1-7 断行/65AD 884C

 関所の門から、長大な貨物車が現れ車留に止まる。側面の扉から、濃紺色の衣の上より小札甲こさねよろいに身を包み、長身の小銃、腰に太刀を刀子とすを帯びた男たちが降りてくる。その内には、胴輪とその胴長ほどもある軽銀合金の容器を背負った、白犬が降りてくる。


「お待たせいたしました! イヌサカケナ様。ハウキ国の叛逆組織調査、恙無つつがなく進行いたしました」


「ご苦労様。その様子だと思ったような釣果は無かったように見える」


「寧ろそうなると分かっていた口振りね。イヅモとアサクミいちの営業所に殴り込んだ時も、ここへ向かう車内でも同じようなことを言っていた。何かを探り当てるためにオオネを動かしていたの?」

 そう兵とケナ、オオネに疑問を述べるわたしを、ケナは細賢こまさくれた児だと思っていた模様。一方そんなわたしに兵はケナと同じ態度にて応じる。


「ええ、その方よりお借り受けた鼻のおかげで多少の手掛かりは得られました......。オオネ、説明を頼めるか?」


 凛々しい顔をしたその犬は滔々とうとうと所見を述べたが、その様には生身の犬には見受けられない、強い意志の存在があるように見える。

『親愛なる王女殿下のために我が蛮生の口より説明すると...... ナガト隊伍商団の活動範囲はナガトを拠点に、東の端はイナバまで。これは靑鰉国の承認に基づく範囲内に収まっており百禽とはタヂマやタンバを窓口に取引を行っている。

 運送従事者は主にナガト・イヅモ・タンバ、この三拠点に集まっているのだが...... 知っての通り靑鰉周辺にて事務を行う管理者達は雲散霧消だ。この事態を察知して雲隠れしたとしか思えん、それはハウキ国支所も例外なくな』


「そこのみをオオネが調査した...... 何か予測があったのね」


『今ここにいるヨミの港支所はハウキと靑鰉の都との窓口であり、ハウキを出た物資はタンバとを行き交う。その間にある人的資源は多大であり、かなりの数が東へと流れている痕跡が見受けられた。このように露骨に夜逃げを図っているのも驚きだが同時に、残留している人員の存在も見受けられる。恐らくは何かを百禽へと運ぶためにな......!』


「その決定的な証拠はあるの?」


「輸送車両の大口発注、多人数の活動痕跡...... それしか俺とオオネで掴めてはいない。全ては残された帳簿や整然とされ隠蔽の図られた現場などの状況証拠でしか無いが、......幸いにもまだ全てをここから運び出せたわけでは無いようだ。それを今から確かめにいくんだよ」


 二人の兵がゆっくりとわたしの側に近づいてくると、うち一人が膝を折りわたしに語りかける。兜を外したその面はケナがほとんど向けてこない、安心感を持たせるような微笑みが向けられている。

「オオネの護衛任務はここで引き渡しがし済んだことにより完了致しました。ここからは貴女の護衛に移ります」


 その向こうでケナはおもむろに衣を脱ぐと、黒い板付の帷子かたびらを着込み、袴の上に脛当てを着けだした。

「ところで、あなたの背負っているその箱は?」

 ケナの常ならぬ面持ちと同時に、オオネが背負う大箱がとてもきになる。


『ああ、見るか? 女子どもの触るものじゃない、そこだけは約束してくれたまえ』

 パシュッ、という音とともに独りでに箱が開くと、そこには...... 名状し難い構造の長筒が座していた。

「なにこれ。おもそうな銃」


「百禽製新式の軽機関銃かよ。おい、こんなもの取り寄せて何しようってんだよ」

 アラヤの厳しめな声に寄せられて、帷子の上に衣を着直しながらケナが歩んでくる。近づくと徐に銃を取り出し、弾倉と弾帯を取り付け出した。

「さっきの支店だって人っ子一人いない見込みなものの相応に警戒はしてた。だが銃は構えてなかった! だろ?」


「ああ、話を聞くだけだ。だから普段着の見せかけで入るしこいつは黒布で隠す」

 そう言いながらもケナは棹桿こうかんを引いて、弾を慣れた手つきで送り込んでいた。


「妻帯者がしていい無茶じゃねえよ馬鹿野郎。兵士が控えているとはいえお前の後ろには荒事の苦手なひよわ男と姫さんがひかえてんだぞ、分かってんのか」


「後詰めとなりゃ組織の重要人物即ち軍人上がりはそんなにいないだろうが、オキの舟留でドンパチやった奴らだ、警戒するしかねえに決まってるだろうよ。お前らは引っ込んでな」


「姫様と奥方泣かせるわけにゃーいかないから俺も付いて行く代わりに約束しろ、話を聞くだけだってよ」


「可能な限り発砲は避ける。なに、今回は俺の仕事じゃねえ。あくまで連合捜査局の山であってお前の付き添いだからよ」


「頼むぞ」

 勢いよくオオネの担ぐ、機関銃の箱を叩き閉める。その場にいたほぼ全員が怪訝そうな表情をしていた。




 静かだ。

 絶対零度のように張り詰めた空間で睨み合いが暫し続いた。内からは八人の男の鋭い視線が、そして外からはケナが黒布に包んで床に銃身を付けた機関銃を構え、暗い室内の方を呼び出しをかけてより何も言わず睨んでいる。そしてその傍らには...... 脂汗をかきながら不安そうに兵の背中に隠れるわたしを見てくるアラヤもいた。


「なんだあ? 手前てめえ

 静寂を切り裂くように内より声が響いた。隊伍商団の支店営業所は割と大きな施設で、労働者の通りが多い。明らかにただならぬ雰囲気に通りの人々は立ち止まっているが、その声に静かに度胆を抜かれたか静かに浮き足立ち始めた。


「他のところが営業停止していた故調べに来た。現場責任者を呼んでこい! 大人しくしていてくれれば悪いようにはしない」

 そうケナが音を響かせた瞬間、剣と拳銃の閃きが六人分響き渡る。それを見た瞬間黒布が外へと翻り、布を裂くような銃声がひっきりなしに響き渡った。

 

「ひぃっ、へあああああああっ」

 屈み込みへたり込んでいた二人の若人と老人が、奥の裏口へと次々に逃げて行く。中には撃たれていないが失神している者もいた。


「おい...... 発砲は避けるって......」


「避けたさ。実際武器を構えた奴らしか殺してない」


「余計なことを......。また末端の作業員が危険な目に遭うだろうに」

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