学園長
その少女は転生の前、神との対話時に見た異界の魂を持つこの世界最初の転生者の姿だった
2つの理由で混乱している
まずこんな場面でこの人物と会うのは想定していない出来事
そしてあの時見た姿と全く同じ姿をしている事
「私を知っているのですか?」
「……学園長ですよね?」
何とか学園長と言う言葉を出した
転生者と言うには余りにもここには人が多過ぎる
「はい、イルティリア魔術学園の学園長をやっています。シオン・リリーオペリアです」
「えっ学園長!? 若っ」
(彼女はこの魔術学園を創立した人物と聞いてたから相当な年齢なはず……めっちゃ年寄りのお婆さんを想像してたんだけどなぁ)
シオンは魔王の時代に活躍していた人物、最低でも200年以上は生きていることになる
「若く見えるのは私が持つ
「異系魔術?」
「原理不明もしくは特別な理由があって一部の人間しか知らない魔術は纏めて異系魔術と呼ばれています。そしてこの
「凄い魔術ですね」
異系魔術の中で原理不明の魔術は先天的に使える事が多い、稀に後天的に魔術を覚える事がある
「便利な魔術です。私の目的を果たすには必要な魔術でしたし」
「目的?」
「こちらの話ですのでお気になさらずに」
「は、はぁ、分かりました」
(魔王を倒す事かな? 多分封印に関わってるし味方なら協力してくれるはず……)
「今年は特に優秀な人材が多くて助かります。少し急がねばならないので」
「……それは魔王の封印が解けるから?」
ぼそっと2人にしか聞こえない声で呟く
シオンは若干驚いたような表情をする
(成程)
「少し場所を変えましょう」
二人はシオンに連れられて決闘場を出て校舎内に入る
校舎は大きく内部は昔に作られたとは思えないほどに綺麗だった
「絶対迷子になる」
「これは迷いそうだね」
「いずれ慣れますよ」
校舎内には在校生をチラホラ見かける
決戦場の観戦席にも生徒らしき制服を着た人物が何人も座っていた
「入学試験の日でも授業あるんですか?」
「いえ、今この建物に居る子達は自主訓練だと思います。休みの日でも校舎は開いてますから訓練室や図書室と言った場所は利用可能です」
「図書室って事は魔導書が?」
「はい、昔私が集めた魔導書の一部を貸し出しています」
「おぉ魔導書があるんですね!」
カレンは目を輝かせている
「えぇ、チマチマ増やしているので今は結構な数あると思いますよ。着きました」
学園長室と書かれた看板のある部屋に入る
扉から入ってすぐ目に入るのは細長い机とそれを挟むように左右にソファーが置いてある
その先に大きな机と1つの椅子が置いてある
壁には棚があり多くの本が並んでいる
中は綺麗だが豪華ではなく何処か質素な雰囲気がある
校舎内はチラホラ高そうな飾り物が置いてあったがこの部屋にはそれが無い
「凄い、ここにあるの全部魔導書だよ」
「えっこれ全部!?」
棚に隙間なくびっしりと並んでいる本全てが魔導書
その合計の数は数百にも及ぶ
魔導書の多くは魔王の居た時代に作られており一部を記した写本ばかりが出回っている
ここにある魔導書は全てその時代に作られた正真正銘の本物、名のある魔術師や呪術を専門に扱う呪術師などの本が並んでいる
「はい、全て魔導書です。中には危険な魔導書があるので触れるのは厳禁です」
呪いに関する本は触れるだけで呪いにかかると言う事がある、最悪命を落とす危険性もある危険な代物
呪いに対する魔術を持っていればその危険性も下がるが稀に魔術では取り切れない呪いも存在する
「はーい」
「危険な魔導書……何それ怖い」
「カエデさんカレンさん、それでは本題に入りましょう。あぁどうぞ座ってください」
ソファーに座るように促され二人は座る
シオンは反対側のソファーに座る
「私は今では御伽噺となった魔王、彼を倒す為の人材を集めています。まだいつかは定かでは無いですが封印が後20年以内に解けます」
魔王の居た時代は200年以上昔の話、今となっては魔王は殆どの人にとっては御伽噺
小さい頃に読み聞かせられるような話で今や魔王の存在を信じるものは極わずかとなっている
御伽噺となった魔王の封印が解けかけている事にも大半の人間は知らない
「魔王討伐……あれそれってカエデちゃんと目的が同じ?」
「目的が同じ?」
「それについて話します。先ず最初に私は貴女と同じ転生者です」
「転生者ですか?」
そんな言葉は知らないと言わんばかりの表情をされてカエデはすぐに別の言い方を考える
(そうか転生者と言う名前は無いのか……ならえっと……異界の魂か?)
「おっと……えっと……この世界の魂では無いって事です」
「あぁ成程、それなら確かに私と同じですね。貴女はどこまで知っているのですか?」
「知っている事は……貴女は味方となりうる存在で魔王の居た時代から生きている人物、そして18年後に魔王が復活し世界が滅ぶこと、この学園の下に魔王と四人の配下を封印している事辺りですかね」
「それは誰から聞いたのですか?」
「神と名乗る存在です。私はその存在に魔王を倒して世界に生じたズレを修正しろと言われてこの世界に生まれ落ちました」
ここで嘘をつく理由も隠す理由もない為正直に持つ情報を話す
味方だとは聞いていても行動次第で協力して貰えない可能性もあり魔王の情報を多く持つシオンの協力無しでは魔王討伐はほぼ不可能に近い
「成程、魔王が何者かそしてなぜ魔王が生まれたかは知っていますか?」
「知っています。魔王はかつて魔術の王、勇者、英雄などと呼ばれたこの世界において最強と言われる存在」
「大体合っています」
「魔王が生まれた理由については本来は有り得ぬ異界の魂の介入、その結果世界その物に影響を与え、あるはずの無かった未来が生まれその道を辿った為魔王が生まれたと聞いています」
「……やはりそうでしたか」
(あれ?)
聞いてきたのだからてっきりその事を知っているのかと思っていたカエデは想定していない反応をされて驚く
シオンは魔王の日記を見た以来似たような予想はしていたが確実な情報としては得る機会が無かった
異界の魂と言うのを知っているのは今ここにいる3人を除けば魔王と四人の配下くらいな物
「知っての通りその異界の魂は私です。ですが私には前の世界の記憶は無くその真実に気づいたのは魔王を封印した後、魔王の持っていた日記に記されていました」
魔王封印後シオンは魔王の持っていた日記に記されている事を見て自分の中にある魂がこの世界の物ではなく異世界の物であると分かった
ただシオン自体には前の世界の記憶は一切無くあったのは生まれてからずっと感じていた僅かな違和感のみであった
「一つ聞きたいんですが魔王は倒せなかったのですか?」
「……はい、魔王を倒すために多くの人物が戦いましたが皆死亡し連合軍を組んでやっとの思いで封印まで漕ぎ着けました」
「そうでしたか……」
(そんなレベルの相手に勝てるのか……?御者の男性が言うには10個の魔術を同時並列発動するんだよね、流石に無理ゲーが過ぎないか?)
同時発動はカレンやオルガが使っていた同じ魔術を同時に複数展開する技術
並列発動は2つ以上の魔術を同時に発動する技術
魔王は10種類の魔術を同時に放つ事が出来る
歴史上にも一人しか居ない異常なまでの才能
(詠唱に関してはどうしてるんだ? 無詠唱みたいなそういう技術があるのか)
「そんな相手にどうやって勝つんですか?」
「封印を解除、もしくは破った直後なら魔力も回復していないと思います。そこを叩きます。それでも勝てるか分かりませんが一番勝率は高いかと」
「成程それは確かに」
封印をされている間は体力や魔力は回復しない、消耗している相手を複数人で叩けば戦闘を有利に動かせる
かなり卑怯な手ではあるがそのくらいしなければ勝てない相手、それが魔王
「もし二人が魔王討伐に参加したいのであれば強くなってください。まだ時間はありますので」
「絶対強くなる」
「現状で良い人材はいるんですか?」
「学内ではありませんが魔術師アルドシア・ディルブレイズ、騎士団長アルス・ローレイの二人ですね。二人には事情を説明してあります。ただ魔術師アルドレアに関しては老齢でいつ参加出来なくなるか分かりません」
(老齢の魔術師に騎士団長か強そう。いや実際に強いんだろうな魔王討伐に参加出来る人物なら)
騎士団長は騎士団の中で最も強い人間がなることが多くこの国の騎士団長も強さで選ばれている
若き天才、20代で前騎士団長を破りその座に着いた
魔王を知るシオン自身が魔王やその配下と戦えるだけの力があると踏んで自らの足で彼らの元に赴いた程の二人
「……二人ですか」
(配下を含めて相手は五人、最低でも五人は欲しいな。俺たちが戦える実力を持てばなんとか五人……)
「取り敢えずお話は終了です。入学式の日から授業が始まりますので遅れずに」
「はい」
「分かりました。失礼します」
二人は部屋を出てもう試験も終わっている時間なのでそのまま宿の方向へ向かう
「あの二人を参加させる気かい?シオン」
シオンの座るソファーの後ろから突如男性二人が現れる
20代後半の男性と老齢の男性
先程名前の出た騎士団長アルス・ローレイと魔術師アルドシア・ディルブレイズの二人だった
アルドシアの使った支援系魔術によって姿を消して会話を聞いていた
「それ相応の実力があればです」
「ふむ、あの二人であれば後30年も鍛え続ければ我々と並べるかもしれんな」
「魔王の封印が解けるのは18年後らしいですよアルドシア卿」
「そうであったな。なら他の人材を探さねばなるまい。ところで騎士団や魔術師団には良い人材は居らぬのか? アルス騎士団長」
「不服ですが魔術師団団長であれば力になるでしょう」
魔術師団長と騎士団長アルスは仲が悪い
魔術師団と騎士団の仲が悪いのは今の団長だからでは無く昔からではあるが歴代でも最悪なレベルの仲の悪さを誇る
アルスは不満あれど実力に関しては認めている、人が集まらなかった場合必要とあれば魔術師団長の力を借りることも考えている
「カレンさんは魔術を3つ同時に発動できます。現状で中級魔術を扱えてます」
「それは優秀な魔術師だ、間違いなく魔術師団が欲しがるな」
「若く未来ある才能は良いが才能あるだけでは世界の命運は預けられぬ」
アルドシアは淡々と語る
三人が必要としている人材は才能がある者では無く共に世界の命運を懸けた戦いに挑める人物
「全くアルドシア卿の言う通りその才能を使いこなせねば意味がありません。他国には良い人材は居ないのですか?」
「強い人はいますが協力は無理かと思います」
「多くの資源と領地を持つこの国が滅べば他国は喜んで侵略をするだろう」
大陸一の大国であり資源も豊富な軍事国家
周りの国とは仲良くは無く戦力差がある為現状は戦争が起きていないだけで一触即発状態
「この国が滅ぶレベルの災害が起きたら他の国では一溜りもないと思いますがね」
魔王が復活し止められなければ世界が滅ぶがそもそも魔王は大半の人にとっては御伽噺、事情を話したとしても信じる者は少ない
「その通りだが人の心とはそういう物だ。それよりも儂が気になるのは異界の魂とやらについて知りたいのだがなシオン殿」
「先程カエデさんが説明した通りとしか私には言えません」
「ふむ、異界から魂を引き寄せる事で本来存在しない者が現れその結果未来が切り替わったと……あの若者の話からするに神と名乗る者と同等の魔術いや魔法とでも呼ぶべきか。その行為を行った存在が魔王を生み出したとも取れるな」
「つまり魔王以外にもそいつを殺さないといけないって事ですかね。魔王だけでも厳しいと言うのに裏に黒幕が居るとは厄介な……」
「カエデさんの話では魔王を倒せば未来は修正されるとの事なのでその存在については触れなくていいのかもしれません。最も妨害の可能性は考えるべきでしょうが」
「妨害であれば魔王崇拝者共が居る。その存在は彼奴らの親玉かもしれんな。……情報が無い以上ここで話しても埒が明かないな。儂は魔術の研究を進めるとしよう。新しい情報を得たら呼びたまえ」
アルドシアは魔術を使い一瞬のうちに自分の研究所に移動する
「それじゃ俺は騎士団に戻るとするか仕事が残ってるしな」
「お疲れ様でした」
アルスは扉から部屋を出て騎士団の基地へ戻る
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