カエデVSオルガ・リートン

「炎よ敵を焼き打てファイア!」


オルガが下級魔術を詠唱する

魔法陣が2つ出現する、今年の試験で初めての同時発動の使い手

魔法陣から炎が放たれる

(同時発動……)


「纏」


魔導具に魔力を込めて斧を取り出して全身に魔力を纏う、飛んでくる2つの炎を一振りで真っ二つにする


「なっ!? 魔術を切っただと!」

「この程度で驚いて貰っては困るな!」


地を蹴り走って接近する

魔力を纏ってるとは言え斧の重さもあって走る速度は早くない

再び炎の魔術が放たれるが次は二振りで切り裂く


「甘いな」

「ちっ! 風よ敵を吹きとばせウィンド」

「げっ……」


風の魔術、魔法陣から強風が吹き荒れる

斧を振るうが炎の魔術と違い発動時間が長く切り裂いても突破出来ずに風の勢いで押され距離を離される


「ぬぉぉ……」


(近づけない……だけど、ウィンドを使っている間は攻撃魔術は使えない。魔力切れを狙うか?)

ウィンドは風を前方に起こす魔術、瓦礫などを巻き込めば攻撃として使えるが単体だと相手を後退させるか足止めが精々

接近しても風の魔術を使われればまた戻される

それでは埒が明かない


「ほう、風の魔術を同時発動か、厄介だな。1つ何とかなるかもしれんが」

「あれでは接近が難しいですね。あの魔術は効果が長い分切り裂いて突破は困難ですし」

「魔力切れまで待つのも手だがそう簡単には行かないだろうな」

「多分カエデちゃんはそんな面倒な事はしませんよ」

「打開策があるのか」

「……思いつくと思います。そもそも対魔術師戦は私とやって慣れてますし」

「お前は同時発動が出来るのか?」

「実は3つまでなら可能です」

「ほう、3つか。それは未来有望だな。先程余裕と言っていた意味が分かったよ」


カレンは平然と会話に嘘を混ぜる、4つまで使えるのを知っているのはカエデのみそしてそのカエデもカレンの許可無く勝手に他人の秘密を口外はしない人物、嘘をついても気付かれない


カエデは接近せずに距離を取りながらどうするか策を考える

(魔術発動時に接近……いやそれじゃ届かない)


「どうした? 来ないのか。威勢のいい事を言っておいてどうした!? 戦士は近づけなきゃ何も出来ねぇもんなぁ!」


声を上げて煽ってくる


「炎よ敵を焼き打てファイア」


攻撃を一方的に仕掛けてくる

基本は斧で捌き時には回避する、接近しても風の魔術で押し戻される


「何か良い手は無いか……これは」


ふと避けた時にファイアが当たった床に視線が行く

床に傷がついている

(これならワンチャンあるかな。良い事考えた!)

斧を大きく振り上げる


「はぁ?」


深呼吸をして整える

傷が付くという事はこの床には観戦席を守るように張られた結界の効果は影響していない


「セィアァ!!」


勢いよく振り下ろす

相当の威力の一撃が床を砕き床の破片が飛び散る

オルガは行動の意味が分からず困惑している


「お前何を……」


(この破片なら丁度良い)

床の破片を掴み魔力を込めて投げる

カエデの行動に困惑していたオルガは魔術の発動も回避も出来ず顔面に食らう

戦いにおいて使える物はなんでも使えと言うライアンからの教えを実行する

(床の破片を使う事は別にルール違反じゃない)


「ガッァ……」

「よし命中!」


試験用の防護魔術は特殊で障壁越しだと魔術や攻撃による負傷は無いが受けた衝撃はそのまま受ける事になる

そしてかなり障壁は硬く出来ている、この程度ではビクともしない

ダメージを受け状況が掴めずに居るオルガに斧を仕舞って接近する

何とか体制を立て直したオルガの目の前には拳を握りしめたカエデが居た


「歯ぁ食いしばれ!!」


助走を付けた大振りの全力の一撃を顔面に叩き込む

衝撃が強く歯が折れ鼻血が出る

間髪入れずに腹に一撃を叩き込む

オルガは思わず腹を抑えて倒れ込む

すぐに斧を取り出して倒れ込むオルガに向ける


「降参を……あっ降参は無理だったか」

「てめぇ! 炎よ敵を焼き打てファイア!」


倒れている状態で魔術を発動する

油断していたカエデは反応が遅れる

(あっこれは不味い)

魔法陣が近過ぎる、回避も防御も不可能な距離

炎の魔術が二つとも直撃する


「はっどうだ!」


直撃した炎が消えて姿を現したのは無傷のカエデ


「……危ないなぁ」


障壁は削れたが咄嗟に纏う魔力を一気に増やして衝撃を緩和していた

ほぼノーダメージ

(数秒とは言え魔力が溢れたなぁ)


「直撃だぞ!?」


ちゃっかり立ち上がり下がっていたオルガは驚きで目を見張る


「障壁もあるしこんな物だと思うがな。それに驚いてる暇がお前にあるのか?」

「炎よ!」

「遅い!」


すぐに接近して斧を振るい胴体をぶっ叩く

数メートル吹き飛ばされたオルガは衝撃で内蔵や骨がやられ血を吐く

オルガを守る障壁にヒビが入る

魔術師は殆どが魔力を纏う技術を持たない、防護魔術を使えればいいがそれ以外の者は攻撃を生身で受けることになる


「あと一撃か。死なない程度には加減する」


ゆっくりと歩いて近づく


「炎よ敵を焼き払え! ファイアブレス」


魔法陣から炎が放たれる

先程のファイアよりも範囲が広く威力が高い魔術、下級魔術の中でも習得難易度が高い

後ろに飛び退き範囲外まで逃げる

血を吐きながらも魔術を放つ

激痛が走ってる筈なのに意地で戦っている


「なんの意地か知らないけど勝ち目は無いぞ」


再び同じ魔術を放ってくるが来ることが分かっていればなんの問題も無い

炎の範囲外に行き魔術が切れると同時に接近する

(物は試しやってみるか)

再び詠唱するオルガ目掛けて斧を振りかぶり勢いよくぶん投げる


「炎よ敵を焼……うおっ」


斧は命中しなかったが詠唱が途中で途切れる

そして魔導具に魔力を込める

するとオルガの近くの床に刺さっていた斧が消える

そしてカエデの手元に戻ってくる


「これで終わりだ」


加減した一撃を叩き込むとガラスが砕けたような音がして障壁が粉々になる


『勝者カエデさん、医療班はオルガさんを医療室へ運んでください』


倒れたオルガは運ばれていく


「怪我はしてませんか?」

「大丈夫です」

「でしたら観戦席に戻ってもらって大丈夫です」

「わかりました」


カエデは座っていた席の方へ向かう


「魔導具の効果か。距離があっても仕舞えるのなら効果範囲を所有者の武器に限定した魔導具か」


魔導具は条件が厳しい程強い効果を持つことが多い

収納魔導具は基本所有者が触れている事が条件となるが二人が貰った魔導具はその条件が無い


「はい、効果は丁度そんな感じです。王都に来た際に御者の男性から貰いました」

「相当高額な魔導具だ。そうポンポン渡せるものでも無い筈なんだが……まぁ良いくれぐれも無くすなよ」

「はい、こんな魔導具一生に一度でも手に入るか分からないですから!」

「何の話してるんです?」


戻ってきたカエデが話しかける


「魔導具の話、離れていても使えるなんてよく気づいたねカエデちゃん」

「気づいたって言うよりは行けるんじゃないかなぁと思って試しただけ」

「合格おめでとう」

「ありがとうございます……って勝ったら必ず合格なんです?」

「あぁ勝てば必ず合格、敗北しても見込みありなら合格させている。まぁ最も対戦相手が弱くて合格したとしても見込みがなければすぐに退学になるがな」

「成程」

「勝てばいいんですね。早く出番来ないかなぁ」

『次ウェイン・ロードリスさんとカレンさん、待機室へ』

「おっ来たね」

「出番ですね」

「健闘を祈る」

「カレンぶちのめしてやれ」

「任せて」


カレンは待機室へ移動する


「先程カレンは同時発動を3つ出来ると言ってたがあれは真実か?」

「真実ですよ。カレンは模擬戦で遠慮なく魔術撃ってきます」

「普段からそれを捌いているから2つ程度なら余裕で捌けるのか」

「まぁそうですね。風の魔術には手こずりましたが」

「高い技術を持つ戦士に3つ同時発動を扱える魔術師のコンビか。今年は豊作だな」

「そうなんです?」

「あぁお前達以外にも何人か良い人材がいる。今年は例年よりレベルが高い」


今やっている戦いが終わり次カレンの戦いが始まる


『待機室に居る二人は移動を開始してください』


カレンとウェイン・ロードリスが対峙する

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