第16話 馬車製作
「ふー。ここら辺でいいかな?」
俺は今、街の外にある開けた場所まで一人で来ていた。とあるものを製作するためだ。
シュネーゼルの街にこのまま滞在をするのもいいが、俺はもう少ししたら旅に出て、この世界を観光してみようと考えている。
あと、俺はこの世界に転移をさせられたときに邪神さんから説明をされた、ダンジョンマスターにもなりたい。俺の種族は、この世界では人間ではなく魔王だ。せっかくだし魔王としてダンジョンを作り、ダンジョン経営をしていきたいからな。
異世界に転移をして、ダンジョンを運営するというのは俺のあこがれでもあったのだ。
だから俺は異世界観光旅行と、ダンジョン設置場所探しの旅をするための馬車を作ろうと思い、街の外にある開けた場所にやってきた。やはり旅には、快適さが大切だ。
この世界ではまだ、移動手段には馬車が使われている。色々と現代の技術を超える便利な魔法物質もあるが、基本的な文化は俺が元いた世界の近代の水準くらいだ。
ただ最近、金持ちの間ではゴーレム馬車なるものが流行を始めていて、餌が必要なく魔力で動く従順なゴーレム馬に馬車を引かせるのが世の中のステータスになっているそうだ。
だから、俺は自分の手でそのゴーレム馬車を作ることにした。餌も馬の世話も必要ないという理由がやはり大きい。そもそも俺には、馬の世話の仕方なんてわからないからな。そんな俺が生身の馬が引く馬車で、世界を旅行することは出来ないだろう。
つまり俺には、ゴーレム馬車が旅をするにあたってピッタリの馬車だということだ。
今から頑張ってお金を貯めて店で売っているゴーレム馬車を購入するのもいいが、やはり値段がメチャクチャに高い。それに俺には創造魔法があるから、自分好みの馬車を作るほうがいいと思った。
「……よし、出来た!」
というわけで、俺の創造魔法によってゴーレム馬車が完成する。創造魔法は、本当に素晴らしいスキルだ。
俺が作った馬車は全体的に黒色で、いかにもザ・ゴーレムですよといった見た目の馬が馬車を牽引する構造になっている。ゴーレム馬の見た目は、本物とそっくりにはしなかった。街でたまに見かけるゴーレム馬車がこんな感じだから、俺はそれを真似することにしたのだ。変にオーバースペックにすることはないだろう。無理に目立つ必要もない。
ただ、普通の馬車と俺の馬車では違うところがいくつかある。まず最初に、俺は馬車の壁に細工を仕込んだ。
この世界では素材に魔法回路を刻むことで、物に魔法的な性質をもたせることが出来る。だから俺は馬車の壁に魔法回路を刻み、光を反射する機能を追加した。いわゆる魔法陣による魔法の起動だ。この世界では道具に刻まれた魔法陣を、魔法回路や魔力回路と呼んでいた。
俺が馬車に追加したのは、ただ光を反射するための魔法回路ではない。それでは馬車の壁が単純な鏡になってしまう。
俺が馬車に追加した光の反射機能をもう少し詳しく説明すると、馬車の壁に魔力を通すと、壁に刻まれた魔力回路が機能を始めて、外側からの光を強く反射し、内側からの光は弱く透過するという性質を馬車の壁に持たせたのだ。
さらには、馬車の外側に黒色の保護膜を貼りそれにも魔法回路を刻むことによって、俺の馬車は外側から見たらただの黒色の馬車だが、内側から見たら外の景色が透けて見えるというとんでも機能を搭載するにいたった。
つまり、俺の馬車は外側から見たら何の変哲もない普通の馬車だが、内側から見たら外の景色が丸見えのマジックミラー馬車ということになる。
俺はこのマジックミラー馬車で、異世界を旅するのだ。
俺の馬車の機能紹介はこれだけでは終わらない。さらに俺は別の機能も追加している。それは、光学迷彩機能だ。
馬車のモードを変えると、魔力回路に刻んだ魔法式によって馬車の可視光、紫外線、赤外線、短波赤外線が歪曲し、馬車を視認できなくなるステルスモードも俺は自分の馬車に搭載した。
このステルスモードは物体の熱放射も隠すので、蛇のように熱探知をしてこちらの位置を把握する生物にも効果がある。
だから俺の馬車には、マジックミラー馬車モードとステルス馬車モードがあるということだ。
さらには俺の馬車の壁は、太陽光を利用することによって魔力を作り出すこともできる。それによって俺は魔力をいちいち充填することなく、馬車に取り付けられた魔道具が使えるようにした。この世界の便利道具は、電気ではなく魔力を利用して動いているのだ。
俺の馬車には創造魔法で作り出した冷蔵庫やエアコンなどの便利な魔道具が取り付けてあり、さながらキャンピングカーのようである。
このマジックミラー馬車で世界を旅するのは、さぞかし楽しいことだろう。街の中でもぜひ、マジックミラーモードを使って何とは言わないが、遊んでみるのもいいかもしれない。
さて、ここまでは馬車の生活機能の紹介だ。ここからは、馬車の武装について紹介をする。モンスターが存在する世界だ。強力な武器を用意しておくに越したことはない。
俺が作った馬車には屋根の上に銃座が備え付けられており、ガトリングガンを装着している。それが馬車の前後に備え付けられていて、移動中に屋根の上で索敵をすることが可能だ。
ここで肝となるのが、アイテムボックスというこの世界の魔法だ。俺は馬車にアイテムボックスをつけることで、火力兵器の付替えを実現した。
だから俺の馬車は、用途によって長距離ライフルや徹甲弾などを瞬時に付け替え敵を攻撃することが出来る戦車にもなる。もちろん、対空にも対応が可能だ。
基本的には太陽光により馬車に貯蔵した魔力によって作り出した魔力弾で攻撃をするのだが、馬車の魔力が切れても、銃を使用する人間の魔力を使って攻撃を継続することも出来る。
火力が大きいため、魔力値の低い人間が使うとすぐにガス欠になるのが欠点だが、それはご愛嬌ということにしよう。
横からの攻撃に対しては馬車の壁に埋め込んだアイテムボックスから壁に銃器を生やし、馬車の室内からモニターを通して操作することで制圧射撃も行える。
馬車横に装着する基本火力にはフレシェット弾を採用した。ダーツのような形をした弾が、複数同時に飛んでいく感じだ。それがフルオートで連射されることになる。これにより俺の馬車には基本的に、敵自体を近づけないようにした。
もし敵に取り囲まれてしまっても、馬車の中に立てこもって内部から銃を操作すればいい。基本的に俺は敵と真正面から戦わない。俺からは決して敵対はしないし、武力を使って勝手に敵対をしてくる相手には理不尽に対処をして終わらせる。
まあ何もないはずの馬車の壁から銃器が生え、突然射撃を始めたらさぞかし敵は驚くことだろうな。
やはり異世界を旅するには、これくらいの備えがなくては。俺は生活に関してはある程度は自重をするが、戦闘に関しては一切自重をしないことに決めていた。やはり、安全第一である。
それに目立たないようとビクビクしているうちに、大切な人が傷つくことになったら最悪だからな。俺は一番最悪な展開を想定して、行動を決めている。
――キュリリリリリリリリリリ!!!!!
「うひょー!」
――バラララララララララララララ!!!!!
俺は街から少し離れた場所に移動すると、火力兵器のテストを行っていた。俺が馬車の屋根に上ってガトリングガンの引き金を引くと、銃身を高速回転させながら秒間10発のロックバレットが発射されていく。
クランクを手で回転させながらロックバレットを放つアナログ式と迷ったが、利便性の観点から俺はフルオート式のガトリングガンを採用することにした。
一秒間に1万発以上のロックバレットを発射し、一分間に100万発のロックバレットを発射できるとんでもガトリングガンも開発したが、オーバスペックすぎるのでそれはアイテムボックスに封印しておく。当面の装備は、秒間10発のガトリングガンでいいだろう。
実は魔法でロックバレットを発射しているだけなので、別に銃身を回転させなくても弾丸を発射することが出来るのだが、やはりロマンは大切だ。
ガトリングガンの銃身がキュリキュリと音を立てながら回転をし続ける光景を見るのは、男冥利に尽きる行為なのである。ガハハ!
「さて、今日は、これくらいにしておくか!」
そんなことをしているうちに、時刻は夕方になる。これから武器も作ろうと思っていたのだが、それはまた次の機会にしよう。
俺は定宿となってしまった麗しの庭園の誓い邸に、今日はもう帰ることにするのであった。
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