第65話 はじめて校閲をしてもらった(18)

 第六章第五話。


 第六章第五話行きます。すんませんねえ、うっさいおっさんで。(^^;; 第五話は、てんこ盛りです。大半は視点揺れ。モノローグとナレーションの分離不足です。


 どんと来いやー! (笑)

 てか、この小説への指摘、ほぼ「視点揺れ」だな。初回の校閲ではなかったことなので、第二ステージってことだな(なんだそれは)。


 けたたましく鳴るブザーの音で起きたのは、それから1ミリア後のことだった。座り込んだままドアロックを外すと、意外な人物が立っていた。ルシファーである。溜息を一つ落として部屋に入って来た彼は、事態を予測していたらしい。閉まったドアの前にしゃがみ込むと、おもむろにカツミの額に手を当てる。びっくりして目を見開いた相手を怒ったようにねめつけた。

 ← 視点揺れ。今度はナレーションがカツミにばったり傾いてます。

「カツミがけたたましく鳴るブザーの音で起こされたのは、それから1ミリア後だった。座り込んだままドアロックを外したカツミの前に、ルシファーが立っていた。なぜルシファーが? そんな困惑を無視して溜息混じりに入って来たルシファーは、閉まったドアの前にしゃがみ込んで、カツミの額に手を当てた。」

 あくまでも例です。ナレーションベースで書くと、こうなるよという例。


 変更後。ほんま指摘通りにカツミ視点とナレーター視点が混ざってたな。


 カツミがけたたましく鳴るブザーの音で起こされたのは、それから1ミリア後だった。座り込んだままドアロックを外すと、外にルシファーが立っている。なんでこいつが? カツミの困惑を無視して溜息混じりに入って来たルシファーは、閉まったドアの前にしゃがみ込むとカツミの額に手を当てた。


 その次。ここもカツミとナレーター視点が寄りすぎ。


 限界は感じていたのだ。ジェイに心配をかけないようにと意地を張っているのに、これでは本末転倒である。

 ← 視点揺れ。ナレーションがカツミに寄りすぎ。

「ジェイに心配かけたくなかったのに、これじゃ本末転倒じゃないか。カツミは情けなかったが、もう限界だった。」

 ← モノローグを入れて、そのあとのナレーションを中立に。


 変更後。ナレーターとモノローグをキッチリ分離!


 カツミは抵抗を断念して瞼を閉じた。ジェイに心配をかけたくないのに、これじゃ本末転倒じゃないか。情けなかったが、もう限界だった。


 次。


 人が気にしていることをずけずけ言いやがって。睨みつけたが、すでに形勢は逆転していた。軽々とベッドの上まで運ばれ、王女のようにそっと横たえられる。

 ← 視点揺れ。カツミのモノローグに引きずられて、ナレーションが崩れてます。「人が気にしていることをずけずけ言いやがって。カツミがルシファーを睨みつけたが、すでに形勢は逆転していた。カツミを軽々とベッドの上に運んだルシファーは、王妃を寝かせるかのようにそっと横たえた。」……かな。


 変更後。


「軽いですね。軍人にしては小柄だな」

「うるさい!」

 人が気にしていることをずけずけ言いやがって。カツミがルシファーを睨みつけたが、すでに形勢は逆転していた。軽々とベッドの上に運ばれ、王女のようにそっと横たえられる。


 あー。もうちょっと変えたほうが良かったな。カツミ視点にしてるけど、まだそれを強調しても良かった。


 こういうモノローグに引きずられたナレーション崩れが、あちこちに出てきます。中立視点(俯瞰カメラ)の確保を徹底してくださいね。

 一人称の場合は、読者が主人公にべったり張り付くので何も考えなくて済みます。でも三人称の場合は、上手に描かれていても視線が動くんです。

 情景描写に感情が絡まなければ読者は冷静に画像を組み立てられますが、人物描写でそれをやるとカメラだけでなく思考も切り替えなければなりません。たまあにならいいんですが、頻発すると「ええと。これって、誰の何の話だったっけ?」と、そこでせっかくの流れが切れてしまいます。読者が話に没入できなくなるんです。

 三人称展開の場合は、そこを上手に切り抜けられるかどうかがミソになります。踏ん張ってください。


 めっちゃ頑張りましたよー! 主に師匠が(^^;(^^; ありがてぇ。ありがてぇ。今なら、こうして読み返してると「あれっ」って気づくこともあるのですけどねえ。


 椅子を引き寄せベッド脇に座った彼に、容赦なく悪態の続きが投げられる。

 ← 表現調整。「彼」はダメ。代名詞の使用は、くれぐれも慎重にね。

「椅子を引き寄せベッド脇に座ったルシファーに、カツミが悪態を浴びせ続けた。」……かな。


 これな。どっちも彼なんで、キャラ名を書かないと彼って誰? になるんだよな。


 カツミの悪態などルシファーには可愛いものらしい。余裕の笑みであっさりと口を塞がれてしまう。

 ← 視点揺れ。だーめーだってばー。(^^;; このナレーション、誰がどの視点で話してるのか、まるっきりわかりません。1行目がるっしーに寄りすぎ。2行目がカツミに寄りすぎ。でも2行ともナレーションで、しかも作者の思惑がべったり。わかります?


「ルシファーには、カツミの悪態がむしろ可愛いらしく感じられた。余裕の笑みであっさりカツミの口を塞ぐ。」

 ← るっしー寄りナレーションに統一すると、こんな感じ。もちろん、カツミバージョンにもできますよ。

「俺をガキ扱いしやがって! カツミは拗ねたが、余裕の笑みを浮かべるルシファーの前では黙るしかなかった」


 改稿後。


「俺はフィーアじゃないからな!」

「当然。あの人はこんな憎まれ口を叩いたりしませんから」

 ルシファーには、カツミの悪態がむしろ可愛らしく感じられた。余裕の笑みであっさりカツミの口を塞ぐ。


 ルシファー寄りを頂きました。てか、師匠は「るっしー」派だな(笑)

 ルシファーに寄ったかと思えば、カツミに寄る。しかも私の思惑がベッタリってのは、わーかーるー。こういうシーン好きだしなー。淡々とナレーション出来ないシーンだったようだ(おい)。


 疑問の表情を浮かべた相手から目を逸らし、ルシファーがすっと立ち上がった。言ったところで疑われるのは分かっている。なので、いつもの彼ならわざわざこんな忠告はしないのだ。『聞いた』ことが他人のためになるとは限らないのだから。

 ← 表現調整。ここはるっしーとカツミのつながりを深化させる大事な部分。しっかり印象付けましょう。

「半信半疑という顔のシドから目を逸らし、ルシファーがさっと立ち上がった。分かってる。能力者以外には信じてもらえない。『聞いた』ことを口にしても誰のためにはならない。分かってる。それでも……。ルシファーには、「それ」を忠告するべきだと思えたのだ。」……くらいかなあ。もうちょい揉んでください。


 んで、こうなりました。


 それは、A級の聞く者であるルシファーだけに分かること。しかし能力者ではないシドには眉唾ものの話だ。

 半信半疑という顔のシドから目を逸らし、ルシファーがさっと立ち上がった。いつものことだと思っていた。言ったところで疑われるだけだ。能力者以外には信じてもらえない。『聞いた』ことを口にしたところで、誰のためにもならない。それを証明できないのだから。

 真実が必ず幸せに結びつくとは限らない。でもルシファーは、今回ばかりは『それ』を忠告すべきだと思えたのだ。


 補足。

『聞く者』であるルシファーは、色んな情報や他人の思考を知ることが出来るが、それを証明することは難しい。内容が突飛であれば事実であったとしても正気を疑われるかもしれない。自分の立場が危うくなるかもしれない。また事実を暴露することが必ずしも全ての幸福に繋がるとは言えない。そこが『聞く者』の持つ葛藤。

 カツミはルシファーよりずっと強大な力を秘めているが、それを封印している。特殊能力を上手く制御出来ないカツミは、使うことでの弊害のほうか大きい。

 同じA級レベルの能力者である二人。最大の理解者となっていくんですよねえ。


 いつからこんなに手の届かない所に行ってしまったのか。自分がジェイのことを愛し続けようと思ったように、自分を好きになるために行動するカツミがいる。どんなに願っても失われるものならば、その事実を受け入れられる自分になろうとしている。全ては自分のために。自分を生かすために。

 ← 表現調整。シドのモノローグとしてきちんと整えましょう。ここでの最大の問題点は「自分」の使い方です。概念としての自分と、カツミ、シドそれぞれの「己」を示す「自分」が混じってしまっているんです。「相手」「自分」という言い方を安易に使い回すのは、本当によろしくないです。


「小声ながらきっぱりしたカツミの宣言を聞き、シドは深く考え込んだ。カツミは、いつからこんなに手の届かない高みに行ってしまったのだろう。俺がジェイのことを愛し続けようと思ったように、自分自身を好きになるため行動するカツミがいる。どんなに願っても失われるのなら、その事実を受け入れられる己に変わるしかない。カツミはそう決意し、努力しようとしているんだ。全ては自分自身のために。自分自身を生かすために。」


 あくまでも例です。ポイントは二点。クリアしてください。

(1)シドのモノローグとして整備し、ナレーションを混ぜないこと。

(2)「自分」の多重使用を回避すること。


 変更後。


『カツミは私を越えるだろうよ』

 その時、シドはロイの予言を思い出していた。カツミは、いつからこんなに手の届かない所に行ってしまったのだろう。あれだけ自虐的だったカツミが、みずからを好きになるために行動するなんて。

 ジェイの死からは、もう決して逃れられない。だったらもう、それを受け入れられる自分に変わるしかないんだ。みずからの、これからのために。


『自分』一個! シドのモノローグに統一。


 マイナススタートのカツミが、一気にシドを追い越していく部分。そして、取り残されたシドは……(^^;



 カクヨムで連載中のコレ。ずっと読んでるんですけどね。


 『きちんと学びたい人のための小説の書き方講座』 作者 フィルムアート社/フィルムアート社


 この手の書物で勉強なんてしたこともない処女作の『ONE』だけど、意外とポイントおさえてて「ほへー」となってますよ。まあ、つまりはスタンダードで王道な展開っつーことなのね。ははは。はは。


 長くなっちまったー! じゃまた!












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