第6話 ニーナ宅
そういえばとニーナさんに尋ねる。
「ギルドって何時くらいまでやってるんですか?」
「た、確か陽が落ちるまででしょうか……夜にも酒場として運営はしてますけど、ギルドとして受付されているのは夕方くらいまでです……」
「……明日にしますかね」
空を見るとオレンジ色に染まり始めていた。
今からでも間に合うことは間に合うだろうけど、そもそもの話僕は今宿無しなのだ。
早めに探さないと野宿する羽目になる。
「ニーナさんごめんなさい、冒険者ギルドには明日行くことにします」
「は、はい、私もそれがいいと思います」
でも……そう言ってニーナさんが続ける。
「えっと、宿代は大丈夫ですか……?」
「あー……大丈夫じゃないです……」
そうだった。
文無しだったんだ僕。
前の世界の通貨が使えないとなると……
ニーナさんに借りるとか……? いや、さすがにそれは情けないし申し訳ない。
通行料まで払ってもらってるのにこれ以上の借金は嫌だな。
「あ、あのっ、そ、そそそそ、それならっ、嫌ならいいんですけど……えっと…………わ、私の家に、とか………」
体を強張らせてやたらと言葉に詰まりながらそんな提案をしてくれる。
ガチガチじゃないですか。
確かにその提案はありがたい。
というかニーナさんって自分の家持ってたんですね……
「むしろいいんですか? そこまでしてもらっちゃって……」
ニーナさんは凄い勢いで何度も頷く。
彼女自身がいいなら断る理由はないだろう。
また貸りが出来ちゃったな。
僕はニーナさんに向かってお礼を言った。
◇
「おー」
大きくて立派な家だった。
清掃が行き届いているのか白い壁には清潔感がある。
小さいけど庭もあるし……こういう家を持つのって男の夢だよね。
「つ、つまらないところですが……どうぞ……」
変に縮こまったニーナさんに案内されて家へと入る。
ニーナさんの家なんだからもっと堂々としてればいいのに。
異性を招き入れてるから緊張してるのだろうか。
良い匂いだ。
花の香り?
それに加えて女の子の甘いような優しくて落ち着く匂いがする。
家の中も掃除されているのか汚れは見られない。
「ところで僕はどこで寝ればいいですか?」
まだ日が暮れたばかり。
早いと思うかもしれないけど現代の日本のように明かりも娯楽もない異世界では早い時間の就寝が常識だったりする。
あと一応補足しておこう。
僕半日くらい前に魔王倒したばかりだからね。
さすがに疲労やらなにやらで今にも倒れそうなほど疲れてるんだ。
とても眠い。
布団に入れば1分と持たずに寝てしまうだろう。
そうしてニーナさんに案内されるままに寝室らしき場所へ。
そこには大きなキングサイズのベッドがあった。
3人くらいが並んで寝れそうな大きさだ。
「……ニーナさん以外に誰かいるんですか?」
彼女一人で使うにはあまりにも大きい。
小柄なニーナさんが使うサイズには見えなかった。
「それは……えぇと……」
少し言い辛そうなニーナさん。
仮面のせいで顔色は見えない。
もやもやするけどニーナさんが言いにくいなら無理に聞くことでもないだろう。
話題を変えようと気になっていたことを聞いてみた。
「ニーナさんはどこで寝るんですか?」
「わ、私ならリビングのソファーで寝ようかなと」
「いやいや、それならニーナさんがベッドを使ってください、僕がそっちで寝ますので」
「そ、それは……ユウトさんにそんな窮屈な思いをさせるなんて……」
気を遣ってくれているニーナさんには悪いが正直このやり取りが面倒だった。
先ほども言ったけど僕は今超眠いのだ。
そんな思いもありついいつもは言わないようなことを言ってしまう。
「一緒に寝ます?」
ピシリっ。
ニーナさんが固まった。
僕も自分の発言に固まった。
◇
ニーナさんは羞恥の感情を見せながらも決して嫌がりはしなかった。
むしろ非常に乗り気ですらあった。
それが後押しになり僕は諦めた。
自分の言ったことだ。
覚悟を決めよう。
僕は今ニーナさんのベッドの端で横になっている。
(素数が1、素数が2、素数が3、素数が4、素数が5……)
僕は羊を数えてるのか、素数を数えているのかも定かではないほど混乱していた。
色々考えていると寝室の扉が開いてニーナさんが入ってきた。
「お、お邪魔します……」
もぞりとニーナさんが入ってくる。
まずい、緊張する。
お風呂上がりのニーナさんの匂いと石鹸の匂いが混ざって極楽かってくらい心地良い。
「ユウトさん……」
ニーナさんが僕の名前を呼ぶ。
寝る前だからだろう。
昼間より小さく囁くような声は甘えているような印象を僕に与えた。
「ここ……大丈夫ですか? く、臭くないですか……?」
どれだけ卑屈なんですかニーナさん。
僕は苦笑いを浮かべながら大丈夫ですよと返しておいた。
(ニーナさん、凄い緊張してるな)
女の子と寝るのは初めてだ。
だけどガッチガチになってるニーナさんを見て逆に落ち着いた。
自分よりも余裕のない人を見ると余裕ができるって言うのは本当だったんだね。
なんにせよここで手を出すわけにはいかない。
ニーナさんに嫌われたくはなかったから。
何かラブコメ的なイベントを期待していたけどこれじゃあ無理だろう。
僕は少し残念に思いながらも安堵した。
「おやすみなさい、ニーナさん」
意識はニーナさんの返事を待たずに落ちていった。
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