閑話 高校生たちの思い



 ソラ・イチノセ視点



「ルナ、どう思う?」



 私は今、異世界とやらで王様達の晩餐会に参加をしている。私たちが学校でいつものように退屈な授業を受けていたら、突然、足元に魔法陣が現れた後に、あれよあれよと今の展開であった。



「どう思うって?帝国のこと?それとも一人だけまぎれていた、謎の人物のこと~?」



「うーん。両方かな」



 私が話しかけているのは妹のルナ。私とは双子の姉妹だ。ルナはほんわかとしているが、こういうときは何故か頭が切れるという特異な才能を持っている。



 彼女は、何を考えているか分からない、いつもの天然系のホワホワとした空気を身にまといながら、思案げにあたりを見回していた。



「何か変だよね。この国の人達はやたらと自分たちの正義を主張してくるし、魔族は絶対悪だって私たちを執拗に煽ってくるし……」



 私たちの会話に割って入ってくるのは、私と幼なじみのミチミネアヤノ。彼女は陸上部のエースで日焼けした褐色肌に黒髪のショートカット、巨乳で顔も可愛くて、去年、彼女が高跳び走でインターハイに出場したときは、テレビで話題になるほどだった。



 アヤノは快活で面倒見がいいお姉さんタイプの女性で、学校でファンクラブが出来てしまうくらいに男からモテている。うるさいだけで何の取り柄もない、私とは大違いだ。



 ちなみに妹のルナも、ほんわかとした天然系のルックスに巨乳の見た目で、異性から抜群にモテている。そして双子の姉なのに、私だけがモテていない。



「無能認定を受けていた男の子の方も、ステータスオール5にスキル無しって、絶対に何かあるよね……」



 私たちは豪華な晩餐会にはしゃぐ同級生たちを尻目に、はしっこの方で議論を続けていく。いきなり異世界に召喚されて、正義だと思っていたら実は悪の手先をやらされていましたなんて話、転生ものの小説ではよくある展開だ。



 私たちは自分の身を守るために、よく周りの様子を観察し、慎重に立ち回らなければならない。



「可能性があるとしたら、ステータス隠蔽だよね。あのステータスはチートすぎる能力を隠そうとして、加減がわからずに逆に失敗しちゃった、みたいな感じに思える」



 アヤノの答えと、私も同じ考えに至っていた。一人だけ晩餐会に来ていない彼は、隠蔽系のスキルを手に入れていた可能性がある。もしくは何か、あの場で一人だけ、とてつもないチート能力を授かっていたのかもしれない。



 一人だけ巻き込まれ召喚された人間がチート持ちだけどステータスを隠蔽して、城から脱出するなんてありふれた話だ。もしかしたら彼だけ、無能認定を受けて牢屋に一人閉じ込められているという展開もある。



 もし、彼一人だけチート能力を何も貰っていなくても、同じく召喚された者同士、助け合ったほうがいい。そう思った私たちは、晩餐会に参加していないスウェット姿の彼に差し入れをするために、晩餐会に出された食事をこっそりとアイテムボックスに忍び込ませていく。



 スウェット姿の彼が今どこに居るのか知らないが、アヤノのもらった盗賊スキルならきっと、彼の居場所を探すことも出来るだろう。この城の内部構造を詳しく知るまで、彼を探すのは少し待ってもらうことになるが、あいにくアイテムボックスには時間停止機能が付いている。彼に差し入れする料理が劣化してしまうことはない。それまで、スウェット姿の彼には少し辛抱をしてもらおう。



 私たちは帝国の人間はとりあえず信用したふりをしつつも、情報を集めて、これからの行動を決めていこうという結論に達した。それまではおとなしくしつつ、成り行きを待つことになる。



 しかし翌日になると、差し入れをしようと画策していた私たちの計画も虚しく、一人だけステータスが低かった彼が、自責の念により一人で城を旅立ったと朝の集会で私たちに伝えられた。



「これは絶対に、何かあるよね……」



 多分、スウェット姿の彼も何かしらのチート持ちなのだろう。そして、それを隠して上手いこと立ち回り、彼はきな臭い城から脱出したと。そう結論付けた私たちは、いつか彼を探し出して、交流を持ってみようと話し合った。



 それまで、スウェット姿の彼には無事に異世界で生き残っていて欲しい。しばらくすればきっと、何かしらで有名になっていることだろう。



「それまで、私たちもこの世界で生き残らなくちゃね!ルナ、アヤノ、やるわよおおお!カモン!異世界!」



「お姉ちゃんは、急にそういうワケの分からないことを言い出すから、男の子にモテないんだよ~」



「ルナ!うるさい!」



 しかし、他人の心配ばかりをしてはいられない。私たちは私たちで、この異世界を生き残らなくてはならないからだ。



 魔王を倒すための訓練と称された集会へと足を運びながら、私とルナとアヤノの三人は、これからのことを考えるのであった。



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