多角関係の彼らは月を見る

本条真司

第1話

冬風夜斗ふゆかぜよると、17歳

職業は高校生。と同時に、バイトをしている

重い足取りで自宅に戻り、意識を切り替えた

から、へと



「ただいま」


「おかえりなさい、お兄様」


紗奈さな…また待ってたのか。せめてこんな寒い日の廊下じゃなくて、暖房の効いたリビングにいろとあれほど…」



彼女は夜斗の妹、冬風紗奈。歳は夜斗と同じく17

双子ではない。が、医学的には双子だ

夜斗が生まれたのは1月27日。紗奈が生まれたのは2月1日

本来であれば、二卵性双生児として1月29日に生まれる予定だった



「それを聞いて待っているほど素直な子じゃないつもりですよ、お兄様」


「そうか…。朱歌しゅかは?」


「むぅ…。朱歌なら自室ですよ。仕事から戻るなりリモート会議してます」


「会社員かあいつは」



朱歌というのはもう一人の妹だ

歳は15歳。夜斗と紗奈の2個下であり、夜斗の親友・緋月あかつき霊斗れいとの妹の同学年である



「あの子は頑張ってますよ。叩き込まれたアイドル業界で、ひたすらに笑顔で歌うなんて…とても私にはできません」


「俺もやれと言われたらやるが嫌ではあるな。とりあえずあいつの会議が終わったら飯だな」


「今日は初のビーフストロガノフですよ」


「頑張る方向が違くねぇか?」



そう言いながら夜斗は階段を上り、朱歌の部屋の前で立ち止まる

ドアを開けて少し覗くと、かなり真面目な顔つきで机に向かう朱歌がいた

何故顔つきがわかるのかというと、ちょうど朱歌の顔が見える位置に鏡があるからである



「朱歌、ただいま(小声)」


「…………。おかえり、お兄ちゃん。首尾はどう?」


「上々。先輩に褒められるくらいには」


「そう。上出来ね、さすが私の兄だわ」



それだけ言って朱歌はまた机に向かう

返事のラグはおそらく、パソコンのマイクをミュートにしたからだろう

夜斗は朱歌の部屋と紗奈の部屋の間にある自室のドアを開けた

そこには流石に誰もいない。ただ机とベッド、服をかけるためのポールがあるだけだ



「ようやく一息つけるな」



夜斗は机に向かい、目を閉じた

しばらくすると、夜斗はペンを手に取りノートに字を書き始める

しかし目は閉じたまま。夜斗は昔から、自動書記をする癖があった

今の夜斗は、限りなく意識が薄くなっている。それは寝ているときにも近い

その薄れた意識の中で、夜斗は1日の記憶を遡って一連の流れを書き留めるのだ



「…完了。こうしてみると、よういじめられてるな俺は」



トイレの個室に入ってるときに水をかけられるのはまだいい、と夜斗は思っている

しかし、上履きに画鋲を仕込むことから始まり、校舎裏で殴られることもある

金をカツアゲされたこともある

しかし夜斗は、細々とやり返しているのだ



(とりあえず第一段階は完了。不良のリーダーは国会議員の息子だから、マスコミに情報提供すればあいつだけは終わる。…さて、第2段階を始めよう)


夜斗は第2段階として何をするかを考え始めた






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