俺と彼女の事件(2)

 いじめは日に日にエスカレートしていった。


 それもそうだろう。いじめは簡単には止まらない。現実ではいじめにあってその子が不登校などになると他のターゲットに移り変わったりするのだ。


 なんて皮肉な世界だ。いじめで今の東阪みたいに苦しんでいるのをどう止めるべきか分かっていない。


 が、そんな時——


「東阪まじ浮かれてんべ」

「彼氏がいいからって」

「まだ別れないじゃん」

「もうちょっと強めに行くべ?」


 そんな声が朝の屋上の階段から聞こえてきた。


 立ち入り禁止の場所だ。そして東阪の名前。俺は理解した。


 今回のいじめの原因——それは俺だ。


 

 その日の昼休み俺は親友のるいに相談を持ちかけた。


「いじめの原因は俺らしい、いじめている奴らが話していたんだ」

「そうなるよね」

「俺はあいつらに何もしていなんだ。なのに東阪をいじめているのが本当に許せない」

「え……?」

「え?」


 累は嘘だろと言いたげな顔をしているので俺は顔を斜めに傾けた。


「分かっていないの……?」

「何が?」

「原因だよ」

「いや、だから俺だろ?」

「そっちじゃない、なぜいじめられているのかの内容」

「あ、そっちか。俺何もした記憶ないんだ」

「はぁ……」


 なぜか俺の返答に大きなため息をつけられた。真剣に悩んでいる俺からするとかなりイラッとする態度だった。


「おい、なんなんだよ」

「いや、もっと自分で理解するべきだよ」

「だから何がだって」


 苛立いらちが隠せず荒い返答になってしまう。累にはしっかり話を聞いてくれて一緒にこのいじめを無くすのに協力できると思っていた。


「智也はイケメンの枠に入るんだよ、みんなにモテるの」

「は……? 今はそんな話をしているんじゃない!」


 累から全く関係のない話をされて今度は怒鳴ってしまった。今は累に苛立ちを向けていたので周りの視線などどうでもよかった。それほど悩んでいたのだ。


「だからそれが原因なの」

「どういうことだ……?」

「前に言ったろ。人は欲があるから嫉妬をする。嫉妬はときには憎悪ぞうおを生む。それがいじめに繋がる」

「え、どういうことだ?」


 俺に嫉妬をする意味がわからない。あいつらと関わったこともなければ話したこともない。

  

 あ、でもあの中の1人に一回告白されたことがある。でもあの中では浮いていて大人しい性格なのであのうるさいメンバーたちといる意味がわからない。


 と、思ったとき、利用されて罰ゲームでもさせられたのかと思った。だが、なんで俺なんだ? とも思う。なんならイケメンの人にでもすればいいのに。


「智也は今いろんなことを考えていると思うけど、あのメンバーの中に智也のことを好きな人がいて嫉妬していじめにつながっているって事」

「ああ……、なるほど」


 あの中に俺のことを好きな人がいるってことか。そして何かが繋がった気がした。 


 あの中に俺のことを好きな人がいて、大人しく容姿が整っている可愛い女の子を使ってこの子が告白で成功するのかを試したんだ。


 おそらく性格は関係ないと思うが、容姿はあのメンバーの中でも違和感なくむしろ俺からしたら一番可愛いまでいく。


 落ち着きを取り戻すと自分でも驚くくらい、いろんなピースがはまっていき気持ちいいまでいく。


「分かってきた?」


 累は心を見透かしたように言葉をかけてきた。


「分かってきた」

「やっと……」

「わりいな、ちょっと落ち着きがなかった」

「ちょっとどころじゃないよ」


 確かにさっきの俺はかなりひどかった。


 そして、この事実に辿たどり着いたのはいいが、まだ解決策が見つかったわけじゃないのだ。


「家に帰って解決策じっくり考えるよ」

「くれぐれも間違った考え方はしないようにね」

「ああ」


 なぜか警告染みた言葉を言われ、短く返事をした。




 

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