後悔
カエデが目覚めた時には騒動は一通り収まっていた
森に設置された柵はかなり頑丈になっていて今度は間違いがないように子供が出られないような作りになっている
柵の一部から出入りが出来るようにしてあるが開いてる時は自衛団の中でも実力のある者が門番をしている
開き方も一部の人間しか知らない
ダンジョン捜索にライアンが向かったが付近にダンジョンらしき物とウルフナイトクラスの魔物は居なかったと言う
強い魔物が出た為自衛団を強化するためにライアンとスーザンが訓練を担当している
「嫌になるなぁ」
カエデは目覚めた後ただひたすらに後悔していた、自分が止めていれば自分が強ければと責め続ける
治癒魔術をかけ始めた時点で生きていてそこからずっと治癒魔術をかけ続けていた様子かは生きてはいるだろうが子供が遭遇するには余りにも恐ろし過ぎた出来事だ
四人特にカレンとラリーは相当精神的にもキツイだろう
合計した年齢で考えれば自分より年下とも思えるライアンは自分なんかより立派だと
「一応大人なんだけどなぁ……」
(俺は戦いがどういう物か知らなかった。甘く見ていたあの恐怖を……)
圧倒的格上と対峙する恐怖、死が迫る恐怖、友を失う恐怖、それらは少なくともあちらでは感じた事のない恐怖だった
死が近くにあるは言葉としては理解していたつもりだった
前世で軍人でも傭兵でも無い戦場になど立った事の無い人間
見たことがあるとしてもそれは画面の先、世界のどこかで本当に起きていてもそれは自分にとっては遠い他人事に過ぎなかった
「は、ははは、まだ怖いや……もう終わった事なのに」
手が身体が恐怖を思い出して震える
今すぐにでも逃げ出したい、戦いとは無縁の所で死ぬまで生きたい
「神様絶対人選ミスったよ。今からでも別の人転生させた方が……」
眠りにつく前にライアンの言った選択肢に迷い無く強くなりたいと言った
それを僅かに後悔し始めていた
自分程度が魔王に勝てるのかと前からあった不安が更に膨れ上がる
再び剣を振るえるのか、魔物と戦えるのか
恐怖と不安が入り混じる
「カエデちゃん!」
家の扉が開き声がする
そのまま足音は近づいてくる
(カレンが来たのか)
音のする方を向くとカレンが飛び込んできていた
「えっ……」
そのままの勢いで壁に頭をぶつけカレンの身体と木材で出来た壁に挟まれる
「ギャフッ!」
情けない声を上げる
(そんな痛くないけど痛い……)
「あっ……ごめんカエデちゃん」
「だ、大丈夫……ってこの傷」
カレンの顔を見ると傷跡が残っている
引っ掻かれた時の傷だろう
「傷が深かったみたいで残っちゃった」
カレンは笑う
どう見ても無理をして作り笑いをしている
年端も行かない少女が顔や身体に一生残る傷を負った、本当なら作り笑いだって出来ないだろう
それでも無理に笑う
「……ごめん」
「カエデちゃんのせいじゃないむしろ生きていられるのはカエデちゃんのお陰なんだから」
「違う! ライア……お父さんが来たから……俺は何も出来なかった。ろくに時間も稼げなかった」
カエデは涙を流す
カエデが時間を稼げればラリーとカレンがやられる事は無くカレンが一生治らない傷を負うことも無かっただろう
感情のまま溢れ出す本心を話す
「しっかり止めていれば強ければ! こんな事にはならなかった! 俺が……無力なばっかりにカレンもラリーも守れなかった」
無力感と後悔、大人としてのプライドが自らの首を絞めている
大人であった記憶があるが故に子供には戻れない
本来なら自分で考え責任を持って行動を取れていたが今は精神が子供の体に引っ張られている
最もその事にはカエデは気付いていない
「……ねぇカエデちゃん、君は何者なの?」
「えっ?」
「カエデちゃんはおかしいんだよ。普段遊ぶ時も取り合いになりそうならすぐに身を引くし全員がどこで遊んでるのか分かるように何度か全員の位置を確認したり今回だって誰よりも早く前に出るし怖いはずなのに魔物に立ち向かう。自衛団のみんなみたいに」
カレンはいつも疑問に思っていた
行動が大人びている、子供らしい行動を一切取らない
自衛団の人たちと混ざって会話をしている時もある
そしてこの責任感、同じ子供として見ると余りにも異常
「私は……」
「多分それも本当じゃない」
「……俺は……」
覚悟を決める
決して誰にもバレるなとも言われていないが今まで隠し続けていた真実を語る
「違う世界で一度死んでこの世界で新しく生まれ変わった存在」
「……一度死んで生まれ変わった? 違う世界?」
想像以上にトンデモ発言をしたカエデの言葉に困惑する
大人でも理解出来るか分からないような話、そもそも本当かすら相手からすれば分からないのだから
カレンは子供だからかまぁそう言う事もあるのかなぁとほぼ無理やり理解しようとする、普段からカエデは嘘をつくような人間では無くこの状況で嘘をつくとは思えないと思っているからである
「あぁそして俺は大人だった。どう言えば良いんだろうな要は大人の魂が子供の中に入ってる状態と言えば分かりやすいか?」
「う……ん精神干渉魔術の類と考えれば……多分?」
家にある魔術について書かれた本をよく読んでいたカレンは魔術と結びつけて無理やり理解していた
「まぁそんなところだな……そして俺は男だ。まぁこの身体は女だが前の世界ではな」
「な、なるほどぉ?」
「そして魔王を倒すように神に言われた」
「神様に?」
「あぁ、最も魔王を倒すかはまだ決めかねてるが……」
「壮大な話……」
「自分で言ってても訳わかんねぇと思うわ」
苦笑いをする
「まぁそういう感じで……今回の件は俺のせいなんだしっかり止めていればこんな事にはならなかった。俺は大人なのにお前達を止めれなかった所か煽りに乗ってその結果がこのザマだ」
「この!」
頭突きをされる
額に痛みが走る、一瞬何をされたか分からなかった
数秒混乱した後視覚から得られる情報も加味して脳が理解する頭突きをされたのだと
そして凄い痛い
カレンは石頭だった
「い、痛い……」
「カエデちゃんのせいじゃない! 君が大人でも子供でも私達を必死に守ろうとした。君は頑張った、弱い?そりゃそうでしょ!」
手を掴み顔の前まで持っていく
「前の世界で大人だったとしても今は私と同じくらいのこんな小さい手なの、子供の身体なんだよ! あんな巨大な相手に勝てないんだよ。生きているのは君のおかげそれは事実だよ」
「…………」
「これからカエデちゃんはどうするつもり? 戦わない選択もあるし戦う選択もある」
「今は悩んでる」
「……私は強くなる! 元々冒険者になるつもりだったしあの魔物に勝てるくらい強くなる」
「冒険者は魔物と戦うんだぞ? あの魔物以外にも色んな魔物と戦うことになる」
「勝てるくらい強くなれば怖くは無くなる。そうは思わない?」
「確かに勝てるほどの力があればなるかもだけど……」
「そして私は魔力が人より多いらしいから魔術師になる!」
カレンの魔力量は現在でも魔術師の平均を優に超えている
スーザン曰く魔術のセンスも高いらしくその気になれば下級魔術であれば複数習得可能で11歳くらいで中級魔術を一つ覚えることが出来るだろうとの事
中級魔術は下級魔術とは習得の難易度がかなり違い魔術学園の入学試験の時点で中級魔術を使えるのは極々一部
下級魔術の中でも習得が難しい魔術は幾つかあるがそれらとも別格
カエデは戦士の訓練と平行しているとは言え下級魔術一つのみしか覚えられておらずスーザンが言うには魔術の方のセンスは時間をかければ魔術師としてやっては行けるくらいの物らしい
あの恐怖を体験していながら恐れながらも立ち上がり強さを求める
無謀とも勇敢とも取れる
「それなら冒険者よりイルティリア魔術学園に行った方がいいかも」
「魔術学園?」
「13歳から入れる実力主義の学園、入学試験もあるけどそこに入れば強くなれると思う」
「カエデちゃんも行くの?」
「……行く」
目の前の幼い少女が立ち上がっているのに恐れて立ち止まっている
(情けない)
あの恐怖はもう過去の話、立ち上がらなければ未来は得られない
「絶対あの魔物ぶっ潰す。決めた俺は戦士になる。魔導武装、極地この目で確かに見たぞ」
ベットから降りる
直ぐに支度をして外に出る
外に出るとちょうど目の前を自衛団が走っているのを見かける
「おっカエデ起きたのか」
1人が気づき駆け寄る
ゾロゾロと集まってくる
「あっ、うん大丈夫」
「傷は治ってもまだ無理はするなよ」
「分かってる」
「止まってると怒られるよ〜」
「それは勘弁だ、よしお前ら行くぞー」
「もう疲れた……あとは任せたぜ」
「ここで倒れたら死ぬぞ! なんなら殺されるぞ」
皆疲れてはいるが騒げる程度には元気があるようだ
「元気そうだな。ならあと一周プラスだ」
「ヒィィ!」
声の主から逃げるように皆走る
「カエデ、痛みは無いか?」
「無い! 直ぐに訓練出来る」
「まだ身体訓練辞めた方がいいだろうからスーザンの……」
「戦士の訓練!」
ライアンの言葉を遮る
必死に訴えるカエデに若干ライアンは戸惑う
今までとは全く違う
「無理は禁物だ」
「悠長にしてる時間は無い」
「時間は無い? どういう意味だ?」
ライアンはカエデの言う言葉の意味が理解出来ていない
今までカエデは周りに魔術学園に通うつもりという話は一切していない
「イルティリア魔術学園の入学試験を受けるからあと5年以内に合格出来る程度は最低限」
「イルティリア魔術学園か、あそこに行くつもりか。てかどこで知ったんだその名前」
ビクッと身を震わせる
唐突に神に聞いたなど訳の分からない事を言う訳にも行かない
事情を伝えるのも良いが時間がかかる字相手が理解して納得するとも限らない
「……本で見た!」
「あぁスーザンの魔導書辺りに混じってたのか。あそこは実力主義、実力を見せ続けなければ即退学も有り得る。そして退学者はある評価を受けることになる」
「評価?」
「実力が無いという評価だ。一生物でそのせいで冒険者になったとしてもパーティを組めず引退する者も中には居る」
「問題無い」
どちらにしろ実力を示さなければ学園へ行く本来の目的も果たせない
「分かった。それなら訓練をしよう。まぁ余り無理をさせる訳には行かないから……木刀を持ってそこで素振り出来る限り」
言われた通りの訓練をする
カレンはスーザンの元に行き魔術の訓練を始める
目に見える目標が出来た事で訓練に力が入る
(強くなる)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます