間章

第29話 道場の一人娘の気持ち

私の名前は不知火麗華、父がやっている合気道道場の一人娘だ。小さい頃から道場で生活していたのもあり、男の人と話すのは慣れている方だと思う。


「あら、爽侍くんいらっしゃい」


「こんにちは、麗華さん。今日もよろしくお願いします」


彼の名前は、五十嵐爽侍くん。彼は、3歳からこの道場に通っている。私とは三つしか歳が離れていないのもあって、すぐに仲良くなった。


「まだみんな来てないみたいだし、中で待っててね」


「はい」


現在彼は16歳、もう立派な男だ。私からみても、かっこよく成長したなーと思う。


「あ、そうだ爽侍くん」


「なんですか?麗華さん」


「今日はご飯どうする?」


「そうですね・・・お願いしてもいいですか?」


「もちろんよ、楽しみに待っててね」


彼が道場に来る日はこうして、私が作った料理を食べてもらっている。爽侍くんのお母様が働いて帰るのが遅いのもあって、たまに妹さんやお姉さんも食べに来ていたりする。


もちろん小さい頃は一緒にお風呂に入ったりもしていた。私の方がお姉さんだから洗ってあげたりとかね・・・ちっちゃい爽侍くんも可愛かったなー


「よしっ、今日も張り切って作らないと」


こんなふうにアピールしていけば、いつかは振り向いてくれるんじゃないかと期待していた。でも・・・


「もしもし、不知火先生いらっしゃいますか?」


「あらー、爽侍くんじゃない」


「ご無沙汰してます、麗香さん」


「今呼んでくるわね?・・・おとーさーん?」


珍しいわね、爽侍くんが電話してくるなんて。しかも、今学校の時間じゃない・・・


「もしもし、なんだ・・どうした爽侍」


「・・・あ?なんだって?よく聞こえなかったな」


ん?何かしら、なんかお父さん機嫌悪いわね・・・いや、あれはからかってるのかな?


「なんだってーー‼︎」


またあんなに大きな声出して・・・爽侍くんがかわいそうじゃない


「・・・それならしょうがない」


「女性からの誘いを無下にするものなど我が家の敷居は跨がせてなるものかー‼︎」


・・・え?今なんて・・・何か女性がどうかって聞こえた気がしたんだけど


「うんうん、ちょっと遅くなってもいいから気をつけてきなさい」


これはちょっと確かめないと


「お父さん、爽侍くんなんだって?」


「ん?ああ、それがな・・・」


「・・・・・」


「爽侍のやつ、女に呼び出されたからって今日遅くなるってよ」


「な、なんですってー‼︎」


「な、なんだよ大きな声出して」


ちょっとどういうこと?・・・いや、今まで気にしてなかったけど告白くらいされてもおかしくないわよね。爽侍くんかっこいいし・・・


「お?もしかしてお前・・・爽侍のこと・・・」


「ちょ、お父さんは黙ってて‼︎」


「なんだよ、いいじゃねーか・・・娘の恋路が気になるのは親の性ってやつだからな」


その日から、私は少し考えるようになっていた。今思えばこの時だったのかもしれない、私が彼に・・・爽侍くんに好意を持っていると気付いたのは


そして今私はスマホを片手にある生放送を見ている。そう、柏崎涼音の復帰記者会見だ。


「え?これって・・・まさか」


そこに映っていたのは、暴漢に襲われそうになっていた柏崎涼音を颯爽と助けている・・・爽侍の姿だった。


「どうして爽侍くんがこんなところに・・・」


「お、なんだ?爽侍のやつ面白そうなところにいるな」


「お父さん、何か聞いてないの?」


「ん?いや・・・ああ、そういや最近の爽侍は誰かを守ることを想定した訓練をしてたな。これのためだったってわけか」


「そ、そうなんだ・・・」


そのあとは、無事に記者会見が行われたみたいだけど・・・私は心ここに在らずで全くその時のことを覚えていない


「お父さん、ちょっと夕飯の買い物に行ってくるね?」


「ああ、気をつけて行ってこい」


「うん」




「はー・・・」


あの時の、爽侍くんすごい真剣な顔だった。あのことは一体どんな関係なんだろう・・・最近爽侍くんとはまともに話せてない


「どうしよう」


爽侍くんのことを好きな異性だと意識してから、まともに顔を見ることもできない


「あれ?」


買い物をしようと駅の方まで来たんだけど・・・前から歩いてくるのって


「そ、爽侍くん・・・」


「あれ?麗華さんじゃないですか、どうしたんですか?もしかして買い物?」


「ええ、そうよ」


「やっぱり・・・あっ、そうだ紹介しますね」


「え?」


「隣にいるのは・・・あー、もしかしたら知ってるかもしれないですけど・・・」


「柏崎・・・涼音さん、よね?」


「はい、やっぱりみんな知ってるんですね・・・」


「えっと・・・二人はどういう関係・・・なの?」


「あ、あの・・・もしかして爽侍くんが通っている道場の・・・」


「ええ、道場の娘の不知火麗華よよろしくね」


「はい、よろしくお願いします・・・それで私たちの関係なんですけど」


その場で私は二人の関係を聞かされた・・・昔遊んでいた幼馴染だったこと、家が燃えて今爽侍くんの家に居候していること・・・


「そう、色々大変だったのね・・・」


「あ、爽侍くん」


「ん?なんだ?」


「ちょっと麗華さんと話したいことがあるから、先に帰っててくれる?」


「いいぞ」


え?何かしら・・・もしかして、もう爽侍くんは私のものだから手を出すなとか言われちゃうのかしら


「やっと二人きりになれましたね」


「へ?」


「あの、不知火さん」


「何かしら・・・」


「あの、もしかして爽侍くんのこと・・・好きですよね?」


「え?・・・ちょ・・・え?」


「私、もう爽侍くんに告白しちゃってるんです。それに、一緒に住むようになってからちょっとずつ心も開いてくれていますし・・・」


え?なに?ほんとに・・・まさか


「でも、ずっと一緒にいた麗華さんの話を爽侍くんから聞いてるともしかしたらって思っちゃったんです」


「そうなの・・・爽侍くんが」


「だから、不知火さんの気持ちはわからないですけど・・・負けませんからね」


「え?・・・それだけ?」


「そうですけど・・・」


なんだ、すごくいい子じゃない。好きな人を追ってくるなんてすごい子だと思ってたけど、改めて彼を思う気持ちの強さに驚かされたわ


「ふふっ、ありがとう」


「え?」


「確かに、私は彼のことが好きよ・・・だけど今までしっかりと彼に向き合ったことがなかったから」


「・・・・・・」


「でも、あなたにいいわれて火がついたわ」


「そう・・・ですか」


「ええ、これからよろしくね」


「はい」


「ふふっ、それと私のことは麗華でいいわ」


「はい、麗華さん。私も涼音でいいです」


「じゃあ、またね?いつでもいいから道場に遊びにおいで」


「わかりました。爽侍くんのかっこいい姿見てみたいですし」


「そうね、でも年上だからって手加減しないからね」


「望むところです」


その後、私の気持ちは何かつきものが落ちたのかのようにすっきりとしていた。自分の思いを誰かに話したのは初めてだったからかもしれない


「よしっ、頑張らないと」


その時私は、自然と笑みが出ていた。



【あとがき】


実はもっと早く涼音の台頭として麗華パートを出すつもりだったのですが、なぜかこんなことに・・・

第二章からは、登場人物多めでもっとごちゃごちゃしていきます。慌てふためく爽侍の姿が目に浮かびます。


ここまで読んでいただきありがとうございます。評価、感想お待ちしております。



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