第59話 はじめて校閲をしてもらった(12)
第四章第三話に入ります。
必ず5W1H込みで作話しましょうと指摘されました。
目的の場所には、以前と同じ人物の屈みこむ姿が見えた。カツミに気づいたユーリー・ファントが、すっと立ち上がると声をかけてきた。
← 表現調整。「目的の場所」「以前と同じ」は、わたし的にはだめ。
このお話、ボリュームがある上に、群像劇で登場人物の数が多いんです。絡みが多いカツミ、ジェイ、シドの三人以外の人物の行動は、読者がすぐに思い出せません。必ず5W1H込みで作話し、そこから何を省略、簡略化しても大丈夫かを考えてください。
上記のような書き振りになるのは、ナレーションとカツミのモノローグが混じっているから。カメラを俯瞰に戻して、ナレーションに徹しましょう。詳細に見て行きましょうか。
いつ→日暮れ前。これは客観的事実なのでOK!
どこで→墓地ではなく、ピンポイントにフィーアの墓、ですよね。カツミの行き先は、当然カツミ本人にはわかっています。作者がカツミになっちゃってるから、そこを省略してしまったんです。
誰が→カツミはいいけど、ユーリーがあとから提示されています。なのに「以前と同じ人物」という描写が先走るのはちと。これはカツミ自身の認識。つまり、ここもカツミのモノローグになってしまっています。
何を→酒盛りするために墓に行くバカはいないわけですから、当然墓参目的。それは誰でもわかる客観的事実なので、省略はOK!
どうした→カツミがユーリーの姿を認めた、ですから、「見えた」でOK! ただし、客観性を担保した書き振りが必要です。
ユーリーがカツミに「声をかけた」。事実描写ですから、カツミの感覚描写になる「かけてきた」はまずいです。
私がきちんと納得できる指摘をしてくれるのです(汗)
根拠をきっちりと示して、丁寧に優しく指摘してくれる。なので、納得すればすぐに書き換える。
論は正しくても私的な書き方で行きたい時は、論を踏まえた上で師匠の代案を超えてやるうう! と意気込む(笑)
成長させてくれる指導者って、有難い存在です。ほんと。
三話でもっとも変化したのは、カツミの長いモノローグ部分。改稿前と後を引用します。長いっすよ(小声)
改稿前。
その時──。乾いた風が通り抜けた。冬の気配を含んだ森の香が、カツミの髪をふわりと揺らす。寒風の通り道を見るように顔を振り向けた彼が、すっと息を飲む。
見渡す限り整然と並んだ墓石のただ中で、過去と今が触れ合っていた。
溶け落ちそうな最後の夕陽に照らされ、過去に蓋をした石の群れが一斉に輝く。カラカラとそれと戯れるように、風に飛ばされた枯葉が敷石の上を転がっていた。
時の止まった場所。過去を封じた場所。記憶を閉じ込めた石の箱。その冷たい石の群れが今、燃えるような陽の中で、立ち尽くすカツミに問いかけていた。
──生と死の意味を。過去と今の意味を。今までとこれからの意味を。
この時カツミは死に問われていた。死の宣告をされている者と、まだされていない者。そこに違いなどあるのかと。
ジェイに出された診断書。あれはまさに死刑宣告文だった。しかしそれと自分に課せられている任務との間に、どれだけの違いがあるのかと。
病死と戦死と自殺。全ての結果は同じ。無に帰すだけである。しかしこの一年の間、死の足音を聞きながらもジェイは伝えようとしていたのだ。
──それでも、生きたいと願うのは人の本能だと。どんな苦悩のうちにあろうと、ほんのひとかけらの希望があれば、人はそれに縋って這い上がるのだと。
ジェイは最後の拠り所になろうとしていたのだ。この自分が生きていたいと思う日まで。ひとかけらの希望に。最後のよすがに。
今の今まで、カツミはジェイが
ほんのさっき。ほんの少し前には、自分は自分にとどめを刺そうとしていた。自分のいのちに対して、価値など見出して来れなかったのだ。
それでも、砂漠に水を注ぐような虚しいことを、ジェイはずっと続けていた。何でもないように、死と隣り合わせのこの場所で。何でもないように、死への恐怖を押し殺して。
死はいつか必ず訪れる。どんな形をとっても訪れる。ならば。死がもう決まっているのなら。注がれ続けてきたものを返していかなければ。求められているものを知らなければ。
誰にも明日など確約されてはいないのだ。それでも、この断崖の細い道をどんな人でも歩いていく。皆が同じ宣告文を手に。わずかでも道の先に光がある限りは……。
カツミは驚いていた。自分にもまだ、そんな気持ちが残っていた事実に。 そして恥じていた。愛しい人の死を目前にするまで、ずっとただ甘えていた自分を。
改稿後。
カツミが頷きを返した時、ザアアと大きな音をたて、乾いた風が通り抜けた。冬の気配を含んだ森の香が、彼の髪を撫で上げる。寒風の通り道を見るように振り返ったカツミが、視界に入った幻想的な光景に息を飲んだ。
見渡す限り整然と並んだ墓石のただ中で、過去と今が触れ合っていた。溶け落ちそうな最後の夕陽に照らされ、過去に蓋をした石の群れが一斉に輝きだす。その光輝と戯れるように、風に飛ばされた枯葉がカラカラと敷石の上を転がっていった。
時の止まった場所。過去を封じた場所。記憶を閉じ込めた石の箱。その冷たい石の群れが今、燃えるような陽の中で立ち尽くすカツミに問いかけていた。
──生と死の意味を。過去と今の意味を。今までと、これからの意味を。
この時、カツミは死に問われていた。死の宣告をされている者と、まだされていない者。そこに違いなどあるのかと。
ジェイの診断書はまさに死刑宣告文だった。しかし、それと自分に課せられている任務との間に、どれだけの違いがあるのかと。
死は厳然として揺るがない。けれど生きてる者だって、いつ死ぬなんて分からないんだ。ほんの紙一重の差のなかで、分からない余命のなかで、どんな人でも生きている。
視界いっぱいに並んだ石の群れが、神々しく飴色に輝いていた。モアナの光は、分け隔てなく冷たい石を照らしている。
死は平等だ。そして死刑宣告文を持つ全ての生者も、死から逃れられないという点では平等なんだ。なのになぜ俺は、必然の死ばかりに囚われているんだろう。今に生きられないんだろう。
ジェイは自分の余命を知ってたんだ。ずっと死の足音を聞いていた。それなのに、俺に生きてほしいと言い続けていた。騙してたんじゃない。言えるわけがない。死にたがりの俺に自分の余命なんか。
いのちを削ってでも俺を生かそうとしたのはなぜだろう。砂漠に水を注ぐような虚しい時間だったろうに。ジェイはなにを求めている?
どんな愛情も受け取ることが出来ずに、俺は満たされなかった。ずっと足りないと求め続けた。この手から、なにひとつ手渡すことなく。
ほんのさっきだ。俺が自分にとどめを刺そうとしていたのは。いのちなんて、俺にはその程度のものだった。自分に価値なんてないと思っていた。
それなのに、死期を察しながらもジェイは俺を生かそうとしている。最後の時間を注いでくれる。
このまま逃げ出していいのか? ジェイに返すものがあるんじゃないのか? 時間は待ってはくれないのに。明日なんて誰にも分からないのに。
カツミは驚いていた。自分にもまだ、こんな気持ちが残っていた事実に。そして恥じていた。ジェイの死を目前にするまで、ずっとただ甘えていた自分を。
──束ねるものと出会いなさい。これから連綿と続く、この国を束ねてゆくものと。そのものの指し示す事々に従いなさい。この混沌を救う神に出会いなさい。
カツミに求められているものを示す声。能力を封印した彼に、その声はまだ……届いていない。
ナレーターとモノローグの分離が出来ているなら、上手く行ってるはず。
ジェイの死を眼前に突き付けられたことで、カツミの死生観がようやく変化したシーン。モノローグをしっかり書く所だよなあ。
ダメな所をしっかり認識する。それをちゃんと書く。これって、キャラクターにどっぷり入り込んで書く作者にとっては、むちゃくちゃ恥ずかしいんですわ。逃げたくなるし、流したくなる。でも、それじゃダメ。
言い訳、かっこつけ、屁理屈、こじつけ。全部ダメなのよん。
ここでカツミが「自分は甘ったれで、それを当然のことだと思っていた馬鹿者だったんだ」と分からないとねえ。
クワッ! /////// じたばたじたばた! (カツミの着ぐるみを着たまま)
んじゃ、今回はここまで。次は四話です。うひー!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます