リピートエンド

悠生ゆう

1

「はぁ?」

 私の口から漏れたのは、言葉ともいえないマヌケな音だった。

 何が起こっているのか理解できない。

 普段ならば、何が面白いのかサッパリわからないようなくだらないネタが繰り広げられるバラエティ番組が流れているはずだった。

 だが、今、テレビ画面の中では、アナウンサーが緊迫した表情で繰り返し何かを伝えている。

 新しい情報がないからなのか、何度も同じ言葉を繰り返しているようだけど、何度聞いても私にはその言葉が理解できなかった。

 視界に入ったテレビのリモコンを持ち上げてチャンネルを変えたけれど、変えた先でもアナウンサーが何かを伝えている。違っているのは、アナウンサーの顔だけだ。

 私は左手でテーブルの上にあったグラスを持ち、中に残っていた液体を喉の奥に流し込んだ。焼けるような熱さが喉を通るのを感じて、その液体がウイスキーだったことを思い出した。どうやら、ほぼ原液だったようだ。

 私が帰宅したのは夕方の五時を少し回った頃。

 コンビニで買い込んだ缶チューハイやウイスキーとちょっとしたつまみをテーブルの上にドサリとおいて、着替えもせずに飲みはじめた。

 缶チューハイを何本か開けたけれどまったく酔う気配がなかったから、グラスを持ってきてウイスキーを飲んだ。

 飲んでいると、なぜか両目から涙がこぼれて、飲んだ量以上に涙が出ているのではないかと思うほどだった。

 涙でなくなった水分を補給するようにお酒を飲み、飲んだ分だけ涙を流す。

 泣いて、飲んで

 飲んで、泣いた

 そうしているうちに、いつの間にか眠ってしまっていたらしい。目を覚ますのとほぼ同時に鳴っていたスマホが切れた。

 画面には『遠野咲美(とおのさきみ)』の名前が残っていた。

 私はそれを無視してなんとなくテレビを付ける。普段からあまりテレビを見る方ではなかったけれど、今日は何でもいいから音を鳴らしておきたかった。

 そうして付けたテレビ画面の中ではアナウンサーが繰り返し何かを伝えている。

 再び鳴った電話を私は無視して、テレビ画面に集中した。

「繰り返しお伝えします。本日十八時二十分発の成田空港発ロサンゼルス行き旅客機が、二十三時過ぎに消息を絶ちました。航空会社の発表によると、消息を絶つ三十分前に異常事態を伝える緊急通信が入っていたとのことですが、現在詳細は発表されておりません。乗員乗客の安否は現在不明です」

 そんなアナウンサーの下に、搭乗者名簿に載っている名前が流れ続けていた。

 KIE ARIGA

 その文字を見つけた瞬間、電気がプツリと消されたように、目の前が真っ暗になった。

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