! 血自体は残ってるから」

「魔力を流しすぎるなよ」


魔力を流すと体内の血を操れるようになる

傷を作りそこから血を体外に出して自在に操る


「おぉ凄い!」

「これで後は血と雷系の魔術だな。血か……人間襲うしかないな」

「他の方法考えて!? 流石に人間以外の血はダメだろうし……うーん、何処かに保管されてる血無いかなぁ」

「そんな都合の良い物は無いだろ」

「うーん……あっ、そう言えば1箇所行きたいところあるんだけど」

「行きたいところ?」

「アルドシアって人の研究所」

「何故?」

「あの人魔導具作れるらしいんだよね」

「……先に言え」


魔導具が作れるのなら頼めばいい、それで済むのならわざわざダンジョンや遺跡に行く必要は無かった

今までの労力はなんだったのかと若干キレ気味のベル


「頼んだとしても期間までに作れるか分からないし、余り人の居るところに行きたくは無かったし」


必死に言い訳を話す


「それでなんの魔導具を求めてる? 雷系か?」

「それがあればいいし研究所だから……血無いかな?」

「無いだろ」


研究所と言っても魔術の研究をしている

それに望む物があるとは限らない


「まぁ良い何処にある?」

「リングドリス山脈って場所にあるらしいよ」

「あそこか遠いな」


ダンジョンの外に出てリングドリス山脈に向かう

山脈には魔物が彷徨いているが強くて3級、ベルの敵では無い

地図が無いので適当に進む

襲いかかってくる魔物をひたすら倒し続ける


「ほう、中々興味深い組み合わせじゃな」


一人の老齢の男性が近付いてくる

杖や魔導具を身に付けている


「その魔力久しいな」

「確かに久しい、確か40年振りか。あの場所から動けたのか」

「必要が無かっただけでな」

「そうか……それでお主は……カエデだな」

「あ、あれ? 初対面ですよね?」


カエデ側の記憶では会っていない、その時隠れていたからである


「初対面だとも……学園長のシオン卿から話を聞いていてな。ただ様子がおかしいな」


カエデからは生気を感じない


「話すと長いんですが……聞いているカエデとは別人でこの身体は死んでいます」

「別人……本来の魂と言った所か、身体を操る方法は異系魔術と見て間違いないか?」


アルドシアは事情については盗み聞きをしていた、その情報から推測していた

異系魔術は原理不明、その多くは謎めいている

アルドシアは死んだ体を操る魔術なぞ聞いた事ないが有り得ると考えている


「は、はい合ってます」

「それで何用かな? ここに来たという事は何か儂に用があるのだろう?」

「あっ、はい! えっと……」

「雷系の魔導具と血を寄越せ」

「雷系の魔導具……幾つか有るがどのような物だ?」

「止まってる内臓を動かすようにするような物を」

「ふむ、それであればあるぞ。人間の血か。探して見ねば分からんな……血を操る魔導具は?」

「持っている」


ベルは剣を見せる


「ほう、成程、研究所に来たまえ」


アルドシアに案内されて二人はアルドシアの研究所に着く

中には様々な物が置いてある


「そこで待っていたまえ」


アルドシアは奥の部屋に消えていく

10分近く経った後アルドシアが奥の部屋から出てきて近くにあった机に魔導具と血の入った透明な袋を置く


「こちらが出力を操れる雷系の魔術が刻まれた魔導具、そして人間の血の入ったパックだ」


(血が有った!? 血は正直無いと思ってたけど)

血を触媒とする魔術が存在する、その為研究に必要な人や獣の血を集めていた


「これが貴様が作った魔導具か。これは素晴らしいな」


ベルは魔導具を手に取り見る

現在生きている魔術師の中で唯一使い捨てでは無い魔導具を作れる存在

多くの魔導具を知るベルでも驚く程の完成度


「死者蘇生の儀式、儂も手伝って良いか」


死者蘇生と言う不可能とされていた物

それを実行しようとしている人物に手を貸すのは魔術の研究の進歩に役立つ


「構わない。むしろ貴様程の魔術師の手を借りれるのは大きい」

「是非!」

「それでは準備を始めよう」


研究所の中にある道具を集めて準備を始める

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