第12話 アルバート君を追跡



 俺はアルバート君の後ろを透明化した状態で、しばらく後をつけている。



 アルバート君は麗しの庭園の誓い邸を出た後、大きな道から路地裏に入り、くねくねと入り組んだ道を歩み続けていた。



 暗い路地裏を進めば進むほどに道端には廃屋や浮浪者が増え始め、さらにはガラの悪い連中も現れ始める。



 でも、アルバート君は気弱な見た目とは裏腹に、ガラの悪い連中にビビりもせずに一目散に目的地に向かい歩みを進めていく。どうやらアルバート君の職場は、とんでもないところにあるらしい。通勤環境は最悪のようだ。だから、職場を変えるために彼は街を引っ越すのかな?



 そして、アルバート君は路地裏の奥にある一軒家にたどり着くと、周りをキョロキョロと警戒しながら中に入っていく。ここが彼の職場のようだ。



(へー。ここが、アルバート君が錬金術師見習いをしているという職場なのか。立地条件が秘密基地みたいな職場だな)



 俺はそんな事を考えながらも彼の真後ろにピタリとついて、一緒にドアの中に入ることにするのであった。



 アルバート君の真後ろについて家の中に入ると、室内にはなんだかガラの悪い連中ばかりがたむろをしている。彼らがアルバート君の同僚なのだろうか?すっごく険悪な雰囲気の職場だぞ、これは。



 どうやら透明化している俺の存在には、しっかりと誰も気づいていないようだ。探知系のスキルに見つかったらどうしようと実は不安であったが、誰も俺に見向きもしない。やはり、邪神さんに貰った創造魔法のスキルは素晴らしいな。



 俺の存在になど気づかないまま、室内では会話が開始される。さて、これから何が起きるのだろうか。俺は静かにその様子を観察することにする。



 家の中では媚びるような笑顔に変わったアルバート君が、路地裏の家でくつろいでいたガラの悪い連中と取り繕うように会話をしていた。



「ちゃんとプロポーズしてきたか?」



「はい!」



 ――ペコペコ



 強面の一人に質問をされて、アルバート君が低姿勢で頭を下げながら肯定の言葉を返答している。もしかしたら、彼がアルバート君の上司なのかもしれない。そして気弱なアルバートくんの尻を蹴飛ばして、彼女であるマーリンさんにプロポーズをさせたと。――これは、いい職場じゃないか!



「これで、僕の借金はチャラにしてくれるんですよね?」



「ああ。あいつを奴隷として売れば、なかったことにしてやるよ」



 前言撤回。やっぱり最低な職場だった。というか多分、職場ですらないだろう。俺はふざけるのを止めて、現実を直視する。室内ではアルバートくんとガラの悪い男たちが、不穏な会話を始めていたからだ。



「当日は薬を飲ませて眠らせてから、奴隷にしてしまえばいい。Aランク冒険者と言っても、眠っている内に奴隷紋を刻んじまえばこっちのもんだ」



「はい!一人前になった証に僕が作ったポーションを試してほしいといえば、マーリンは僕を信用して簡単に睡眠薬を飲んでくれます!」



 会話の流れから脅されたというわけでもなく、アルバート君は率先して強面の荒くれ者たちに協力をしていることが分かる。これは見過ごせないな。



「街を出るって嘘をつけば、冒険者仲間もしばらくはマーリンが奴隷にされたことに気づかない。その間に、どこかに売り飛ばしちまえばいいからな!」



「はい!僕の言葉を三人とも信じていたんで、大丈夫だと思います!」



 どうやらマーリンさんは、最低なダメ男に騙されてしまっているようだ。これは何とかして、彼女のことを助けてあげなくては。俺は彼らの計画に聞き耳を立てることで、マーリンさんの奴隷化計画を潰す方法がないかを考える。



「どうする?借金もチャラになったことだし、もう一回お金を借りていくか?今日もギャンブルするんだろう?」



「いいんですか?……是非!……やった!これで、今までの負けを取り返せるぞ!マーリンも婚約者の僕を守るために、その身を犠牲にできるんだ。きっと喜んで、納得をしてくれるさ!」



 なんとアルバート君は、マーリンさんをギャンブルで作った借金のカタとして売り飛ばすつもりらしい。最悪な理由だった。でもこれで、彼らの計画の全容とその理由が分かった。俺は急いで麗しの庭園の誓い邸へと戻り、俺が見たことを彼女たちに報告することにする。



「あれ?家にいるのはマーリンさんだけですか?」



「二人はアマネを探しに出かけた。入れ違いになると面倒だから、今日はもう、どこにも出かけないで」



 俺が家にたどり着くと、アマンダさんもミュゼルさんも俺を探しに出掛けてしまっていて、家にはマーリンさん一人だけしかいなかった。というかアマンダさん、俺を探しに出かけるって、どれだけ俺にハマっているんだ?



 まあいい。今はアマンダさんのことは置いておいて、マーリンさんの危機を彼女に知らせることにする。俺は透明化スキルを使って見たことを、そのままマーリンさんに説明することにした。



「彼がそんな事するわけない!ふざけないで!」



 しかし俺の説明を聞いて、マーリンさんが大激怒をしている。やはりこうなったか。まあ、今日初めて会ったばかりの人間が話す婚約者の悪い噂なんて、普通聞かないよな。



 それにさっき、マーリンさんはアルバート君にプロポーズをされたばかりだ。きっとまだ、彼女は幸せでふわふわとした気持ちでいたことだろう。そんなマーリンさんの幸せなはずだった一日を、俺が台無しにしたことになる。これは、どうしよう。



「やっぱりアマネは最低。アマンダにも、気をつけるようにこのことを伝える。私の幸せな一日を台無しにした。絶対に許せない」



 そしてマーリンさんが、俺に対して完全に心を閉ざしてしまう。これではマーリンさんを説得して、彼女を助けることが出来ない。



(……この方法しかないのかぁ)



 これは、完全に行き詰まってしまったようだ。でも俺はなんとかして、彼女を助けたい。もう、今の俺に取れる手段は一つしか無かった。寝取りスキルを使い、マーリンさんの心を俺に開かせる方法だ。



 寝取りスキルの効果の一つに、相手の体や心に快感を与えることで、俺への好感度や信頼を高めるという効果がある。俺はそれを利用することで、マーリンさんに俺の言葉を信じてもらうことにしたのだ。



「マーリンさん!ごめんなさい!」



 俺はマーリンさんにハグをすると寝取りスキルを使い、彼女の体に魔力リンクを試みる。快楽によって彼女の心を俺になびかせることが、今の俺に出来るマーリンさんを救う唯一の方法なのだ。



 せっかく知り合ったばかりなのに、マーリンさんが最低な男に騙されて、奴隷にされるなんてしのびない。



「やっぱりアマンダが連れてくる男はダメ男。アマンダだけではなく、私にも手を出す。でも、アルバートだけが例外。彼だけは信じられる」



 マーリンさんは、アルバート君を心から信じているようだ。でもこれから俺は、婚約まで受け入れたマーリンさんを寝取る。こめんな、アルバート君。



「魔法使いの私の、魔力秘孔に無断で侵入できると思わないで。アマンダはやさしかったみたいだけど、私はやさしくない。丁度いい。アマネの体に私の魔力を侵入させて、あなたの魔力をかき乱してあげる。魔力リンクには、こういう悪い使い方もあるって身を持って知るいい機会」



 運がいいことに、マーリンさんが俺を突き飛ばすことはなく、魔力リンクでの支配権の奪い合いの勝負を挑んで来てくれたようだ。これはチャンスである。



 魔力リンクには悪い使い方もあって、相手の魔力を内部から無理やりかき乱すことで、かなり体調を悪くすることが出来るらしい。俺は昨夜、ベッドの中でアマンダさんから、そういう技術もあるから気をつけるようにと教えてもらっていた。



 無断で他人に魔力リンクを仕掛けてくる痴漢に対して、カウンターとして女の子はその技術を習得していることも多いそうだ。



 そして相手の体内にある魔力をかき乱す技術は、魔力の操作に長けた者ほど強くなる。Aランク冒険者であるマーリンさんとの魔力の支配権の奪い合いでは、通常なら俺に勝ち目など無い。



 しかし、俺には寝取りスキルがある。俺は寝取りスキルを使いマーリンさんの弱点を探りながら、俺の魔力を彼女の魔力の表層にある魔力孔へと侵入させていく。そしてあっという間に、俺の魔力がマーリンさんの魔力の深部にある魔力秘孔へとたどり着いた。



「……っ♡……っ♡……んっ♡」



 必死に俺の肩に両手でしがみつきながら、マーリンさんは声を抑えようと我慢をしているが、彼女の喉からは、こらえきれなくなった甘い吐息が続々と漏れ出してきている。順調に、俺は彼女の体に快感を与えられているようだった。



 俺はマーリンさんの心と体に、より強くて心地いい快感を与えるために寝取りスキルを使いながら、彼女の魔力秘孔をとろとろにやわらかく堕落するまでほぐしていくことにする。



 ……



 ……



 ……



「――はぁぁぁぁぁぁぁぁぁん♡――っ♡――っ♡」



 ヒク♡ヒク♡ヒク♡



 そしてこの日から、俺がアルバート君からマーリンさんを寝取るための、秘密の日々が始まるのであった。



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