第22話 心の扉を開いて
今日の爽侍くんは、朝から様子がおかしかった・・・それはわかっていたことだった。いつもなら面倒くさそうに私達の相手をしているのに、今日はやたらと・・・かっこよかった。いや、いつもかっこいいと思ってるんだけど・・・
「あ、爽侍くん今運んだりしているところだから手伝ってくれる?」
「ああもちろんだ、手伝うよ涼音」
「へ?」
いきなり名前で呼ばれたのにびっくりしたってのもあるけど、人前で呼ばれたのは初めてだったから(最初が電車の中だったことはすっかり忘れてしまっている)。すっごく嬉しかったんだけど、やっぱり恥ずかしさの方が勝ってしまって・・・
「ん?なんだだめだったのか?別に家族なんだしいいだろ?それに俺が呼びたかったから呼んだんだし」
「はうっ・・・」
この時は、いきなり甘い言葉を吐いてくるもんだから変な声が出てしまった。いつもそっけない態度を取られているだけに、あんなこと言われたら・・・もっと好きになっちゃう。
「んー、そんなに変か?涼音はどうだ?俺なんか変かな」
「へ?い、いや変って言われれば変なんだけど・・・そのままでもいいかな・・・・」
全く話を聞いていなかったんだけど、爽侍くんの滋養隊についての話題だったからなんとか返事はできた。でもこの時私は、確かに変だけどしばらくはこのままでもいいんじゃないかって・・・思ってしまっていた。ここで爽侍くんを心配してちゃんと調べていればあんなことにはならなかったかもしれないのに・・・
「爽侍くん、大丈夫?なんかフラフラしてるけど・・・」
「ん?なんだ俺のことがそんなに心配なのか?優しいんだな涼音は」
「ひゃ、ひゃい」
明らかにフラフラして危なかった、でも私は爽侍くんに優しくされて嬉しいって気持ちが先行していた。
「涼音は今日も可愛いな、もっと好きになっちまうよ」
「へ?な、何言ってんのよ・・・・もう」
「何って、俺の今の率直な気持ちだよ」
急に告白された時はびっくりした。びっくりして聞き返してしまったほどに・・・
「そ、そうなんだ。爽侍くんは私のこと・・・好きなんだ」
「ああ、もちろん。最初は君のこと思い出せなかったし、好きってわけじゃなかったけど・・・」
「けど?」
「けど・・・一緒に住むようになってな、やっぱり自分に嘘はつけないなって」
「ふ、ふーん・・・本当にどうしよう、なんか本当にもう・・・」
もう何も考えられなくなっていた。でも、一緒に住むようになったのは爽侍くんにとっても大きいことだったみたい、そこはお義母さんに感謝しなきゃ。
「どうした?大丈夫か?」
「だ、大丈夫よ。それよりもう学校まですぐそこだけど、別れなくていいの?」
「ああ、もう別れる必要もないし。それに、涼音と少しでも長くいたいからな」
「・・・・・・・」
もう何も言わない、本当に私はどうかしていたんだとおもう。目立ちたくない爽侍くんが、学校まで一緒に行ってくれたことなんてなかったから・・・
「ああ、おはよう。愛華は今日も元気だな、すごくいいと思うぞ」
愛華ちゃんにまでイケメンしだした時はちょっとびっくりしちゃった。もしかしてあの告白は、イケメン化現象の一環で彼の本心ではないんじゃないかと・・・
「そうか、一樹は顔いいんだしもっとシャキッとすればモテると思うんだけどな」
でも飯島くんにまで発動した時はちょっと面白いかも・・・と思ってしまった。
「先生、五十嵐が具合悪そうなので保健室連れて行ってもいいですか?」
「え?あら、顔真っ赤ね・・・いいわ早く連れてってあげなさい」
もうすっかり爽侍くんの異変のことなんて忘れていて、授業に集中していた。でも飯島くんの発言を聞いて気づいてしまった。彼のあの変化は自分の体に起きた異常事態を知らせるものだったのではないかと
「はい、ほら爽侍立てるか」
「いや、大丈夫だ。ありがとう、一人で行けるから・・・先生すみませんちょっと離脱します」
「そ、そう気をつけて行きなさい」
「はい」
あ、ああ・・・あんなにフラフラして本当に一人で大丈夫なんだろうかと思っていた。だから・・・
ガッシャーン
この時私は、怖くて動くことができなかった。心配する声もかけることができなかった。
「ちょっと五十嵐くん?大丈夫なの?」
「おい、爽侍」
「爽侍くんっ」
でもここで声をかけなかったらダメなんじゃないかと、前に進めないんじゃないかと自分に言い聞かせなんとか声を絞り出した。
「あ、そう・・・じくん・・・・えっと・・・爽侍くん‼︎大丈夫」
私は、そのまま彼の元に走り出していた。周りの目なんか気にしていられない、彼が大変な思いをしているのにただ見ているなんてできないっ
「爽侍くん、爽侍くん・・・ああ、私がもっと早く気づいていれば・・・」
だって彼のことがとっても大事なんだから・・・
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「こいつすっごい寝てんな、このまま永眠しちまうんじゃねーか?」
「何言ってんのよ、でも爽侍くんて寝てる顔案外可愛いのね」
「ちょっと、そんなにじろじろ見ないでよっ」
思わず声に出ちゃった。ここが保健室で私達しかいない状況だったからいいものの、もっと人がいる状況だったらもっと恥ずかしい思いをしていたかもしれなかったんだから。
「お?なんだ『この顔を見ていいのは私だけなんだからっ』ってか?」
「もう、涼音ったら積極的ね」
「ちが・・・・・」
「でも、すごかったわねあの涼音の慌てようは」
「ああ、爽侍たちの関係は秘密だって言ってたから余計にな」
本当にその通りなの。爽侍くんからも目立ちたくないからなるべく学校内では話さないよう言われていたし・・・
「うー、だって我慢できなかったのよ。あんな風に突然倒れるなんて理性より本能が勝っちゃったのよ」
「そうかー、で?どうなの?爽侍くん脈ありそう?」
「え?急にそんなこと言われたって・・・でも今日告白みたいなセリフは言われたし・・・爽侍くんが覚えてれば・・・」
「そうだよなー、今日の爽侍は明らかにおかしかったし。記憶がの凝ってるかどうかもなー」
「そうね、今日のことはこの3人の秘密にして・・・」
「ん、んん・・・」
「そ、爽侍くん?」
「ああ、みんな・・・なんか迷惑かけちまって悪かったな」
「おお、起きたか」
「よかったわー、起きてくれて・・・じゃないと泣いちゃうところだったわよ・・・涼音が」
「ちょ、ちょっと愛華ちゃん‼︎」
爽侍くんが起きてくれたことが嬉しくてその後愛華ちゃん達が出ていくまで頭の中が真っ白になっちゃった。
ガラガラっ
「・・・・・・」
「・・・・・・」
急に二人きりになって話すことができなくなっていた。お互い積極的な性格でないのはわかっていたんだけど、こう言う場面でどうしたらいいかなんて・・・
「そ、爽侍くん‼︎」
「な、なんだ?」
「ちょっと聞きたいことがあるんだけど・・・」
ゴクリ
「爽侍くん今日のことってどこまで覚えてるの?」
ここで何も覚えてなかったら、この後の展開になっていなかったと思う。
「きょ、今日のことって・・・な、なんだ?」
「もしかして覚えてないの?」
「な、なんのことだかわかん、んー」
もしかして爽侍くん、今日のことなかったことにして逃げようとしてるんじゃないかしら。改めて考えてみれば、私はここで新しい扉を開けてしまったのかもしけない・・・
「そういえば今日和樹くんが何か撮ってたみたいっだったけど」
「な、あいつ黒歴史用とか言ってマジでやってたのか・・・よ・・・・・・・・・・あ」
「ふーん、本当は覚えてたのに嘘ついてたんだー」
こうなるとなんか止まらない、もっといじめたくなっちゃう
「う・・・」
「爽侍くんのこと心配してた人に嘘ついたんだー」
「い、いや・・・」
やりすぎちゃったかな、爽侍くんちょっと引いてるかも
「で?本当は覚えてるの?」
「は、はい覚えてます」
「そ、そうなんだ・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・」
覚えていたみたい、もう私は止まれない・・・自分の気持ちに素直にならなくちゃ
「そ、爽侍くん‼︎」
「お、おう」
「改めて聞くね」
「はい」
「今日爽侍くんが言ってくれた気持ちは・・・本心ですか?」
ここでどう返されてもよかった、彼はここで逃げ出すかもしれない・・・でも、私は絶対に逃がすつもりなんてなかった。だってあきらめるなんてできない・・・なぜなら
「今日の俺はちょっとおかしかったけど、あれは俺の本心だ・・・と思う」
「お、思うって何よ」
「だって、しょうがねーだろ?人を好きになったこともないから・・・これがどう言うことかなんてわかんねーよ」
「す・・・・そうなんだ・・・」
「でも、これだけはわかる・・・俺はお前のことが、涼音のことが一番大事なんだと思う」
「そ、それって・・・」
「お、俺はお前のことが・・・・好きだ・・・・」
もう、私は彼の心を開くことができていたのだから・・・・
【あとがき】
ちょっと忙しいので今日はお休みです。明日更新予定なのでお楽しみに
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